17 六大対抗戦(6)
「おはよう、ナオト」
開かれた扉は外光を徐々に細めていく。薄暗い教室の先、直登がその清爽な声の方を向くと、じめったい場に見合わない明るい金髪が机に腰を掛けて座っていた。
「おはよう、ノア。あと———」
視界に僅かに写る影。教室の隅に立つ艶のある長髪を携えた男は不意に向けられた視線から顔を背けた。
「(まだ、嫌われてるのかな……)」
一瞬、訪れる静寂。彼の名前を呼ぶはずだった直登の唇は、その静寂に耐え切れず他の言葉を探していた。
「……昨日は、いろいろとすまなかった」
横顔のままで送られた謝罪に、思わず直登はきょとんとした顔をした。その顔を少しの不機嫌な感情と共に見るアンヘルは、それでも悪い気はしない。「こちらこそ」と咄嗟に返ってきた言葉も相まってか、彼等の顔は僅かに赤くなる。
「……よしっ!仲直りも済んだところで———」
いつのまにか蚊帳の外になっていたノアは、そう言って二人の元に歩み寄る。
「始めようか、ミーティング」
———
魔術師は皆、それぞれに異なる特性を有している。魔術の得手不得手で表すことができるそれは、血統や生育環境、出生地などによって異なり、それを活かし切ることで魔術師として「普通」という評価を与えられた。
しかし、事実としておよそ一万人存在するとされる世の魔術師は、その戦闘能力において細かく順位付けをされ、その大半を占める「普通」よりも優れた魔術師が存在する。
「———クラスA、そう呼ばれる彼等とその他の魔術師との決定的な違い。それが解……自身の魔術特性を最大限活かした先に顕現する固有魔術だ」
机の上に置かれた白い紙に書き込みながら話していたのは、いつの間にか班のまとめ役的な立ち位置になっていた金髪の青年であった。
「あぁ、昨日アンヘルが唱えてた、とこ……なんちゃらって奴ね」
「そう、ナオトが体験した様に『解』は物凄く強力で、嵌ると太刀打ちができないことが多い」
「じゃあ、どうすれば……」
困惑する直登を見て、ノアは両腕を上げた。「わからない」、彼は軽く笑みを浮かべながらそう言った。
「解は魔術師によって全く異なる術だから、臨機応変に対応するしかないんだよ。だから、解をどうこうしようとするよりも解を出す前のことを考える方が手っ取り早い」
「解を出す前……」
瞬間、直登は思い出す。轟々と蠢く木々の間から見えた白い手袋、そこに刻まれた
「———魔法陣」
「冴えてるね、ナオト。解を持つ魔術師に対する時、最も警戒するのべきなのが魔法陣の描画だ。それを抑えるのが最も楽で、相手にとっても嫌がられるんじゃないかな。……実際、僕もこれをやられるのが一番しんどいしね」
「へ、へぇ」
顔を上げた直登は自身を見つめる碧い双眸に気圧された。間近にあるはずのノアの碧眼は、髪の下で真直ぐにどこか一点を見ている。直登ではない、遥か遠くをその目に映していた。
「ち、ちなみに、その『クラスA』ってのはどの位の人数が———」
「197人だ。全世界20万人以上いる魔術師の中で、僕とノアを含めた197人がクラスAとして位置づけられている」
アンヘルの出した恐ろしく具体的な数字は、直登に一つの疑問を浮かばせた。
「もしかして、俺、いらない……?」




