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# 第四章 ## 「未来を消す者」

# 第四章


## 「未来を消す者」


---


夜。


城下町は祭りの準備で賑わっていた。


明日は年に一度の“星灯祭”。


人々が願いを書いた灯を空へ流す日だ。


だがその華やかさとは裏腹に、ミラの心は沈んでいた。


(死亡予定日が……消えた)


宿の窓辺で、彼女は未来観測装置を見つめる。


何度確認しても表示は変わらない。


『未来記録:再構築中』


ありえない。


未来記録は絶対だった。


誰がどこで死ぬか。


どこの国が滅びるか。


その全てが、歴史として固定されている。


はずだった。


「……なんで変わるの」


ミラは小さく呟く。


答える者はいない。


しかし。


コン、コン。


窓を叩く音。


嫌な予感がした。


ミラはゆっくり振り返る。


そこには──


逆さまにぶら下がるレオンがいた。


「何してるんですか!!!?」


「会いに来た」


「登場の仕方がおかしい!!」


レオンは窓から普通に入ってくる。


しかも笑顔。


「祭りへ行かぬか?」


「今その空気じゃないです」


「空気は読めぬ」


「知ってます!!」


レオンは首を傾げる。


「元気がない」


ミラは目を逸らす。


言えるわけがなかった。


あなたの未来が消えた、なんて。


レオンは少し考えてから、懐から何かを出した。


小さなパン。


しかも星型。


「……なんですかそれ」


「慰めだ」


「雑」


「甘いぞ」


「ちょっと気になる」


ミラは思わず受け取ってしまう。


ひとくち食べる。


「……おいしい」


「だろう?」


なぜかレオンが誇らしげだった。


「あなた作ってないですよね」


「民が作った」


「なんであなたが得意げなんですか」


レオンは笑った。


その笑顔は、驚くほど自然だった。


未来で見た“冷たい皇帝”の面影は、どこにもない。


だからこそ怖い。


(未来が壊れてる)


(このままじゃ、本当に──)


その時だった。


ゾクリ、と。


背筋が冷えた。


ミラが立ち上がる。


「……誰?」


レオンの表情も変わる。


窓の外。


屋根の上に、一人の男が立っていた。


黒い外套。


赤い瞳。


感情のない顔。


「未来観測者ミラ」


男は静かに言う。


「時間干渉違反を確認した」


ミラの顔から血の気が引く。


「……クロード」


レオンが眉をひそめる。


「知り合いか?」


ミラは答えない。


答えられなかった。


クロード。


未来管理局・執行者。


未来を変えようとする者を、“消す”存在。


クロードは冷たい目でミラを見る。


「歴史修正対象を確認」


「対象──皇帝レオン」


その瞬間。


空気が凍った。


レオンは静かに前へ出る。


「朕に何か用か」


クロードは淡々と答えた。


「お前は、本来ここで孤独になる」


「だが未来が変わり始めている」


「よって、修正する」


次の瞬間。


クロードの指先から黒い光が放たれる。


速い。


ミラの顔が青ざめる。


「危ない!!」


だが。


レオンは避けなかった。


代わりに前へ出た。


ミラを庇うように。


黒い光が直撃する──その瞬間。


光が砕けた。


クロードの目が初めて揺れる。


「……なに?」


レオンの周囲に、淡い金色の光。


優しく、温かい光だった。


ミラは目を見開く。


(これ……未来には存在しない力)


レオン自身も驚いていた。


「なんだこれは」


クロードが初めて表情を変える。


「観測外の力……?」


レオンは困ったように頭をかく。


「すまぬ。よくわからぬ」


「わからないで防がないでください!!」


緊張感が壊れる。


だがクロードだけは笑わなかった。


赤い瞳が、静かにレオンを見る。


「危険だな」


その声は冷たかった。


「お前は、未来そのものを壊す」


ミラが叫ぶ。


「やめて!この人は──!」


しかしクロードは聞かない。


「未来は決まっていなければならない」


「誰か一人の感情で変わってはならない」


レオンが小さく呟く。


「……感情で変わるのは、悪いことか?」


クロードは即答する。


「悪だ」


その瞬間。


レオンの顔から笑みが消えた。


初めてだった。


彼が怒ったのは。


「なら」


静かな声。


「朕は、悪でいい」


空気が震える。


ミラは息を呑む。


レオンは前へ出る。


「民が笑う未来を守れるなら」


「そなたが泣かぬ未来にできるなら」


「朕は、何にでもなる」


その言葉に。


クロードの目が細くなる。


「……なるほど」


「未来が壊れるわけだ」


次の瞬間。


クロードの姿が消える。


静寂。


風だけが残った。


ミラは膝をつく。


呼吸が乱れる。


レオンが慌ててしゃがみ込む。


「大丈夫か!?」


ミラは震えていた。


恐怖だった。


未来が変わることへの恐怖。


そして。


この皇帝を失うことへの恐怖。


それを自覚してしまった。


レオンはそんな彼女を見て、静かに言う。


「未来が何だろうと」


「朕は、そなたを守る」


ミラは顔を上げる。


月明かりの中。


皇帝は不器用に笑っていた。


その笑顔が──どうしようもなく眩しかった。


---


だがその頃。


遠く離れた場所。


巨大な時計塔の中で、一人の女が目を開く。


銀色の髪。


冷たい瞳。


彼女は静かに呟いた。


「レオンが、“目覚め始めた”?」


そして薄く笑う。


「面白い」


机の上には、一枚の写真。


そこには──


未来のレオンと、ミラが映っていた。


幸せそうに。


まるで恋人のように。


---


## 第四章・終


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