12 六大対抗戦
ルーデウス大学の現校舎は12世紀半ばに建設されたとされる。幾度となく修復・改築工事が繰り返され、ロマネスク様式とゴシック様式が合わさった城のような外見をしている。
その城壁で囲まれた庭の隅、正門から少し離れた茶色い木々の間に二人は立っていた。
「ば、ば、ばかじゃないの!?人前で、あんな、は、恥ずかしくないの!?」
顔を林檎のように赤くして、直登を糾弾するその姿に彼は困惑していた。「そもそも、君が言わせたのでは?」「さっきの返事は?」と頭上のクエスチョンマークを隠せないままであった。
しかし、その何よりも
「(アリアってこんな表情豊かだったっけ……)」
目の前の少女の、少女らしさに驚いていた。ポニーテールを忙しなく揺らし、目を大きく開けて話す彼女の表情に、吹き付ける風の冷たさも感じない程に目を奪われていた。
「ねえ、聞いてんの?」
直登は彼女の声が止まったことに気づき、「う、うん」と曖昧な返事をした。
「ま、そういうことだから。……これからも、よろしく」
彼は差し出された右手の意味にほんの一瞬戸惑ったが、すぐにそれを理解し彼女の手を握る。それは、外の空気にしばらく触れていたからか少しひんやりとしていた。
「あっ、それと———」
教室へ向かい歩きだした彼女は何かを思い出したかのように立ち止まり、直登の方に振り向く。彼を見上げるその青い瞳は少し視線がずれていて———
「わ、私のこと『友達』って言ってくれて、嬉しかった……です」
そう言って、すぐに彼女は前を向きなおす。髪の隙間から垣間見える少女の耳は、寒さからか霜焼けのように赤く染まっていた。
———
「第一学年臨時集会:701」直人達がいつもの教室に行くと、そう書かれた紙が一枚シミだらけの黒板に張られていた。
「……701教室ってここだよね」
窓から差し込む光が、傷一つ無い床に反射して直登の黒い髪を照らす。いつも教室に入る際に通るそれとは、比べ物にならない位に清潔な廊下。そして、ささくれなど一つもない艶のある両開きの扉。
「そう、みたい」
その美麗な装飾も、二人を圧倒していた。
「ま、入ろか」
こくりと頷いたアリアと共に直登は扉を押し、教室に入る。
その瞬間、向けられる40人以上もの視線。それと同時に能天気な声が響き渡った。
「ほいじゃ、全員揃ったし始めよっか」
視線を向けられたままの二人は、やたらと広く開いていた空間を見つけ、そこに座る。教壇には普段通りの黒いスーツを纏った男が一人、教員代表として立っていた。
「今年もっ!この季節がっ!!やってきましたっ!!!」
「……」
「六大対抗戦ッ~~!!!!」
「……」
男がマイクに向かって叫ぶと、前列に座っていた女性が咳ばらいをし教壇の上に立った。赤い髪に黄色い瞳の彼女は、どこか異様な雰囲気を纏っている。
「六大対抗戦とは、各地の魔術大学の学生、教員が一つの大学に集まり日々の魔術鍛錬・研究の成果を示す場であり、開催される大学は毎年西順番で決まっています。ちなみに、今年の開催地は菜和大学、中国です」
「中国」の言葉を聞き少しどよめく教室。直登を含め各々の内には「海外に旅行に連れて行ってもらえる」そんな軽い気持ちで満たされていた。




