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帝国貴族

 三人の注意が一斉に開いた扉の方へ向くと、かなりの肥満体な中年男が入って来た。


「我が未来の妻よ、ここに居たか。探しておったぞ!」


 大仰に言うとシエリスとしていた会話など気にも留めないそぶりでエリンシアに詰め寄って手を握る。


 下卑た好色な表情に誰しも嫌悪感を抱かずにはいられないものだった。


「アンダルシア様……、今日の晩餐会は来られないかと」


 まるで心の内面すらも映し出している様な醜く肥え太った威容に、エリンシアは恐怖と不快感とを必死に隠そうと取り繕っている。


「アンスで結構。伴侶になる者同士、気兼ねは無用であろう」


「結婚など……、まだ決まってはおりません」


「またその様な事を。我がアンダルシア家の後ろ盾があればワーレン領も安泰でありましょう。これは神々の思し召しというもの」


 小さく否定するエリンシアだが、それを無視する様にそれからもアンスはその姿に似合わぬ歯を浮かせる言葉をエリンシアに発する。


 そのせいで彼女の表情がどんどん曇っていっているのだが、そんな事はお構いなしにぞっとするポエムを垂れ流している。


 主の姿にエメラインは心配そうに見つめるが、メイドという立場上どうする事も出来ないでいる。


 見かねたシエリスが二人に割って入るように声を掛けた。


「エリンシア様。よろしければ紹介していただけませんか?」


 エリンシアに少しだけ安堵の表情が差し込む。


「おーこれは失礼。私は栄光ある帝国男爵アンダルシア家のアンス・リーズ・アンダルシアと申す。エリンシア嬢と未来の伴侶となる者だ」


 その男は帝国貴族を名乗った。


 噂に上っていた帝国からワーレンを乗っ取る為に送られてきた人物なのだろう。


 いやらしさや尊大さは全く隠せて無いものの、最低限の礼儀は出来るようだが。


「ナルトラウシュ副騎士団長の義娘でシエリスでございますわ」


「ナルト……、あぁ」


 シエリスの自己紹介に、それを聞いたアンスはその最低限の態度さえも脱ぎ捨てる。


 帝国貴族特有のボーダーラントを下に見るよくある行為だ。


「あの田舎の野蛮人どもか」


 はき捨てる様に言った。


 しかしシエリスはいわゆる社交用のスマイルを崩さない。


 しかし夜の薄明かりの中で立つシエリスとドレスの美しさに気付くと、舐める様な視線で頭からつま先まで値踏みをする様に眺めて言った。


「しかし田舎騎士の娘にしては良い物を召されている様だな。よほど良いパトロンを咥え込んでおられるようだ」


 アンスは露骨なセクハラ台詞を吐くとシエリスを無視してエリンシアを困らせる様に近付いている。


 シエリスはどうしたものかと考えていると他所から聞こえてきた野太い声によって止められた。

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