24 六大対抗戦(13)
霞む星空の下、両手を広げたら壁に指先が付いてしまいそうな狭い階段を直登は一人歩いていた。あれからどの位の時間が経っただろうか、両脇に連なる店からは芳ばしい香りと共に、忙しなく食器を片付ける音が聞こえる。
「食い過ぎたなぁ……」
直登は目で見える程に張った腹を撫でながら、そう呟いた。
『世界の終焉』は一か月後に訪れる。あの少女ならそれが容易いことだろうと直登は確信している。しかし、それでも彼の心には大きな余裕があった。自信と言い換えることができるかもしれないその感情が、何故、何時から芽生えたのかは彼自身の知るところではないが、兎にも角にも悲観的になり絶望に打ちひしがれることは無かった。
「さて、と……」
赤提灯が滲む夜道に響く靴音がぱたりと止まる。直登が目指していたそこは、人通りの少ない木造の建物であった。
古びれた旅館であった。木張りの廊下は歩く度に軋む音を立て、壁は所々塗装が剥がれている。
その二階最奥のある部屋の前に彼は立っていた。
「失礼します、先生」
そこには、つい数十分前まで一緒に食卓を囲んでいた男が待っていた。
———
「つ、つえぇ……」
翌朝、異常なほど賑わうスタジアムの中、ステージに一番近い所で直登はそれを目の当たりにした。
模擬戦場よりも一回り大きい競技場は砂漠と化し、その中心で倒れる一人の男。舌を巻くような魔術の撃は、圧倒的な物量と速度を以って相手を仕留めていた。
「ノックダウン!試合終了、勝者ノア・ロシニョール!よって勝者、ルーデウス大学A班」
「やはり俺、要らないのでは?」
菜和大学の敷地内、芝生の上に建てられた特設スタジアムのその中に響くコールは喝采と悲鳴によって搔き消される。悲鳴は母校から遙々ここまで来た観客のものであろう、それほどまで注目されている試合で三番手に控える直登が見せつけられたのは自身との巨大な差であった。
「いや、次戦からはそうも言っていられない」
彼の横でアンヘルはそう言った。ノアと同様に砂漠の競技場で試合を行った彼であったが、連日の試合の消耗からか試合後数十分たった今でも息が荒く収まっていない。
「アンヘルの言う通りだ、ナオト」
砂漠が消え去ったステージの上からノアが降りてくる。一瞬にして終わった試合のように見えたが、それでも彼の額には汗が滴っていた。
「次からはナオトが先鋒に回ってもらう。今まで温存していた分、多少格上でも有利に戦えるはずだ」
「そうだよなぁ……今まで相当無理させてたもんなぁ……」
『大役』と言えば大袈裟になるが、それでも彼らに少しでも休みを取らせるための先鋒、そしてなによりもこの大歓声の中に入るというプレッシャーを彼は感じていた。
「頼んだよ、ナオト」
「……ま、まぁ頑張るよ」
直登は襲ってきた不安と感じたプレッシャーを脳で処理する前に唾と共に飲み込み、そう答えた。『期待』という、今まで宛てられたことの無い感情に圧し潰されないように。
「それに、次の相手はおそらく直登とも相性がいい彼だろうしね」
金髪の青年が話し終わるとほぼ同時にスタジアム内のすぐ隣で歓声が沸く。そしてスクリーンに映し出された彼は、派手なガッツポーズと獅子のように威圧感のある雄叫び。
しかし何よりも目を引くのは、男の合金をも砕いてしまいそうな重々しくそして艶のある肉体であった。
「まさか、あれじゃないよな」
直登はスクリーンのすぐ下にあるチーム名を見ないようにしてスタジアムから立ち去った。




