第21話「髪と、宝石」
村の名前が変わったからといって、何かがあるわけでもなく。
あの日以来、俺はまた村役場に住み込んでいた。
やっていることはといえば、ひたすらに高品質な氷の開発だ。
目標は、輸送に耐え得る程度に溶けづらく、扱いやすいものを作ること。
まず手始めに、魔法で氷を作っては、溶けるまでの時間を計測していった。
水を凍らせるときの方法、そして溶かす際の気温や湿度などの条件を変え、ひたすらに計測。
氷の扱いが大体わかってきたら、元の世界の記憶を頼りに溶けづらい氷に近付けていく。
幸い、この村は使いきれないほどの水が採れるらしく、材料となる水の心配は要らなかった。
盆地という地形が、周りの山々からの湧き水や地下水を集めているらしい。
そこに遠慮はいらないとナスレグ村長も言ってくれたので、計測作業は一気に進んだ。
計測を続けて改めてわかったことだが、氷は作り方によって溶けるまでの時間が大きく変わってくる。
氷の見た目が透明で、濁っていないほど高品質───つまり、溶けづらいのだ。
これ自体は当然のことなのだが、それを実現するのが中々難しいもので。
何も考えずに魔法で作った即席の氷は、まるで冷蔵庫で作ったように白く濁ったものだった。
もちろんそれはすぐ溶けてしまい、とても売り物になるようなものではなかった。
例えば雪国にできるつららのような、完全に透明なものを人工的に作れれば良いのだが。
そう思い、天然氷の採集のために数日かけて北方の山奥の湖にも行ってきた。
そこは木々も凍るような、酷寒の地だった。
過酷な環境ではあったが、そこでは荷馬車いっぱいの氷を採ることに成功した。
連れて行ったコルヴィは始終死にそうな顔をしていたが、彼の炎熱魔法は暖を取るのに役に立った。
もっとも、俺はこちらに来てから冷気に対する耐性ができているようで。
炎熱魔法で暖を取っていたのは、ほとんど彼だったのだが。
そうして採ってきた氷の山も、フリージアの村に持ち帰ってから一週間もしないうちに溶けてしまった。
しかし、確実に収穫はあった。
まず、どれだけ氷の品質を良くしても、持ち運ぶには保冷の処置が必要であることに気付けた。
そして、溶けてできた水を再度凍結させてみたりもしたのだが……。
それもやはり、無色透明とはいかなかったのだ。
つまり天然氷が溶けづらくなる理由は、水質などによるものではないということがわかった。
それらを踏まえ、とにかく透明な氷を作ることをゴールとして実験を重ねる。
───そして、開発を始めてから半月と少し。
ようやく、ひとつの試作品が完成した。
「どうだ?」
俺たちの前にあるのは、透き通る氷の塊。
試しにそれを片手サイズのボール状に切り取り、コルヴィに持たせてみる。
「冷てェ」
「毎回それしか言わないよな、コルヴィは」
「あァ?
それ以外どんな感想を持てってんだよ」
「よし、じゃあついでに硬さも調べておくか。
ひとまずコルヴィにぶつける形で」
「なるほどなァ?
