16 六大対抗戦(5)
———刹那、緩やかに漂っていた魔力が急激にアンヘルに吸い込まれていく。それは周りの大気をも巻き込み、竜巻のように激しさを増している。地下室の電灯は点滅を繰り返し、戦場を映し出すモニターにも漣が立つ。
その猛然たる魔力は、やがて一点に暗黒の小球体を作り出した。それを目視した直登の本能が感じる危機。
「(こいつは、この攻撃は、生命にも届き得る!!)」
しかし、それと同時に感じた禁足領域の存在に彼には攻撃を止める術が無くなる。
次第に、小球体は風を纏いながらアンヘルの手中に収められる。瞬間、直登へ向かう一筋の光。光は瞬く間に閃光へと変わる。直登は、白に包まれた———
「『常黄泉庭園』っ!!!」
叫びにも似たアンヘルの詠唱。その瞬間、手袋の甲に描かれた魔法陣が紫色をもって輝いた。
直登が目を開けると花びらが舞っていた。それが幻の類ではないことを彼は自身の腕に当たるその感触で理解する。
「(……何が起こったんだ)」
彼らを覆い隠すように立っていた木々が一瞬にして消えていた。そして地面を占める花畑。それは閉ざされた地下空間にとって異質極まりなかった。
「へぇ、いいの?木の属性の精霊魔術師が木を消しちゃって」
辺りの異変に気付いた直登は、怯える内心を隠す。花の一つ一つから溢れ出す異常な魔力。それは直登の膝を僅かに震わせる程に、妖異で不気味であった。
「あまり強がるなよ、ナオト」
アンヘルは間合いを詰めようと一歩踏み込む。それを察知し、直登は慌てて下がった。恐怖という感情が、彼の頭を埋め尽くしていた。
瞬間、響く心臓の音。それと同時に直登は膝から崩れ落ちるようにして倒れた。
「どう、して……」
絞りだした声は頭の近くに立つアンヘルに届いていた。
「魔力切れだ。僕の解、『常黄泉庭園』は無数に舞う花びらと地に植わる花によって対象の魔力を吸い取る。……君の負けだ、ナオト」
そう言い、アンヘルは直登を担ぎ上げる。その目は数分前の侮蔑するかのような目とは違い、少しの尊敬が混ざっているように見えた。
「……もう聞こえていないか」
———
アルテイアは初冬の澄み切るような寒さであった。正門を通る学生達は皆分厚いコートを纏い、凍える身体を温めるように何人かで身を寄せながら歩いている。その中で一人重い足取りを運ぶ青年は、その黒い瞳の見る先を地面に落としていた。
そこへ向かう軽い足音が一つ。
「おい」
金髪の少女の呼びかけに応答はなかった。俯く彼はどこか遠い場所を見るように足元を見ていた。
「おーい」
再度繰り返すも返事は無い。青年の心はここには無いようであった。
彼のその冷たい指先は凍り付いた風に晒されて赤く霜焼けを起こしている。そこに重なるもう一つの指先、白く潤いを保ったその手は季節外れの暖かさと共に、青年の手を握った。
「……へっ!?」
不意に伝わる感触に、青年は目に光を灯す。顔を上げた先に写る少女の姿に安心を覚えながらも、何事かと問いかけた。
「直登こそ、何があったの」
「あぁ、俺は別に、疲れてるだけだから」
「それならいいけど。……そういえば、昨日ステファノさんに勝ったて本当?」
不意に伝わる虚偽の情報に直登は一瞬固まり、直ぐに否定した。それを聞いたアリアもまた、一瞬固まる。
「昨日は完敗だったよ。途中で俺気絶したし、そもそも右腕———」
その瞬間、二つのことを思い出す。一つは、折れたはずの右腕がいつの間にか治っていること。直登はこのことに関しては、思い出すと同時にいくつか見当がつく。そして、もう一つ。
「骨折させんの禁止か……」
協議のルールとして、骨折などの重傷を負わせることが禁止であったこと。
「勝ちといえば勝ちなのかな?」
「なにそれ」
アリアは要領を得ない回答に少しのじれったさを覚えながら、それでも少し嬉しそうに笑っていた。




