18 六大対抗戦(7)
魔術師全体の凡そ0.2パーセント、僅かにそれ程しか名乗ることを許されていない「クラスA」。ピラミッドの頂点に位置する彼等の中、二人が直登の班にいた。
「で、結局、六大対抗戦って何やるの?」
更に、高級ホテルの一室の如く奢侈な直登の部屋にもう一人、最年少でクラスAに登録された少女が机に向かっている。
「家にいるとメイドが鬱陶しい」という限られた人間しか使うことの無い理由から、直登の部屋で勉強している彼女はその手を止め自身の鞄を手に取り、何かを取り出す。
「はい、これ」
投げつけられた冊子は直登に届く直前でピタリと止まり、床の上で胡坐をかく膝元にゆっくりと降下する。日常の中で不意に現れる異常、彼は未だに慣れない状況にある種の気持ち悪さのような物を覚えながらも、渡された冊子の表紙を見る。
「これって……パンフレット?」
「Rudeus University」と大きく記されたその冊子は、彼も見覚えのあるものだった。
「(そういえば、こんなの届いてたっけ)」
直登は冊子に挿まれている幾つもの付箋の中、一際目立つ一枚に指を掛け、読み込みの割に皺一つないそれを慎重に開いた。
「……あった、この部分か『――六大対抗戦:競技部門4日間、交流部門3日間の計一週間で行われる魔術大学群最大のイベント——』『——競技部門は三人一組の班で行われるトーナメント制で、先に2勝した班の勝利』……」
文章を一通り読んだ直登は、未だ要領を得ないでいた。三人一組の班で行われるトーナメント制、先に二勝した方がトーナメントを進められる、個々の文章の意味の理解は彼にとって容易いものであった。さらに、三人一組の班で言わば「3セットマッチ」の試合を行うことからも競技内容は「魔術師同士の1対1」であろうことまでも予想がついていた。
「大学はどうして、俺たち魔術師に戦わせようとするんだろう。人災に備えるなら、専門の機関なり学校なりを建てればいいのにさ」
不満にも似た疑問、直登が言い放ったそれは再び動き出していた少女の手をピタリと止めた。黒く染まる窓は静寂を保ったまま、灯りは一寸の揺らぎすら無く無機質に部屋を照らしていた。
———時が止まった。脳がそう告げた瞬間、
「ぐッ!?」
走る、電撃。
頭を強く打つ感覚は幻覚か否か、判断する間もなく直登の意識は朦朧となり、揺れる視界は、だんだんと狭まっていった。僅かに見えるアリアの後ろ姿は止まったまま。
———意識が、途切れる
「直登」
女子にしては少し低い、しかし、それでも耳心地のいい声が部屋に響く。いつの間にか呆けていた直登はハッと覚め、顔を上げた。
「え……なんでそんな汗かいてるの」
アリアに言われて、初めて彼は顔全体をつたう冷たい物に気づく。さらに、怯えるように強く鼓動する心臓も、彼自身何が原因でそうなっているのか見当もつかないでいた。
不気味な違和感だけが、直登を包む。
「大丈夫なの?」
普段の雪のように冷たい目のまま、アリアは直登の顔を覗き込む。直登は戸惑ったまま、軽く返事をして、彼女にパンフレットを返した。
「ま、取り敢えず魔術師として強くなればいいのか」
僅かに残る違和感と、もやっとした不快感を感じながら直登はそう言った。




