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居留区の催しー3

 ライナ達のテントは居留区で一番最初に住み始めたため、調整官区から一番近い場所にある。


 逆にリングが特設されている広場からは他のテントより一番遠い。


 紀一郎とライナはテントの前で立ち止まった。


「姉さん、いる?」


 テントの入り口からライナは声を掛けた。


「ライナ、どうしたの? 入ってくればいいのに」


 中から美しいソプラノが聞こえて来る。


 いつもは声を掛けたりノックをしたりする事なく出入りしているのだろう。


 不思議がっているのが見て取れる。


「カロ様が来ているの」


「え、えっ!? ちょっと待って」


 訪問者の存在を伝えると静かだったテントが騒がしくなり、少ししてテントの中からエレオノーラが出てきた。


「きい様、良くお越し下さいました」


 スカートの裾を上げて膝を曲げて恭しく挨拶をする。


「すみません、急に来ちゃって……」


 エレオノーラの前になると、ついたどたどしくなってしまう。


 顔といいスタイルといい紀一郎の好みどストライクな為、どうしても平常心で居られないのだ。


「とんでもありません。いつでも大歓迎です」


 一方エレオノーラの方は紀一郎に対して非常にうやうやしく接してくる。


 マリシアとライナやそれ以外の女性達と違って三郡調整官としての仕事ぶりを清掃中に少なからず見ているせいか、ものすごく高位な人物なのだろうと認識しているからだろう。


 その所作がお淑やかなお姉さんタイプが好みの紀一郎を更にドギマギさせてた。


「じゃあ姉さん。私はマリシアの所に戻るわ」


 辺によそよそしくしていた二人を見ていたライナが不意に声を掛けた。


「え、ライナ?」


 そう言うとエレオノーラの静止も聞かず、広場の方へすたすたと去って行く。


 残された二人は見送るしかなかった。


「ご機嫌斜めみたいですけど、何かあったんですか?」


「どうでしょう。ここ何日か、色々考え込んでいるみたいでしたけど……」


 エレオノーラは困った顔で作り笑いをする。


 本来は紀一郎が気にする事では無いのだが、つい気になって踏み込んでしまう。


「ライナは賢すぎる所があるから、あの子の考えは分からない事が多いんです」


 聴取をしていて分かった事なのだが、ルイセは別としてエレオノーラ達三人の関係はかなり短い。


 前にいた主人の屋敷に連れて来られた時以来なので、半年も経っていないのだ。


 姉妹の様な深い繋がりを持っているものの、お互いに知らない事も多いのだろう。


「今回のイベントが気に入らなかったとかですかね?」


「どうでしょうか? マリシアは喜んでいましたけど……」


「まあ好き嫌いはあるでしょうけど。そう言えば、ルイセちゃん具合が悪いんですか?」


 エレオノーラはなぜそんな話しをするのかと少し首をかしげた。


 紀一郎はここに来た一応の口実を説明すると彼女は首を振った。


「泣き疲れて眠っただけです。さっきまでずっとグズってましたから」


 エレオノーラの話によると始めはそれなりに喜んで試合を観ていたらしいのだが、運悪く近場で場外乱闘シーンが起きて泣き出したそうだ。


 それからずっと試合を怖がって泣き止まないのでテントに戻ったらしい。


「それはそうですよね、普通に慰問といえば歌か演劇でプロレスは無いわねえ」


 紀一郎は納得といった感じで笑う。


「やっぱりこういうのって女の人や子供は好きじゃないでしょうしね。でも、この国の人達って戦いを観戦したりとかはするんですか?」


 エレオノーラは少し困った顔をする。


 そして少し逡巡すると口を開いた。


「闘技場での試合なら見た事があります」


 紀一郎は思わず前のめりになってしまう。


「闘技場!? 本当に? すごい! どんなでした?」


 この時点で紀一郎はオチに気付いていればよかったのだが、闘技場という男子中学生のテンションが五十%UPするワードを聞いて盛り上がってしまいそれが出来なかった。


 エレオノーラはそんな紀一郎を気遣う笑顔を見せて話しだす。


「その時は、その……、優勝者への賞品として出ていましたしたので……」


 特大の地雷を踏んでしまった紀一郎は力なく崩れ落ちた。


「ごめんなさい。生まれてきて、ごめんなさい」


 当然ながらテンションだだ下がりである。


 エレオノーラにとって理解出来ない形で落ち込んでいる紀一郎を励まそうと、自身もしゃがんで彼に近付いた。


 丁度目の前に胸元が来てしまい、申し訳ないと思いつつもエレオノーラの胸元に視線が向いてしまう。


 紀一郎自身が渡したストールによって阻まれているが、大きな双丘が隠されている。


 それから少し上がって首元に目が行った。


「きい様?」


「やっぱりアザになっちゃいましたね」


 エレオノーラは反射的に指を首に添える。


 マリシアとエレオノーラを含む居留区に連れて来られた女性達の何割かは鉄製の首輪を着けていた。


 この世界では成長期を向かえ、ある程度成長した奴隷に鉄の首輪が嵌められる。


 鎖で繋いで逃亡を防ぐのと一目で奴隷だと判別出来るようにする為だ。


 非常に乱暴で雑な方法で溶接されるため、その時の事故で命を落とす者も少なく無い。


 そして一度その枷を嵌められれば人間の握力では取り外す事はまず不可能で、首という急所にあるため体を傷付けずに剣や斧で破壊する事も難しく、文字通り奴隷という一生の枷として付き纏うのだ。


 しかし鉄の首輪を外せないというのはこっちの世界の都合であり、河原崎町では事情を把握した段階で精密作業用の超伝導カッターでさっさと彼女らを縛る枷を破壊したのだ。


 それでも長期間首輪を付けていた事による皮膚の変色はどうしようもなく、自然治癒を期待するしか無かった。


「アレを取って頂いただけで、感謝のしようがありません」


 エレオノーラは改めて礼を述べる。


「僕は何もしてませんから――」


「いいえ…… そんな事はありません」


 期せずして互いが互いに見詰め合う。


 普段は出来るだけ目を合わせない様にしていた紀一郎だが、こうなってしまうと蛇に睨まれた蛙(ちょっと違う)みたいに瞳に吸い込まれて動けなくなってしった。


「あの、その……」


 紀一郎の心理を知ってか知らずか、エレオノーラはただ優しげに微笑だけだ。


 ちょっとしたボーイ・ミーツ・ガールをエンジョイしていると、後ろから声がしてきた。

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