しかし俺の身体じゃ、熱すぎて溶けちまうかもしれねェからよ。
お前のその硬ェ頭にもぶつけてやるよ、フード付き」
「はは、冗談だろ。
俺がコルヴィの投げた球になんて当たると思うか?」
「お?」
「ん?」
「……よしわかった。
いっぺんやってみりゃ早ェことだな」
「望むところだ」
「お、お二人とも、やめましょう……!」
氷塊を手に臨戦態勢に入った俺たちを止めたのは、アデレニエだった。
「せ、せっかくできた試作品ですから、もっと大事に使いましょう……?」
以前、俺とヴェルニグに差し入れをもってきてくれた女性。アデレニエ。
彼女は先の騒動の際に家と畑を失っており、手持ち無沙汰となっていた。
そのため、今は俺たちの氷作りに参加してもらっているというわけだ。
「チッ……命拾いしたな」
「こっちのセリフだ」
「え、えっと。
硬さを調べたいというのは、氷同士をぶつける……ということですよね?」
「ああ、そうだ。
今までの方法で作った氷と、今回できた透明な氷。
ぶつけてみて、強度を確かめる。
もしヒビが入るなら、どういう形で入るかも記録だな」
「わ、わかりました。
準備いたしますね……」
驚くべきことに、アデレニエの氷雪魔法の素質はかなりのものだったのだ。
そして彼女の魔法の傾向も、俺たちの実験に適していた。
サフィーアの言っていたとおり、氷雪系魔法にも様々なタイプがある。
代表的なものとして、二つ。
ひとつは、何も無いところに氷や雪を生み出すタイプ。
つまり、マナを直接氷に変換する方法を得意とするものだ。
そしてもうひとつは、既存の物質を凍らせたり、水を氷に変えてしまうことを得意とするもの。
アデレニエが得意とするのは、後者だった。
すでに存在する水や物体を凍らせる凍結タイプは、理屈としては俺の魔法にも近いのだろう。
同じ量の氷を作るとしても、前者よりもこちらの方がマナの消費が少なくて済むらしい。
つまり、水を素材とした氷作りには適しているというわけだ。
「で、できましたよ」
「おっし。
じゃあコルヴィ、頼むぜ」
「おうよ」
同じサイズの氷球を二つ作り出し、コルヴィに持たせる。
片方は、やや白く濁った従来のもの。
そしてもう片方は、ほぼ透明に近い試作品。
「ふンッ!!」
掛け声と共に、コルヴィの胸の前で氷が砕け散る。
「おー……見事に片方だけ残ったか」
「同じ力でぶつけたつもりだが……残ったのは透明な方だけだな。
ヒビすら入ってねェ」
「バッチリだな。
ヒビがないってことは、無駄な空気なんかも入ってないってことだ。
合格ラインだな」
「あ、あとは、溶ける時間……ですね?」
「そうだな。
大きさ毎に分けて、いつも通り屋内で計測しよう」
「おう。
デカさはいつもの五種類でいいか?」
「ああ。
切り分け、頼むぜ」
そうして、溶けるまでの時間も計測していたが……こちらも想定していた合格ラインをクリア。
これなら、輸送にも耐え得るだろう。
「や、やりましたね……!」
「ああ。
ついに完成ってとこだな」
「で、では。
私も、作り方を覚えないとですね……」
「そんなに難しくないはずだけどな。
でも……交易ができるほど大量に作るとなると、俺やアデレニエだけじゃ厳しいからな。
他の人間でもすぐ出来るように、製法を定型化しておこうぜ」
「そ、そうですね」
透明な氷を作るコツは、こうだ。
まず、元となる水は地下の湧き水を使う。
汲み上げる際には衛生面に注意を払い、できる限り不純物が少なくなるように注意する。
そしてそれを、凍結させるための容器に入れる。
今回使った容器は、1メートル四方ほどの立方体で、天面が開いているものだ。
その容器は側面を外側に引っ張れば四方全てが展開するようになっており、完成したサイコロ状の氷をスムーズに取り出せるようにしてある。
ちなみにこれは金属で出来ており、わざわざフレイミアに行ってまで頼んだ特注品だ。
こちらに関しては、コルヴィのツテで腕のいい板金職人を頼らせてもらった。
そこから本格的に凍らせるのだが……こちらは、十分な時間をかけて行う。
この大きさの容器の場合、丸二日ほどかけてゆっくりとだ。
そうすることで、冷凍の過程で水の中から空気や不純物が自然と取り除かれていく。
最終的に僅かな不純物が氷の中に残ってしまうが、それらは氷の底面に溜まる。
しかしこちらは輸送の際に優先的に溶けてくれるので、むしろ都合が良かった。
