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ワーレン到着

 二日後の朝、アズベルト辺境騎士団副団長を代表とする使節団がヴェルター城を出発した。


 目的地へ向けて複数の馬車と護衛と使節を兼ねた騎士達が荒野を進んでいく。


 巨人ギガント襲撃以来、ナルトラウシュの警察能力低下により周辺地域の治安悪化が深刻化していたのだが、野盗や盗賊の類に出くわす事無く順調な旅路を続けている。


 天気も良好で絶好の行幸日和なのだが、当のアズベルトの表情は大きく曇っていた。


「まだへそを曲げてらっしゃいますの、義父様?」


 愛馬に跨りアズベルトの斜め後ろを進んでいた義娘のシエリスが声を掛ける。


「怒ってなどおらん、お前の帯同を許した辺境伯に呆れておるだけだ」


 表情はそのままに返事する彼だが声そのものには棘々しさは無い。


 もしこれがここにいるシエリス以外の人間であったなら心底から震え上がってしまう様なドスの利いた返事だっただろう。


 鬼や悪魔と部下や末端の兵士達に恐れられるアズベルトなのだが、とにかく義娘のシエリスには甘い男だった。


「御館様はお義父様の事をお思いになっての事です。すぐに湯をお沸かしになりますから、私がいないと連れの方々が逃げてしまいますわ」


 今回シエスタの帯同はナルトラウシュの提案だった。


 次期領主の問題において帝国派との対立は避けられない事なのだが、同時に軍事衝突を起こす余力はナルトラウシュ領には無い。


 その為アズベルトが軽々に帝国派と決別しないようにと、いわばシエリスを人質兼押さえ役と考えたのだ。


 ナルトラウシュから直々に話を聞かされたシエリスはその意図を理解し義父と共に行く事を快諾したのだが、アズベルトは納得がいかなかったようだ。


「わしは辺境騎士団の副長ぞ?」


「激情の虫が暴れなければ、今頃王立騎士団で指揮を取っていたでしょう」


 義娘に言い包められて黙ってしまった。


 今回使節として付いて来ている従者や官吏達はシエスタに心底感謝しているだろう。


「良いではありませんか、お義父様とこうして旅をするのは久しぶりです。昔は戦場だって一緒に回っていたのに、最近はありませんでしたから」


 美しい青鹿毛の馬に跨っているシエスタはにっこりと笑った。


 養子とはいえ本来貴族階級に属する女性が馬に跨り旅をするという事はこの国の一般常識としてはありえないのだが、活発な彼女はそういった事は意に返す事無く颯爽と進んだ。




 それから数日間、旅籠を順繰りに泊まりながら進みようやく目的地に到着する。


 帝国とボーダーラント王国を隔てる内海に面するここワーレン港は、国境に横たわるクァレス山脈に阻まれ自由に行き来する事が困難な陸路の代わりに両国の交易を担う重要な港街である。


 ここ数年少しずつだが増えていた貿易量に比例する様に人口も増え続け、それに伴い様々な恩恵や弊害がもたらされていた。


「よくお越し頂きました。家令のスタニスでございます」


「此度の訃報、お悔やみ申し上げる」


 領主の城で出迎えられるが周りの雰囲気は暗く、皆黒の喪章を付けている。


 本来ナルトラウシュの代理として訪ねているアズベルトには名代のエリンシアが出迎えるべきなのだが、体調が優れないとして姿を現さなかった。


「お部屋の御用意は出来ております。お嬢様には沐浴もございます」


 それぞれ部屋に案内され、ひとまずは旅の緊張を和らげるのだが、久々に甲冑から開放されたアズベルトの部屋に早速訪問者が現れた。


「良く起こし下された、長旅でお疲れでしょう」


「マセル・トーガ殿、久しぶりですな。」


「マセルで結構。卿と会うのは何年ぶりですかな。歓迎しますぞ」


 彼は王国派の評議員で自由都市ワーレンの人間だがボーダーラント王国の貴族としても籍があり、王国派評議員の領袖と呼ぶべき人物である。


「ヴェルターにあまり良くない話が聞こえてきましてな。我が主も気にしており、参上仕った」


 マセルは苦笑いを隠さない。どうやら聞こえていた噂には信憑性があるようだ。


「帝国の犬共があれこれ蠢動しておるのです」


 話を聞くと大まかには事前に得ていた情報と差異は無かった。


「アズベルト殿が来られたとあれば我々も引き締まるでしょう」


 楽観的な物言いだがあまりその表情は明るくなかった。

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