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22 六大対抗戦(11)

「ここは……?」


 少女の指から澄んだ音が鳴り響くと同時に、二人の周りを囲む木々は消え、足元の石畳は青々と生い茂る雑草に変わっていた。そして、遠く遥か先までその緑は続いている。

 『転移』、その言葉が直登の脳裏に浮かび、彼は咄嗟に予想される吐き気に備えた。


「はははっ、安心しなよ、今回は酔うことはない。無理に移動先を変えてないからね」


 少女はそう言い五六歩前へ踏み出し、そこで止まる。左右の小山を切り開く草原に咲く純白の花は走る風に靡(なび)いていた。

 『美』という単語を体現したような凛とした立ち姿。直登がその姿に見惚れていると、彼女は流れる風に沿うように振り返り、手を差し伸べる。


「こっちへ来なよ、少年」


 自らを神と称する彼女と、次第にそれを疑いなく信じるようになった直登にとって、十八の彼が『少年』と呼ばれることは全くの自然であった。

 

「……この巨大なくぼみが、ど———」


 少女の横に立った直登はその光景に思わず声が詰まる。

 思えば、その地形は見覚えのあるものであった。標高の低い山が流れるように繋がり、開けた中央に堂々と広がる平野。建物さえ一つとして残っていないが、ここは———


「ここは、俺の実家だ……」


「へえ……よく、気づいたね」


 興味深い、と直登の顔を覗く少女も、しかし、直登の目には映らなかった。

 荒れ狂う波のように過去の記憶が、ここにあるはずだった夢が、希望が、彼の心の『過去』というさび付いたフォルダを潤していた。


「そう、ここは君の実家であり、いるべきだった場所……史上最大の人(・)災(・)『メテオラ』が起こるまでは」


「今、何て———」


 信じ難いその二文字に、直登は思わず聞き返した。


「人類史上最大の天災は、史上最大の人災だったんだよ」


 振り向く少女の前、直登は驚愕と困惑のあまり全身に鳥肌が立ち、開いた口が塞がらない。


「そして、もう一つ」


 少女は、申し訳なさそうに直登を見た。

 草木を靡かせていた風は止み、澄み渡る晴天に少しの陰りが訪れる。雨の香り、衝撃の余韻で呆けている直登は僅かに残る正気で嫌な予感を嗅ぎ取った。


「一か月後の12月31日、僕はこの世界を滅ぼす」


 直登にもう一度、電撃が走る。冗談や嘘ではない、鋭く見つめる覚悟の目がそこにはあった。


「生き残れるのは『最も優れた人間』ただ、一人だけ」


 そう言って彼女は右手を前に出す。点と点が繋がらない直登は唖然とし、見えていないはずの彼女の手に釣られて右手を差し出した。


「せいぜい頑張りなよ。直登」


 手と手が触れ合う、その瞬間、彼の意識は再び途切れた。

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