たとえばここからフレイミアに運ぶとすれば、上から八割ぐらいの氷が残る計算。
そうして現地に到着した頃には、自然と無色透明な氷だけが残っているというわけだ。
これは言うまでもないが、氷は大きければ大きいほど溶けづらい。
今は一メートル四方だが、もっと巨大な容器で作れば実際に輸送した後も一週間はもつだろう。
もし現地に貯氷庫を作れるとしたら、保存期間はさらに長くなる。
売り物にするには、十分な質だろう。
「ってのがおさらいになるが……今回の作り方で、なんか気になるところはあったか?」
「え、えっと……。
問題という問題ではないのですが、二人だと、少し体力的に厳しいところが……」
「あー、それは俺も思ったな。
やっぱり、辛いか?」
「そ、そうですね……。
ひとつだけならいいのですが、連続で何個も、というのは厳しいと思います」
「そうか……そうだよな」
試作品とはいえ、今回の製氷にも丸二日という時間をかけた。
このサイズですら、それほどに時間をかけないと透明な氷にはならないのだ。
二日間。つまり48時間もの間、凍結の魔法を行使し続けるのだ。
今回は六時間の交代制で俺とアデレニエが行ったが、さすがに後半になってくるとマナや体力の消耗を感じた。
ここからさらに量を作るとなると、手法の改善は必須事項だろう。
「まぁ、人数を増やすのが単純な方法だな。
三、四人で担当できれば、負担も減るんだろうが……」
「私も、魔法は得意な方だと思ってたんですが。
それでも二日目は、体力よりもマナの消耗が辛かったですね……」
「んー……なるほど。
そっちの改善方法については、一つアテがあるな。
今度までにやっておくことにするよ」
「ま、マナを供給する方法が、ですか……?
そんな画期的な方法、聞いたこともありませんが……」
「実は、な。
まだ言えないけど、期待しておいてくれ」
「は、はい……。
さすが騎士様、ですね。
私の知らないことをたくさん知ってらっしゃいます……」
「いいや、たまたまだよ。
あと、騎士様もやめてくれって言っただろ?
なんかむず痒いぜ」
「す、すいません。
トーヤ、さん……」
「謝られるとこっちも困るんだけど……まぁいいか」
実は、アデレニエをこの件に誘った時に、彼女から敬語はやめてくれと言われたのだ。
その際にこちらも、と言ったのだが……内向的な彼女は、なかなか直すことができないようだ。
「あとは人数に関してだが……これは、儲けが出てから魔法が得意な人間を雇うしかないかな。
だからそれまでは、どうしても俺とアデレニエで担当することになる。
また近いうちに頼むと思うけど、頼っていいか?
マナの問題の方は改善しとくからさ」
「は、はい。
私なんかでよければ……!」
「ありがとう。助かるよ」
「新しいお家を建てていただけるのです。
私も、なにか恩返しをしないとですから……!」
それに関しては、怪我の功名というやつだ。
俺からしてみれば、そもそも『家が失くなったのはコルヴィたちのせい』と言いたいところなのだが、怪我を怪我と思っていない彼女にしてみれば、幸運ともとれるのだろう。
どうやらアデレニエは、幸薄そうに見えてなかなかポジティブなようだ。
いや、幸が薄いからこそ……なのだろうか。
ともかく、これで『製氷方法の確立』という一つ目の目標が終わった。
半月以上がかかったが、納得のいく出来になったと言っていい。
そして気付いた時には、村ではすでに建築のための炎熱の民が動いていた。
今は、建築の期間中に彼らが生活するための掘っ立て小屋を作っているところらしい。
それが完成し次第、本格的に住み込んで動き出すとのことだ。
───というのが、三度目の定期報告会でのブランシュの話。
「進捗は以上だ」
「ありがとう、ブランシュ」
俺が氷作りに勤しんでいる間に、ブランシュはフレイミア側の仕事をしてくれていた。
建築のための土地の下見に、業者の手配。
住み込みが始まったあとの物資や食料の輸送計画などもだ。
そちらは予定より早いペースで進んでいるらしく、さすがは軍の上層部様の采配といったところだろうか。
「他に、何か気になるところは?」
「そういえば、前に頼んでた件。
俺の仕事用の小屋は作れそうか?」
「そちらも準備している。
東の塀を超えた所に予定しているが」
「そうか。
ありがたい……んだけど、ちょっと予定を変更したい。
村の西側に頼めるか?」
「反対方向に?
