居留区の催しーラスト
とりあえず貴賓席という名の普通の椅子に戻ろうとしていた紀一郎だが、観客席の盛り上がり方に違和感を覚えた。
気になってリングを注視すると、思わず口から声にならない声が流れてしまう。
「えっ、は?」
総督の鈴谷が何故かリングに上がっているのだ。
紀一郎は急ぎリングへ近付いた。
当の鈴谷もノリノリで、観客に向けしきりに手を振ってアピールしている。
いつもと同じセーラー服姿だが、スカートの下にスパッツを履いていて一応身体を動かすモードだ。
「何やらせてんだ!! 危ないだろ!」
珍しく声を張り上げ、リングに駆け寄りまわりにいた部員に詰め寄る。
「いや……、これはその。出し物として決まってましたし、鈴谷先輩の要望でもありますし……」
「んなアホな、大体南部さんがそんなの許すはずが……」
鈴谷に張り付いているはずである護衛役の南部を目で探す。
するとリングの近くでプロレス研の部員に羽交い絞めさながら、鬼の形相をしている南部と遠野を見つけた。
何が起こったのかは大体理解できた。
「あーあ、どうなっても知らねえからな」
紀一郎は半ば呆れてリングを見上げる。
カーン!! とゴングが鳴り響き試合が始まった。
といっても女子に本気で技をかけるはずもなく、ヒール役のレスラーと適当に茶番じみたパフォーマンスをしているだけなのだが。
それでも段々と慣れてきたのか、レスラーの方も動きが大胆になっていく。
見ている側も色々と期待して『おおっ!』っとなるのだが、レスラーの一人が鈴谷の後ろに回りこんで両腕をロックした所で、部員を振り切った南部達がリングに乱入して暴れ周り、何故か最後に鈴谷が勝利アピールをして晴れて試合終了となった。
「ご苦労様です」
リングから地面に降りる先で待機していた紀一郎が頭を下げる。
「あ~、楽しかった。どうだった?」
鈴谷は何故か満足気に屈託無く笑った。
「楽しかったですか?」
紀一郎は首をかしげる。
「あなたは楽しめなかったの?」
「楽しめる要素があんまり……」
「何でも良いのよ。たまには羽目を外して楽しまなきゃ」
紀一郎は自身の最近ずっと白けていた気持ちを見透かされた様に感じた。
鈴谷にしても別に他意は無くノリで言っただけなのだが、ものすごく自分の事を心配してくれているのだと錯覚してしまったのだ。
「そうですね。ま、ちょっとはね」
そのせいでついついテンションが上がってしまったのだった。
それからリングから下へ降りようとすると、プロレス研の部員がしゃがみこんで跪いた。
「どうぞ! 鈴谷先輩」
「ありがとう」
リングには階段が無く女子が上り下りするのは結構難しい。
その為鈴谷は文字通りプロレス研部員の肩を借り足を掛けて地面に足を下ろすのだが、何の躊躇もなく足蹴にしている姿は知らない人が見たらびっくりするだろう。
踏まれる側の生徒にしても、表現し難い何ともいえない表情をしている。
そして紀一郎も含めて遠野や南部もそうなのだが、周りがその事に何の疑問を抱かせ無い所が鈴谷八重の一番の人外さなのだろう。
とにもかくにもプロレス研究部による居留区慰問プロレス興行は幕を閉じた。
内容と題名がどんどん乖離してきてるので
題名を変更するか考え中~




