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13 六大対抗戦(2)

「これでA班全員揃ったかな」


 金髪の青年は三人目の班員が席に着いたところでそう言い、わざとらしく周りを見回す。サラサラとした真っ直ぐな髪からは顔を動かす度に花のような香りが届いていた。


「取り敢えず自己紹介でもしよっか。まずは僕から。僕は、ノア・ロシニョール、ノアでいいよ。魔術師としては、空間魔法が専門分野だね」


 自己紹介と共に送られた眩しい笑顔は残る二人の心に何か黒いものを与えた。

 「空間魔法」とは、三次元のこの世界に亜空間と呼ばれる術師固有の空間を生成し、また、それを応用する魔法である。


「じゃあ次は僕ですね」


 直登の隣に腰を掛ける緋色の目をした彼は肘から先だけで挙手をした。


「アンヘル・ディ・ステファノ、呼称などは勝手にして下さい。得意分野は降神術で、白魔術もそれなりに」


 「堅物」、それが直人達から見た彼への第一印象であった。肩まで伸ばした髪は綺麗に整えられて、丸っこい眼鏡を掛けたその風貌も、甲高い声も。そして、その最たるは「降神術」という単語であった。これを含む、ある程度小さい超自然的な存在を駆使する魔術は「精霊魔術」と現在では一括りにされている。わざわざ「降神術」という単語を持ち出したのは、彼のおそらく家伝であろう魔術に対する誇りが窺えた。

 では次、と差し出された手は直登の方を向いていた。


「俺はナオト・キビ、魔術は一週間から勉強してるから簡単な結界術しか使えないっす」


 ———刹那、訪れた沈黙を彼は予想していた。魔術という一つの学問において大学まで進んだ彼等と、つい一週間程前からそれを学び始めた直登では、知識でも魔術の実力でも数段の違いがあることを彼自身理解していたからだ。


「それは何かの冗談かい?」


 冷たい声でそう聞くノアに、直登は気まずそうに首を横に振る。


「あなたは今まで何をしてたのですか」


 重苦しい空気の中、長髪の青年が我慢できずに声を上げる。燃えるような緋色の瞳が咎めるように直登を見ていた。


「ここはあなたのような半端者が居ていい場所では無い!」


 その隅から発せられた怒号は、瞬く間に教室中に響き渡り他の生徒達を凍り付かせた。立ち上がった彼は物凄い剣幕で直登を睨んでいる。

 目の前の青年は、髪が逆立ち鼻息も荒くなっている。それは何故か。明確な答えを待ち合わせていない直登の顔を見て、ノアは優しく語りかけた。


「僕は正直、ナオトに対して少なくとも『怒り』という感情は持っていないよ。でもアンヘルが今、ナオトに対して抱く『怒り』のその所以は察することができる」


「それって、俺が魔術についての学が無いままこの大学にいること?」


 直登は言いながら、この答えは整合性が取れていないと感じていた。


「(たったそれだけのことで———)」


「それもあるかもね。でもそれ以上に、ルーデウス大学は教育・研究機関であると同時に魔術戦闘員を派遣する機関でもあるんだ。だから、君のように魔術が碌に使えない生徒がいると大学の信用に関わる。僕やアンヘルが必死に勉強と鍛錬を重ねて入学した、この大学の格が落ちてしまうんだ」


 なるほど、とは理解できなかった。しかし、直登に否定できるだけの実力も無いことは彼自身ベネチアで知った。


「それだけ言うんなら試してみな」


 その声は、直登のものではなく、静まり返る教室の対角から聞こえた。その声の主である賀茂は不敵な笑みを浮かべ、扉に背を預け腕を組んで立っていた。


———


「———で、こうなんのね」


 ルーデウス大学の地下施設のうちの一つ。「模擬戦場」と呼ばれるそこには、四方50メートルほどの土地に何本もの巨大な木が植えられていた。その四方八方に広がる木の根や幹の多さは、中にいる者が森にいるかのように感じる程であり、対角に位置する直登とアンヘルはその間わずか70メートル程度の距離であったが、互いの姿を視認することはできなかった。


「ルールは先に言った通り、重症以上の怪我を与えるのは禁止。それ以外なら何やってもいいから」


 能天気な賀茂とは対照的に、緊張している直登は勝つための戦略を必死に考えていた。


「精霊魔術は場に支配される魔法、奴の性が『木』でない限り、この状況では動ける分、圧倒的に俺が有利。白魔術は回復系の魔法が主だから警戒する必要はなし……か」


 とは言ったものの、彼はどの魔術でもある程度は使えることは直登も承知していた。対して直登が使える魔術は「簡易結界」の全てと、結界「天袋」ともう二つ。


「開始の合図は次の講義開始の鐘にするから」


 観客は二人、賀茂とノアが一段高くなっている模擬戦場を見上げるように立っている。それ以外は誰もいない広々とした地下空間、その一角に緊張が走る。


「(学んでこい、直登———)」


 静寂の空間に、鐘が鳴り響いた。

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