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帝国貴族VS王国騎士

「何をしておる?」


 偶然なのか異変に気付いたのかは分からないが、良いタイミングでやって来たのはアズベルトだ。


 シエリスはほっと胸を撫で下ろす。


 逆にアンスは予期せぬ邪魔者の登場に顔を歪めた。


「これはこれは、帝国の貴族殿ではないか。主賓のわしに挨拶もせずに何をしているかと思えば、年端もいかぬ娘子に食指を伸ばしておるとはな」


 アンスは『ちっ』と舌打ちをして彼を睨む。


「婚約者と語らって何が悪いというのだ。これだから田舎者は」


「婚約? アーネスト殿の忘れ肩身に結婚の話など聞いた事も無いし、その様な戯言を我らが認めると思うてか」


 アズベルトの厳つい顔が更に凄みを増していった。


「これは畏れ多くも皇帝陛下がお認めになった事。お前達が吠えた所で何だと言うのだ」


「ほう……。我らとやり合うと? こぼしたワインは器に戻せんぞ」


 アズベルトはズンズンとアンスに近付いていく。

 

 場の空気が凍り付いていった。


「ふん! 落ち目の竜盾など、何が出来る。強がっておれるのも今のうちだぞ。覚えておれ!」


 百戦錬磨のオーラに驚いたのか実際の戦いとはおよそ無縁であろう根競べに負けたアンスは目を逸らして立ち去っていった。


「災難でしたな、エリンシア殿」


「ありがとうございました」


 エリンシアは深く頭を下げた。


「話には聞いておったが酷いものだな、あれと結婚などとは」


「お父様が亡くなられた後、評議委員のラド・ナヘンジ卿から急にお話がありまして……」


 心情を表す様にうつむく。


「ラド…… あー、あの帝国の腰巾着か。それであやつが乗り込んで来たと」


 アズベルトは自分達がすでに後手に回っている事に頭を抱える。


 唯一こちらに分があるとすれば本人が乗り気ではない事くらいだろうか。


「一応聞くが、君自身は乗り気では無いのだな?」


 あまりにも当然で突拍子の無い質問にエリンシアは勢い良く首を横に振った。


 隣で聞いていた義娘が呆れて口を開く。


「あの様な無粋な殿方と添い遂げたいと思う者がいるわけないでしょう」


 シエリスの憎まれ口にシュンとしてしまう。


「それは、すまなかった……」


 先ほどアンスを睨みつけていた人物とは程遠い。どうしても義娘には敵わないらしい。


 それを見ていたエリンシアは内心で非常に驚いた。


 貴族社会だけで無く家父長制度が強いこの世界で父親に生意気な言葉を使う事は普通許されない。


 彼が怒り出すのではないかと恐る恐る彼を見るが、最後まで彼は苦笑いをするだけなのにも驚かされる。


 自然にエリンシアは父親との事を重ね合わせてた。


 そのせいかどうかは分からないが、彼らもアンスと同じく自身を利用する為にここに来ていると分かっていても、親近感を抱かずにはいられなかった。


「それでお義父様。どうされるんですの?」


 直球の質問にすねた様に眉間にしわを寄せる。


「わかっておる。我がナルトラウシュとしても認める訳にはいかん」


 アズベルトは小さなお嬢様に目を落とした。


 政治的なこちらの事情があるとはいえ、娘というよりも孫に近い年の少女の意を汲んであげる事に悪い気はしないのだった。


「姫様には申し訳ないが、あの男との結婚は阻止させて貰うぞ」


 その言葉にエリンシアは顔を上げて瞳を潤わせる。


「はい!」


 シエリスは自然と笑みを零した。

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