# 第二章 ## 「未来を知る女は、未来を語れない」
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# 第二章
## 「未来を知る女は、未来を語れない」
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夜。
皇帝城は静まり返っていた。
さっきまでの戦闘が嘘のように、風だけが回廊を抜けていく。
だがその静けさの中で、ミラの心はまったく休まっていなかった。
(……言えない)
彼女は城の屋根に立ち、遠くの街の灯を見つめていた。
(この人に“未来”を伝えたら、全部壊れる)
胸元の小さな装置が淡く光る。
『時間干渉警告:観測者は未来情報の開示禁止』
ミラは小さく舌打ちした。
「わかってるよ……そんなの」
未来の彼女は知っている。
この皇帝レオンが、いずれ“暴君”になることを。
そしてその原因は──
「……私、なんだよね」
ぽつりと呟いた瞬間。
「何がだ?」
背後から声。
ミラは振り返る。
そこには、またスープ鍋を持った皇帝がいた。
「……またそれ持ってるんですか」
「冷めると悲しい」
「感情の優先順位おかしい」
レオンは少しだけ笑った。
そして、隣に座る。
屋根の縁、危ない場所に普通に座る。
「朕は考えていた」
「何をですか」
「そなたの言う“未来”のことだ」
ミラの肩が一瞬だけ固まる。
レオンは夜空を見上げながら続けた。
「朕は暴君になるのだろう?」
「……」
ミラは答えられない。
答えたら終わる気がした。
レオンは気にせず、スープをひとくち飲む。
「だが不思議だな」
「今の朕は、ただの寂しがりだ」
その言葉に、ミラの胸が少しだけ痛む。
レオンは続けた。
「そなたが来てから、世界が少しだけ“騒がしい”」
「それは……悪いことですか?」
ミラが聞くと、レオンは少し考えてから言った。
「わからぬ」
「だが──退屈ではない」
その言葉に、ミラは思わず目をそらした。
(ダメだ、この人)
(このままだと“助けたくなる側”になる)
そのときだった。
遠くで鐘が鳴る。
城内の警報。
「第二警戒……?」
レオンの表情が変わる。
「また敵か」
立ち上がろうとした瞬間。
ミラが小さく言った。
「違う」
「……?」
「これは、内部の問題です」
その瞬間、レオンが動きを止める。
ミラは拳を握ったまま、続ける。
「あなたの城の中に……裏切り者がいます」
空気が凍る。
レオンは驚かない。
ただ静かに聞いていた。
ミラは唇を噛む。
(ここから先は言えない)
(この人に未来を渡したら、全部崩れる)
だがレオンは、意外なことを言った。
「誰だ?」
「……え?」
「裏切り者の名前だ」
ミラは目を見開く。
「言えません」
「なぜだ?」
「言ったら、未来が変わるからです」
その瞬間、沈黙。
夜風だけが二人の間を流れる。
レオンは少しだけ寂しそうに笑った。
「そなたは優しいな」
「違います」
「違わぬ」
即答だった。
ミラは息を詰める。
レオンは空を見上げる。
「朕は思うのだ」
「未来とは……そんなにも簡単に壊れるものなのか?」
その問いは、鋭かった。
ミラは答えられない。
本当は答えを知っているから。
(壊れる)
(この人は、壊れていく)
その原因は、未来の“誰か”ではなく──
「……私自身だなんて、言えない」
小さすぎる声だった。
しかしレオンは聞いていた。
少しだけ目を細める。
「そなたは、未来を変えるために来たのだろう?」
「はい」
「ならば」
レオンは立ち上がる。
スープ鍋を持ったまま。
「朕も変わろう」
ミラは息をのむ。
「変わる……?」
レオンは笑う。
少しだけ、不器用な笑顔。
「朕は、嫌われぬ皇帝になりたいのだ」
「そなたが悲しい顔をしない未来にしたい」
その言葉は、真っ直ぐすぎて。
ミラの心に刺さる。
(やめてよ……)
(そういうこと言う人じゃなかったはずでしょ)
ミラは一歩下がる。
「あなたは……何も知らない」
「そうだな」
レオンはあっさり認める。
「だが、知らぬままでは嫌だ」
その瞬間だった。
風が強く吹く。
ミラの胸元の装置が激しく点滅する。
『警告:時間軸干渉加速』
ミラの顔が強張る。
(もう……始まってる)
(この人が“変わり始めてる”)
そして同時に。
もう一つの違和感。
(違う)
(変わってるのは、この人だけじゃない)
ミラはレオンを見る。
さっきまでただの寂しがりだった皇帝。
今はもう違う。
“人を変えようとしている人間”になっている。
その変化が──怖かった。
そして、同時に。
少しだけ、救われるような気がしてしまった。
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その夜。
ミラは一人、自室に戻る。
机の上に未来データを広げる。
そこには、崩壊した帝国の記録。
燃える城。
泣く民。
そして──玉座に座る、無表情の皇帝。
ミラは目を閉じる。
「この人を救うって……本当に正しいの?」
その問いに答える者はいない。
ただ、窓の外から声がした。
「スープ、作った」
「いらないです!!」
即答だった。
だが少しだけ。
ミラの表情が緩んでしまう。
それが一番怖かった。
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## 第二章・終
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