交易をするために東側に、という予定だったはずだが……何かあったか?」
「いや、実は……ゆくゆくはそこを貯氷庫にしようと思ってな。
氷を作るためには、龍脈に近い方がいいって気付いてさ」
「龍脈に……?」
「ああ。
実は、製氷ってのは二、三日かかるんだ。
しかも、誰かがつきっきりで魔法を使わないといけない。
予想以上にマナの消耗が激しかったから、龍脈の力をちょっと拝借しようと思ってな」
「なるほど……西側の方が龍脈に近いからか。
ならばそのように手配しよう」
「助かるよ」
アデレニエに言っていたマナ消耗の対策とは、このことだ。
前に四人で行ったあの祭壇は、この村のすぐ西にある。
なので、少しだけ龍脈の封印を弱めてマナの供給を増やそうという魂胆だ。
しかしもちろん、俺の独断で封印を勝手にいじることはできない。
このあたりの話は、さすがにサフィーアの許可が必要だろう。
───というわけで、俺は久しぶりに王城に戻ってきていた。
「そういうわけだ」
「順調そうで、なによりね」
「で、どうだ?
封印を弱めるっつーのは、できそうか?」
「できるんじゃないかしら?
一応、変な影響が出ていないかを確認するために、弱めたあとに各地のマナの濃度を測る必要がありそうだけれど……」
「あの村の方向にだけマナを多めに流す、とかはできないのか?」
「うーん……技術的には可能なのかもしれないけれど……。
あの封印も、実はよくわかっていないのよね。
ただ、私たち王族のような、時魔法に強い適性を持つ者だけが開けられるように出来ている、ってことだけ。
ミラーヤが言うには、私が生まれるよりもずっとずっと前。
きっと、国が出来たときぐらいに施されたものらしいのだけれど……」
「いわゆるロストテクノロジー……失われた古代の技術ってやつか」
「そういうことね。
だから下手に触って、変なことになるのだけは避けたいのよ」
「そうか。
んじゃやっぱり少しだけ弱めてもらって、念のため各地の調査をするって方向でいくか」
「ごめんなさいね」
「いや、こっちこそ申し訳ない。
素人考えで変なこと言っちまった。
……それに、各地の調査っつーのもちょうどいいと思ったしな」
「あら、何かあるの?」
「フレイミアにもってく、特産品の選定だよ。
各地っつーのは、クロキアの色んな場所ってことだよな?」
「なるほど……そういうことね。
各地を回って、珍しいものや美味しいものを探してくるのね」
「ああ。
調査のついでにいけるなら、またとない機会だぜ」
「そうね。
じゃあ顧問魔術師のトーヤさんには、王様から直々にクロキア全国食べ歩きの任を与えましょうか」
「役得、ってやつだな。
なんなら、一緒にくるか?
