25 六大対抗戦(14)
鼓膜が破れそうな程の歓声が会場全体に響いていた。揺れる観客席の中には叫ぶような歌声も聞こえ、両雄に走る電流のような緊張をさらに高める。
全身の細胞が、震え、沸き立ち、心に灯った微かな種火を力強く大きな炎へと昇華させる。
「ふぅっ———……よし」
深呼吸、肺に溜まる空気と共に邪念を吐き出す。
緊張は、全て闘志へと変わった。実際の所、直登は魔術界の出身では無く、視界の先で顔を紅くする程に熱狂している彼等の気持ちは分からない。他人と他人、単なる大学生同士の戦いに熱くなる意味も分からない。
しかし、それでも、
「———応援されてんなら、『やれるだけやろう』って気持ちにはなるよなぁ……」
呪いのような、その感情だけが彼の闘志の源であった。
「両者、ステージへ」
鳴り止まない喧騒に紛れるアナウンスと共に、彼は階段を上る。背中に届く二色の応援の声も勿論聞こえている。彼等もこの場を夢見ていたのだろう、二人とも態度には出さない性格であったが、普段の声とは明らかに異なる熱量が籠っていた。
直登には少し奇妙な光景に見えた。ここにいる一万余りは皆一様に強さを求め、力と力の衝突を期待している。あれだけ、普段は冷静で大人びているノアでさえも戦いに対して大きな熱を持っているように思える。
「……まぁ、今はそんなことはどうでもいいか」
集中しなければ。
彼は顔を上げた。灰色の砂地の上には、今にも崩れそうな建物の数々。そこには廃墟が広がっていた。そして、その奥に見える戦車のように重厚な身体は、予感の適中を示している。
「それでは、今からエンリス大学A2班対ルーデウス大学A班第一試合、ルーク・ゲイヤー対ナオト・キビの試合を始めます。鐘の用意を」
ステージの上、直登が見上げた先に巨大な銅鑼が運び込まれていた。そして、その脇に立つ撥を持った巨漢。観客の声はいつの間にか治まっていた。
———試合が、始まる。
張り詰める空気に、腹に響く銅鑼の音が走った。
「(まずは、建物のか———ッ!?)」
「うぅぉおおおおおおおお!!!」
轟々と鳴り近づいてくる地響き。その揺れは、男の出す凄まじい声量とも相まって直登に恐怖を与える。試合が始まって僅かに3秒、直登の目前に張り裂けんばかりの筋肉の塊が現れる。
一瞬の萎縮、隙が生まれた。
「まず一発!!!」
横から振り上げられた拳に、咄嗟に腕を出す。
「———っ!」
骨と筋肉が当たる鈍い音と共に、心臓を突き上げられたような衝撃。あまりにも重い一撃に直登は軽く吹き飛び、その先のコンクリート壁を突き破る。
「いってぇ……」
眩む視界に映る人影は、瓦礫に埋まる彼を目掛け全速で突進してきている。身に迫る危機を感じ、直登はふらつく足で立ち上がった。
しかし、その回避行動にも満たない動きは間近まで迫った男の的となるだけであった。
「———っぐっぁはっ!!」
———灰色の地面が遠ざかる。
青年は、空に舞った。
「むぅ……?」
驚きと懸念は、地上で見上げる男の方に生まれた。
予想外の連続攻撃の嵐に成す術なく終わったはずの直登のその顔つき。瞳に灯す、消えることのない炎。はっきり言って不気味であった。
「……言っただろう、ナオト」




