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中立派の昼会

「おおネイ殿、良く来られた。ささ、座られよ」


 ネイはそのあと中立派評議員の代表格のグランゼ・オシウスという男の屋敷で開かれている昼餐会へ顔を出していた。


 周りを見渡すと中立派の評議員達が勢ぞろいしている。


「遅れて申し訳ありません」


 ネイが謝罪するが、グランゼは似合わない作り笑いをしている。


 いつもはあまり笑顔でいる事のないグランゼの姿に違和感を覚えた。


 よく見ると他の評議員達も微妙な作り笑いをしている。


「アズベルト殿に引き止められていたのでしょう? 気にする事はありません。それに…… 卿で最後なのでな」


「最後とは?」


「実は……、もう一人ゲストがおりまして」


 後ろに控えている執事に合図をすると奥の控え室の扉を開けた。


 すると帝国男爵家のアンス・リーズ・アンダルシアが登場する。


 ネイを含めて他の出席者達は彼らが来る事を知らなかったのか、驚きの反応を示した。


「グランゼ殿! これは一体どういう事ですか?」


 説明を求めてグランゼに詰め寄る。


「ネイ殿、落ち着かれよ。これは我々にとって利益になる事なのだ」


「今回帝国との件に我々は関しないと決めたのはグランゼ殿ではないか!」


 すると話しに被せるようにアンスが口を開いた。


「まあ待たれよ。グランゼ殿はぬしらの事を思っての事なのだ。そう責めるでない」


 帝国貴族・アンダルシア男爵家を名乗る男。


 ワーレンを治めるユクレヒト家の縁戚だというのだが、ネイを始め中立派の人間はおろか恐らくそれ以外の評議員達とも関わりが無い。


 この様な人物が我が物顔でいる事に、露骨にネイは不快感を示した。


「アンス様でしたか? 何故ここにあなたがこの様な場所におられるのだ?」


 アンスは大仰に答える。


「私は次代のワーレン領主となる者だ。評議員の者達へ挨拶へ出向く事は、当然の事であろう」


「何をおっしゃっているのですか?」


 ネイは不快そうに眉をひそめた。


「エリンシア嬢の婚約者として認められているはずだが?」


「それはエリンシア様が成人なされてからで、それもあくまで候補の一人だという事で了承していたのです。誰にするかなど、誰も決めてはおりませぬ」


 エリンシアの様な領主の子女の場合、多くの貴族の門閥から結婚の話が舞い込んでくる。


 男爵家のアンスもその一人だ。


 しかしそれはアーネストが健在であった頃の話しで、しかも大勢の中の泡沫候補でしかなかった。


 しかし領主のアーネストが亡くなると、帝国派筆頭格のラド・ナヘンジがエリンシアの婚約者候補として大々的に喧伝し、乗り込んで来たのだった。


「事情が変わったのだ。もはや我が男爵家とワーレンだけの問題では無い。帝国、ひいてはシェリオス大陸全体に関わるのだよ」


 アンスの思わせぶりな大言壮語にネイは深く溜め息をついた。


「仰っている意味が分かりませんな。ここにいる方々の忠誠がユクレヒト家から皇帝に移ったというのなら、私は失礼させて頂く」


 立ち上がるそぶりを見せるネイをグランゼは何とか押し留める。


 板挟みに苦しんでいるのか、グランゼは苦々しい表情をしていた。


「ネイ殿、今はもうそんな事を言っている状況では無いのだ」


「あなたまで……」


 ネイの直視に耐えかねたグランゼは、すがる様な表情でアンスに視線を送る。


 アンスは勝ち誇ってにや付いた表情で持ったいぶって口を開く。


「畏くも皇帝陛下より御名の裁可を賜った。百を超える船団と一万を超える兵団が、こちらに向かっておる。もはや独立だの中立だのという時では無いのだ」


 部屋にいる人達が苦虫を噛み潰した様な表情になる。


「な!? そんな馬鹿な! そんな事、許されるはずが無い!」


「誰が許さんと言うのだ? ボーダーラントか? ナルトラウシュか? だが頼みの竜盾の槍はすでに折ておる。それともあの薄情な国王が、こんな辺境に兵を送って来る事に賭けてみるかね?」


 アンスの言葉にネイは反論出来なかった。


 ワーレンには武力と呼べるものは、ほとんど保有していない。


 唯一対抗しうるナルトラウシュが例え健在だったとして、一万を超える軍勢を相手では勝敗は見えている。


 王都から遠く離れた辺境の地に援軍が来るなど考えられない。


 もし例え何かの間違いでボーダーラント国王が兵を寄こしたとしても、戦いに猛った王国の兵士が新たな侵略者としてワーレンに害を為す事は明々白々だった。


「アンス様は今回の申し出を受けるのならば、兵は上陸させぬと申されているのだ」


 兵士達がワーレンに上陸する事になれば略奪その他で大混乱になるだろう。


 そうなれば領民や自分達だけでなく、エリンシアにも及びかねない。


 グランゼはその事に一縷の望みを掛けて帝国側の要求を呑む事にしたのだった。


「その様な話を信じるのですか?」


「ユクレヒト家を護るため、どうか耐えて欲しい……」


 ネイは力が抜ける様に椅子に座り、黙り込んでだ。


「ではここにいる皆は我々の提案に賛成という事でよろしいな。婚礼は出来るだけ早いうちに行う事にするので、準備をしてくれたまえ」


 どの道アンスの言葉を信じるしか道は無かっただろう。


 勝ち誇った様に扉に向かう。しかし途中で思い出したように振り替える。


「それとこの件に関してはあくまで内密に。ぬしらを信頼して話をしたのだからな」


 そう言うと歩き難そうに、その巨体を揺らして出て行く。


 残された者達は、それぞれ暗澹たる表情をしていた。

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