城下町以外の有名なモノも、サフィーアなら知ってるだろ」
「残念ながら、こちらは誰かさんのせいで大忙しなのよ」
「そうか、なら仕方ない」
「それに、私の知識だって古いかもしれないもの。
偏った情報で先入観ができてしまうよりも、貴方自身の目で確かめる方が大切よ」
「ま、そう言われれば」
サフィーアの目の前には、またも山盛りの書類が置かれている。
全部とはいかないが、俺のやろうとしていることに関する仕事も割合あるのだろう。
「……それで、封印の調整はいつにするの?」
「俺はいつでもいいんだが」
「じゃあ、明日にしましょうか」
「なんだ、忙しいんじゃなかったのか?」
「ここ最近、息抜きもできていなかったもの。
私もちょうど、身体を動かしたいと思っていたのよ」
「さいで」
────
──
翌日、俺たちは昼前には地下の龍脈に到着していた。
「どうだ、できそうか?」
「ちょっと待って頂戴ね……」
サフィーアが石門に手をかざし、探りを入れる。
すると間もなく、ガリガリという石が擦れる音がした。
俺が前に開けたときと同じ音だが、今度は封印が解けた気配はしなかった。
「はい、できたわ」
「マジかよ……。
なんつーか、あっけないな」
「できるということは知っていたもの。
実際にやってみたことが無かっただけよ」
「なるほど」
そして俺たちは階段を上り、入り口の封印を再度施す。
どうやら、地下の封印はマナの量の調整役として。
そして地上の封印は入り口の偽装役として、別々の機能を持っているらしかった。
「さて、じゃあ城に帰って昼飯にするか」
「ええ」
────
──
城下町の東入り口に着いたとき、サフィーアが口を開いた。
「ねえトーヤ。
貴方は今日、何か予定はあるの?」
「いや……明日からの準備をしようと思ってたぐらいだが」
「各地を回るための、旅の準備ね」
「そうだな」
「じゃあ、お買い物に行かないとね?」
「まぁ……そうだが」
「ふふ……なら、ちょうど良かったわ。
私も日用品の買い出しに行こうと思っていたの。
せっかくだし、一緒に行きましょう?」
「……特段、断る理由はないな」
「決まり。
じゃあ、このローブは要らないわね」
そう言って、サフィーアはローブを脱ぐ。
ローブの下から現れたのは、いつもと違う服装のサフィーアだった。
それは、王様と言うには質素すぎる装いで。
「……お忍び、ってやつか?」
「ええ。
折角だし、髪型も変えちゃおうかしら」
サフィーアは懐から髪留めを取り出し、長い髪を後頭部で一纏めにした。
「どう?
ここまですれば、立派な村娘じゃない?
少なくとも、王様には見えないんじゃないかしら」
着なれない服を確かめるように、サフィーアがくるりと回る。
まとめ上げてなお腰の下まであるポニーテールがぽふりと揺れて、まるでミラーヤの尻尾のようだった。
「……そうだな」
街中で王様だと気付かれると、きっと色々と面倒なのだろう。
だからこその、変装。
───しかし、俺はサフィーアの言葉に曖昧な返事をするしかなかった。
なぜならこの変装は、彼女のことを知っている人には間違いなく見破られてしまうだろうからだ。
決して、変装の出来が悪いわけではない。
むしろその質素な服や靴は、どこにでもいる村娘そのものと言っていい。
こういう時のためにきっちりと庶民らしいものを選定し、普段は衣装棚の奥にしまってあるのだろう。
だが、それこそが俺を苦笑させる理由だった。
服自体は、質素なのだ。
質素なのだが……どこを見ても皴やほつれが見当たらないのが一番の問題点だった。
つまるところ、『着古した』感じが全くと言っていいほど無いのだ。
地味さと小綺麗さが同居するそのアンバランスさは、ただの村娘には程遠いものだった。
加えて言えば、サフィーア自身の所作もそうだ。
カップの持ち方や、歩き方一つをとったとしても。
彼女の一挙手一投足には、王族の気品のようなものが染みついてしまっている。
それらはおよそ庶民と呼べるものではなく、良くて『貴族のご令嬢』といった所だろう。
「ふふ。
じゃあ、行きましょうか」
しかし、上機嫌で笑うサフィーアにそれらを指摘するのは無粋というものだった。
彼女は今日、わざわざローブの下にこの服を着てきたのだから。
ミラーヤに一言いえば揃うであろう日用品を、自らの手で買うために。
「……んじゃ、まずは飯でも食うか。
いい店を知ってたら教えてくれよ、『村娘のフィーニャちゃん』」
「ふふ……よろしい。
なら、まずは下町にいきましょうか」
「そうだな。
できるだけ安くて、量の多い食堂を探そうぜ」
「まあ。
それは素敵な提案ね。
私たちのような庶民には、ピッタリだわ」
俺は目の前で揺れる宝石の付いた髪留めに、何度も笑いそうになりながら。
サフィーアに連れられるようにして下町に向かったのだった。
毎日昼12時に、一話ずつ投稿予定です




