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夜会の続き

 義父に促され付きのメイドを含め三人でテラスへやって来た。


「申し訳ありません、お連れしてしまって」


「いいえ、難しい話は分かりませんから助かりました」


 エリンシアは気丈に答えるが、ずっと暗い顔をしていた。


「お父様がお亡くなりになられてお辛いと思いますが、気を落とさずに……」


 シエリスは気遣いの言葉を掛ける。


 しかし彼女にはエリンシアがもう少し複雑な事情を含んでいるように思えた。


 しかしそれでも人を和ませる雰囲気と対話能力を持っているシエリスのおかげか、段々と緊張を解して他愛の無い会話に話を咲かせる。


「素敵なお召し物ですね、シエリス嬢」


 エリンシアは月明かりに照らされるシエリスのドレスの話題になる。


 デザインこそこの世界では保守的だが絹糸特有の光沢と金糸が特に美しく、どこに出したとしても自慢するに足る出来だ。


 生糸は帝国もボーダーラント王国でも生産されておらず、非常に入手が困難な代物だった。


「シエリスで構いませんわ。素敵でしょう? 全て絹で作られていますの」


 シエリスはスカートを軽く持ち上げて自慢するように見せる。


「素晴らしいですわ。ねえ、エメライン」


 後ろに控えていたメイドを手招きをした。


「いえ、私は……」


 貴族の令嬢同士のエメラインは話の輪に入るべきではないと控える。


「どうかしら?」


 が、シエリスは気にしていないようだ。


 階級が近しい者に接するように聞いてくる。


「とても良く似合っておいでです」


 当たり障りの無い返事を返すが、それでもシエリスはとても満足そうだ。


「私の周りには無骨な方ばかりでしたから、自慢の甲斐が無かったの。そんな風に羨ましがってくれると嬉しいわ」


「どこから手にお入れに?」


「辺境伯様から頂いたクロスを仕立てたのだけれど、元々はカワラザキという同盟都市の調整官様からナルトラウシュ領への贈答品なのだそうです」


 エリンシアはそれを聞くと大きく驚いてみせた。


「あら! あの河原崎ですのね」


「ご存知なのですか?」


「その都市国家の話は最近お屋敷でも聞きますわ。何でも金や銀の湧く泉を所有しているとか……」


 この世界では掘削技術の問題で金や銀の産出量はたかが知れており、通貨そのものが希少だったりする。


 その為交易の決済は商品と商品のバーターが基本なのだが、日本本国から供給される豊富な金と銀の財貨により一方的な現金決済が行われていて、目敏い商人や貴族達の間で話題となっていた。


「そのお人はどのような殿方なのですか?」


「私は直接お会いした事がありません。名前は存じ上げませんが、三郡調整官様という方らしいですわ」


 二人は見た事の無い人物に話を咲かせる。


 しかし夢見る女性の表情な彼女らに対して一人、微妙に違う者がいた。


「どうしたのエメライン? 変な顔をしてるけど」


「いえ、何でもありません」


 エリンシアの言う通り何とも評しがたい顔をしていたが、すぐに表情を澄ませる。


 まさかここワーレンの町で自らが遠ざかった『河原崎』という名が話に上るとは思っていなかった。


 少なくともワーレンに住む人々はエメラインとかの町に関わりがある事を知る人間はいない。


 二人は少し首をかしげた。


 なんにせよ彼女の心情は二人には知る由も無かった。


 それから他愛も無いガールズトークをしたのだが、無遠慮にテラスと室内を隔てるドアが開けられる。


 そしてそこにいた人物を見たエリンシアは、せっかく少しだけ明るくなった表情がまた暗く曇ってしまうのだった。

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