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困難な説得工作

 夜会から数日が過ぎ、アズベルトは頭を抱えていた。


 帝国派はともかく中立派の者達から良い返答が得られなかったからだ。


 はなから話を聞きたがらない者もいれば、始めは好意的に話をしていたのに途中から急に態度を硬化させる者など、不可解な事が続いた。


 戦ならこの様に煩う事は無いのにと遅々として好転しない状況にいらつき、ユクレヒト家の屋敷にあてがわれた自室で苦々しく朝食後に出された紅茶を飲んで気を紛らわしていた。


 アズベルトの彼らしからぬ苦悩っぷりに心配そうにしている。


 シエリスは今回の政治駆け引きには関わってはいないが、大体の状況はエリンシアを始め色々な人達と交流で把握していた。


「大変そうでしたら、私からも評議員の方々へ当たってみましょうか?」


 相変わらずのお転婆ぶりに義父は溜め息をつく。


「嫁入り前の女子にその様な事をさせられる訳が無いだろう。お前はお嬢様に変な虫が悪さをせんよう、側に付いておれ」


 虫と形容されたのはアンスの事だ。


 別に頼まれた訳では無いのだがあの帝国貴族の事が気になったアズベルトは、シエリスに側で注意を払う様に命じていた。


 エリンシア側もアンスの猛アタックをかわす事が出来ると喜んでそれを受けていたのだ。


「わかりましたわ、お義父様。このあとエリンシア様にお茶に誘われていますの」


 朝のひと時を終えてアズベルトは評議会がある屋敷へ向かった。




「ネイ殿!!」


 評議会の廊下でアズベルトは一際大きな声を上げた。


 ネイと呼ばれた男は立ち止まると会釈をする。


「前から面会を申し込んでおったのだが、ようやく会えましたな」


 アズベルトは本心から出た言葉なのだが、嫌味とも取られかねない挨拶をした。


「ここのところ立て込んでおりまして、ご要望に答えられず申し訳ありません」


 彼はネイ・サザーランド、いわゆる中立派の評議員だ。


 年齢は非常に若く、二年前に病死しした父親に代わって評議員に就任したばかりだ。


 しかしそれとは裏腹に人望・才覚共に申し分なく、将来を期待される人物である。


 中立派攻略の鍵としてぜひとも味方に引き入れておきたかったのだ。


「残念ですが、そういったお話はお断りいたします」


 しかしアズベルトの説得も、無下に拒否される。


「なぜ協力を頂けないのか。今回の件で我らは手を結べるはずであろう?」


 それでも何とか食い下がるが。


「何度も申し上げますが、私共は帝国にもボーダーラントにも組しませぬ」


「このままでは帝国を利する事になるのだぞ?」


 アズベルトは何とか中立派にとっての利害について説明をするが、ネイはウンザリといった表情で言い放った。


「アズベルト殿、失礼を承知で申し上げる。あなた方ボーダーラントと帝国とのいさかいが我らの中に持ち込まれ、過去どれだけの代償を私共を被ったかをお考え下さい」


 派閥に関わらず商売っ気の強い評議員の中では破格の気概を持つネイ・サザーランドならばと思ったのだが、返って彼の反骨精神に火を付けてしまった様だ。


 流石のアズベルトも引き差がらざるを得なかった。


「グランゼ殿と会食がございますので、私はこれで……」


 余韻を全く残さずにネイは去って行った。


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