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# 第五章 ## 「星灯祭と、皇帝のはじめての願い」

# 第五章


## 「星灯祭と、皇帝のはじめての願い」


---


翌日。


帝都アルヴェリアは、祭りの熱気に包まれていた。


空には無数の灯り。


通りには屋台。


子どもたちの笑い声。


そして、どこからか漂う焼き菓子の香り。


年に一度の“星灯祭”。


願いを書いた灯を夜空へ流し、星へ届ける祭りだ。


「すごい……」


ミラは思わず立ち止まる。


未来では、この祭りは存在しなかった。


十年後の帝都には、笑顔なんてほとんど残っていなかったから。


「気に入ったか?」


隣でレオンが笑う。


今日は妙に気合いが入っていた。


マント良し。


髪型良し。


変なヒゲなし。


だが──。


「なんでそんなに堂々としてるんですか」


「今日は変装が完璧だからな」


「いや全然です」


周囲の人々がヒソヒソ話している。


「あれ皇帝陛下じゃない?」


「え、隠す気ある?」


「でも楽しそうだからいいか……」


全部バレていた。


レオンは気づいていない。


「民との距離が近いな」


「近いというかゼロです」


ミラは頭を抱える。


だが不思議と嫌じゃなかった。


未来で“恐怖の象徴”だった皇帝が、今は子どもに綿菓子を奢っている。


歴史が狂っている。


でも。


その狂い方は、少しだけ温かかった。


---


「陛下ーー!!」


突然、子どもたちが駆け寄ってくる。


「昨日パン売ってたお兄ちゃんだ!」


「パン皇帝だー!」


「誰がパン皇帝だ」


レオンは真顔だった。


だが少し嬉しそう。


子どもたちは無邪気に笑う。


「今日もスープ作るの!?」


「作る」


「やったーー!!」


ミラは吹き出した。


「皇帝の人気の取り方がおかしい……」


その時。


小さな女の子が転びそうになる。


レオンは即座に支えた。


「危ない」


少女は目を丸くしたあと、小さく笑った。


「ありがとう、陛下!」


その笑顔を見た瞬間。


レオンが、ほんの少しだけ目を細める。


まるで。


その“ありがとう”を、大事に抱えているみたいに。


ミラは気づく。


この人はずっと、“必要とされたかった”んだ。


皇帝としてじゃない。


一人の人間として。


---


夜。


祭りは最高潮を迎えていた。


空には無数の星灯。


まるで天の川みたいに、光が流れていく。


人々は願いを書いた紙を灯に入れていた。


「そなたも書くか?」


レオンが紙を差し出す。


ミラは少し迷う。


未来の人間に、願う資格なんてあるのだろうか。


だが。


レオンは優しく笑った。


「願いは、未来を変えたい者の特権だ」


その言葉に。


ミラは小さく息を呑む。


そして、紙に書く。


『誰も泣かない未来』


それだけだった。


レオンは横から覗こうとする。


「見ないでください!!」


「ケチ」


「皇帝が子どもみたいなこと言わないでください!」


レオンは笑いながら、自分の願いを書く。


ミラはちらっと見えた文字に固まった。


『ミラが笑って過ごせますように』


「……っ」


心臓が跳ねる。


「な、なんでそんなの書くんですか!」


レオンは首を傾げる。


「願いだからだが?」


「もっと国の未来とかあるでしょ!?」


「それも願った」


「じゃあなんで私が最優先なんですか!」


レオンは少し考えて。


そして、本当に自然に言った。


「そなたが笑っておると、朕も嬉しい」


ミラは言葉を失う。


ダメだ。


この人は危険だ。


優しすぎる。


真っ直ぐすぎる。


だから──未来で壊れたのかもしれない。


その時だった。


ドン!!


突然、遠くで爆発音。


祭りの空気が凍る。


悲鳴。


炎。


建物の一部が崩れる。


レオンの表情が変わる。


「何が起きた」


衛兵が駆け込んでくる。


「陛下! 西地区で魔導暴走が!」


ミラの顔が青ざめる。


(違う……)


未来では、この事件はまだ起きない。


三年後のはず。


つまり。


「未来が、加速してる……!」


その瞬間。


群衆の中から黒い影が現れる。


赤い瞳。


黒衣。


クロードだった。


「時間軸の崩壊を確認」


冷たい声。


「未来の修正を開始する」


人々が恐怖で逃げ惑う。


だがレオンは、一歩前へ出た。


「祭りを壊すな」


静かな声だった。


しかし怒りが滲んでいる。


クロードは淡々と言う。


「これは必要な犠牲だ」


「未来を戻すためにはな」


その言葉に。


レオンの目が細くなる。


「……未来のためなら、人は泣いてよいのか?」


クロードは迷わない。


「ああ」


次の瞬間。


レオンの周囲に、あの金色の光が溢れた。


優しく、暖かい光。


なのに。


今は怒りの熱を帯びている。


ミラが息を呑む。


(また……力が強くなってる)


クロードも初めて警戒を見せた。


「皇帝レオン」


「お前は本当に危険だ」


レオンは静かに答える。


「ならば朕は──」


光が広がる。


空へ。


街へ。


人々へ。


「危険なままでいい」


その瞬間。


祭りの星灯が、一斉に空へ舞い上がった。


まるで世界そのものが、皇帝の願いに応えたみたいに。


そしてミラは気づく。


未来はもう、“決められた物語”ではない。


誰かが笑うたびに。


この皇帝が誰かを救うたびに。


運命そのものが、書き換わっていくのだと。


---


## 第五章・終


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