↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/48

30 六大対抗戦(19)

「ごめんよ」


 後ろから巻き付く直登の手は薄紅色の髪を纏いながら頭頂部に伸びて、その一本を引き抜く。


「———ッ!」

「ぬわぁッ!?」


 刹那、亜音速で弾き出された岩の銃弾が凄まじい回転と共に直登の脇腹をえぐった。その衝撃によって産まれた一瞬の緩み。赤髪の少女はそれを見逃さない。

 バンッと、見かけよりも大きな音が鳴ったと思うと直登は背後に隆起する地層を二つ三つと突き破り吹き飛ばされていた。


「……甘いのよ」


 最寄りのベンチから発せられた言葉は彼には届いていない。


「(何が起こった……?)」


 答えは単純だった。直登が四肢を緩めた一瞬、ルネは体をよじり拘束を完全に無意味なものにすると同時に、その瞬間に出せる最大の魔力をもって彼を突き飛ばしたのだ。


「……っうぐッ!?」


 直登はよろよろと立ち上がりながら少女の方を向く。瞬間、走る激痛。しかし、どうやら目的は達成できたようだった。


「(あばらを何本か折った甲斐があったかな)」


 魔獣を召喚しようとはしない彼女の姿を見て安堵の表情を浮かべるが、それもすぐに切り替える。魔獣は封じた。だが、手足もボロボロでそれだけではまだ相手に分がある。次の手を考えなくては。

 思考を巡らせながらくるくると一本の髪を指に巻き付ける。


「魔獣の主従関係には自分の髪の毛を使うらしいね」


 距離は一定に保ちながら、直登はリナ中心の円軌道上を歩く。激痛は引くことは無い。これはおそらく試合中ずっとだろう。しかし、それを悟られないように。そして次の作戦を考えるだけの時間を———


「だから魔獣は従う相手を判別する時に、与えられた髪の毛と相手の髪の毛を照らし合わせて判別する」


 なにか、いい案は。

 岩陰で隠れて見えない少女の周りを回りながら、脳内回路を働かせる。


「俺は今君の髪の毛を手にしている。魔獣は封じたってことで良いんだよね」


 思い出せ、思い出せ———

 この一週間、やってきた鍛錬を。魔力量は増え、結界術のアイデアも蓄えた。あとは、それを組合して一つの技にするだけ。


「(本来なら、予選でいくつか試しておきたかったんだけど)」


 ふと蘇る、できなかった理由。今までなんとなく先延ばしにしていた、本当に自分が取り組まなければならない一つの課題。そういえば、あのときは———


「岩銃弾(スト・ガルフォン)ッ」


 右から差迫る殺気に、直登は気付いていなかった。

 属性魔術特有の詠唱につられ魔力の高まりを感じると、それと同時に彼の目に映るのは鋭く尖った数十もの岩石。


「(いつの間に———!?)」


 弾ける銃弾は轟音となり会場に響く。深く濃い土煙が舞い、二人の姿を隠す。


「———ッ!」


 しかし、その中の攻防は止まることは無かった。無詠唱の籠(かご)で初撃は防いだものの、間髪いれずに土煙の中、岩石の銃弾が飛び交う。


「(―――見えてッ?)」


 あまりにも正確なそれを、タイミングを読むことだけによって躱す。並外れた身体能力と勘がなければなしえない神業であった。それでも、一秒、二秒と時間が経つ度に増える被弾。気にしている暇はない。一歩間違えば、負け———


「沼溜まり(ペル・ガルン)」


 凛とした声は戦いの終わりを告げようと、詠唱を唱える。直後、直登の足に掛かる負荷。浅い、普段であれば気にも留めずに足を上げられるような泥濘(ぬかるみ)であった。


「まじかッ!?」


 しかし、今の直登にはできない。咄嗟に岩銃弾の雨を防ごうと籠を張るが、不完全なその結界を嘲笑うかのように無慈悲な雨は降り注ぐ。


「……」


「———動け!動けよ!」


 いくら足を叩こうと、いくら鼓舞しようと。彼の足には立ち上がるだけの力は残ってはいなかった。滴(したた)る血潮はいつの間にか赤色の池を生成し、四肢に張り巡るは無数の斬撃の後。

 急所こそぎりぎりのところで防いだが、体の四隅は今にも千切れそうな程ボロボロだった。


「……まだ———」


 宙に舞う砂埃を片手で払いのけ直登の前に現れた少女は、哀れみと感嘆の目で彼を見下ろす。意識があり、戦意も残っている彼の姿を。

 そうは言っても、もう決着の時だ。肩でも刺せば目の前の少年も諦めるだろう。


「風槍(スツォルヴ)」


 直後、彼女の周りを巡る気流が激しく乱れ、一本の長い槍として彼女の手中に収まっていく。思えば、最初の一手は危なかった。あそこで目の前の男が髪を抜かずに攻撃をしてきたら負けていただろう。よく考えたら、そもそも……


「……」


 一瞬、思考が止まった。そう、ほんの一瞬。瞬く間のわずかな時間だ。


「氷塊」


 しかし、それは致命的な一瞬だった。

 距離およそ50センチメートル。両者の完全な間合いの中で見せた油断を、直登は逃さない。ルネに向けられたのは血の滴る右手。その先からは鋭く尖った結界の塊。


「この時をずっと待っていたよルネ・ルロワ」


 獲った。確信と共に、結界を弾こうと魔力を込める。赤髪の少女も敗北を悟り、片手に槍を手にしたまま天を仰いでいた。


 ———刹那、脳内を立ち上る途切れかけた思考。攻撃を受け、海の奥深くに沈んでいたそれが水面に顔を出す。


「———あのときは風が吹いていなかった……」


 思い出したのは、彼女と出会った場所だった。

 言葉を発した瞬間、全身の力は抜け、生成した結界も解いていた。自分は今まで何をやっていたんだろうか。

 この殺し合いのような戦いを楽しみ、今、目の前に立ち尽くす少女の体を貫こうとさえしていた。


「そうか……」


 直登はどさっと後ろに倒れた。歓声が沸き盛り上がる会場も、絶句する目の前の少女も何も見えない、聞こえない。


「……やっぱり、綺麗だな」


 夜空には今日も星が輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。