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15 六大対抗戦(4)

 「結界術において直登が今すぐに覚えないといけないのは『天袋』『折り紙』、そして『鹿威し』の三つだけだから、時間もないし直ぐ覚えて」


 アリアは「直登の呑み込みの早さなら———」と、出しかけた言葉をしまう。実際、学問としての魔術に対しては直登は驚異的な速さで順応し習得していた。


「見本とか、無いですかね?」


「ま、いいけど」


 そう言って、彼女は直登に向けて手をかざす。直後、彼を覆う結界の箱。それは簡易結界『籠』よりも随分と窮屈で、身動き一つ取れなかった。しばらくして、アリアが結界を解くと同時に直登は解放された。


「これが『天袋』、簡易結界『襖』と『籠』を合わせるようなイメージ」


 さらに彼女は手を前にかざし、無詠唱のうちに掌に結界を作り出した。そしてそれは、紙を折るように小さく鶴のようになっていく。


「これが『折り紙』、『障子』で作った結界を魔力で折り曲げるイメージかな」


「へぇ……え?なんで、そんな簡単にできるの」


 直登の疑問は当然のものだった。魔術には血統や出生環境によって適性があり、例えば結界術の場合、適性の無い魔術師であれば「簡易結界」を使える程度である。が、しかし、彼女はいとも容易くより困難であるはずの「結界術」を発動させた。

 アリアは言葉に詰まった。もちろん彼女の才能には非凡なものがあったが、様々な魔術を使えるようになったのは才能以上に彼女の積み重ねた努力に因るものであった。それでも、今ここで自身の積み重ねてきたものをひけらかすのは気が引けたのだ。


「ま、まぁ私は———」


———


「『天才』と、そう思うかい?」


 モニター越しに二人の戦闘を見ている賀茂は隣にいるノアにそう問いかけた。画面には両耳を抑え蹲(うずくま)る長髪の青年と、そのすぐ傍で右耳から血を流す直登の姿が映っていた。


「あれだけのことを一週間で身に着けたなたら、そう言わざるを得ないでしょう」


 賀茂は広い地下空間の中、小さく溜息をついた。


「学年一二の魔術師と名高い君達も、やっぱしまだまだだねぇ」


 神妙な面持ちのノアは、突然の失望に少しの動揺を見せた。しかし、それと同時に生まれる一つの疑問。


「では、先生は彼のこの一週間の努力に因(よ)るものとおっしゃるのでしょうか」


「10年だ、……10年間、直登は僕ら魔術師とは違う努力をしてきた」


———


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。弾ける魔力を感じた直後に轟く爆音、そして閃光。しかし、その言葉を思い出した瞬間真っ白な景色の中で全ての情報が繋がる。


「『鹿威し』か……」


 絞り出すように出した声が自身に届かない。その違和感からアンヘルは両耳に当てていた手に滴るものに気づく。


「(こいつ、鼓膜を!?)」


「その状態じゃ鼓膜を治すなんて細かい魔術も碌に使えないんじゃない?……って、聞こえないか」


 僅かに回復した視界に写る人影は、少しずつ近づいていた。余裕綽々と喋るその姿は、それでも片耳からは血を流し、右腕は大きく腫れ上がっていた。


「じゃ、まだ見えてないうちに終わらそう」


 そう言って直登は領域を覆う木の根を殴る。僅かにできた穴による罅(ひび)は放射状に広がり、亀裂となった。その恐るべき力による振動は、領域内にも漏れ出る程であった。


「まだだ、まだ終わっていない……僕は、まだ負けてはいない」


 視力が戻ったのか、それとも足の感覚だけを頼りにしたのか、彼は立ち上がっていた。しかし、その小鹿のような震える足に隙を見た直登は、アンヘルの膝を掬うようにタックルを仕掛けそのまま持ち上げる。そして、先ほど開けた穴に投げ込もうと振り向いた。


「穴が、無い!?……まさか!」


「……そろそろ、気付いたかな」


 直登の頭上から聞こえるたどたどしい声。圧倒的不利の状況に思われるその声は、どこか自身に満ちていた。


「僕の属性は『木』だ。そして、この僕にここまでの手傷を負わせた君に敬意を表して、見せてあげよう。……全力を」


 直登は危険な魔力を感じ思わず長髪の青年を放り投げた。しかし、彼は目を瞑りながらも態勢を整え着地し、ちょうど後ろにあった木に背中を預けた。


「(手袋なんか着けてたっけ?)」


 直登は警戒から思わず3歩、更に間合いを取った。それでも、目の前の男の魔力から感じる危険。それは、領域内のどこへ逃げようとも彼の射程圏内だと言わんばかりであった。

 ふう、とアンヘルは場に合わない深い呼吸を一つ。


「……解(ヴィア)」

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