ワーレンの夜会
再開しました。
その夜、歓迎の晩餐会が開かれた。
喪中ではあるのだがナルトラウシュからの使者を歓待しない訳にはいかないとささやかな形の立食会に招待される。
武人であるアズベルトであってもそれに無縁でいられる訳も無く、甲冑ではなく正装をして出席したのだが。
「これほど酷いとは……」
迎賓の広間でアズベルトは厳しい顔をしていた。
もちろん晩餐の料理や作法にケチを付けていたのではなく、出席者の少なさである。
ナルトラウシュ領の使者であるのだから、当然王国派だけでなく中立の評議会議員が出席してしかるべきなのだが、王国派・中立派の評議員の半数もいなかったのだ。
現代日本では理解され難いのだが近世以前の貴族社会では社交というものがとかく重視される。
様々なパーティやお茶会で繋がれるコネクションや派閥が政治を大きく動かしていくのだ。
つまりそれは多くの評議員達が切り崩されている事を表していた。
「お義父様。その言い方は失礼ですよ」
落ち着いたイブニングドレスに身を包んだシエリスが諌めてくる。
「夜会にケチを付けている訳ではない」
「聞いた者がそう取るとは限りませんわ」
「聞かれたとて何だというのだ」
武人らしい物言いでアズベルトは履き捨てる。
本来この晩餐会は彼をもてなす筈の会なのだが巨人ギガント襲撃事件がワーレンにも知れ渡っており、落ち目と思われているナルトラウシュ一派のご機嫌を伺おうという者はあまり多くは無い様だ。
出席者の大半はこれまでの付き合い上しかたなく出席しているのだろう。
ヤケ酒という訳ではないが帝国名産のワインをアズベルトは煽るように飲んだ。
「アーネスト・ヘルネス・ユクレヒト様ご息女エリンシア様ご入場ー」
それから少し間を空けて式典用の兵士が大きな声が上げると会場で一番豪華な扉が開き、栗色の髪が美しい少女が付き人達に連れられて入ってくる。
渦中最も中心にいる人物だ。
「可愛らしい方ですね」
まるで無邪気に人形を評する様にいうシエリスだが、彼女の義父はあまり良い顔をしていない。
アズベルトは軽く溜め息を付いた。
「どうかされました?」
「お前は屈託が無さ過ぎる。周りの者達が距離を開けておる。帝国に取り込まれたと見て敬遠しているのだ」
アズベルトの言う通り彼女の下へは挨拶をする程度でそれ以上の事をする者は少ない。
彼自身も自分からエリンシアの下へ歩み寄るべきか考えてしまい動けずにいる。
「悩む事はありませんわ。持ってて下さる?」
「は?」
そう言っての飲みかけたワイングラスを義父に預けて(この世界の家父長制度では考えられない)エリンシアの下へ向かう。
「お初にお目に掛かりますエリンシア様。アズベルト・ロアの義娘シエリスでございます」
優雅にドレスをたなびかせて彼女の前に立つと流れるような所作で一礼した。
「エリンシアです……。良くお越し下さいました。喪中ゆえあまり大きなもてなしは出来ませんが、御緩りとして下さい」
少し緊張した面持ちだ。
しかしシエリスの母性溢れる性格のせいか、少しだが緊張も取れたように見える。
こうなると流石に義父のアズベルトも出て行かざるをえず、社交の儀礼を通す事になった。
それから遅れてホールへやって来たマセルが合流する。
「悪いがお嬢様のお相手をしていて貰えるか?」
「はい、お義理様」
義父の意思を汲んだシエリスはそう言ってエリンシアをテラスへ連れ出した。




