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Girls site

それから鈴谷一行の視察は続き、あーだこーだとお祭り騒ぎの終わりは夕方までずれ込んだ。


「ようやく帰ってくれましたね」


「隠してあるエロ本が見つからないかヒヤヒヤだった?」


 紀一郎は明石の顔を見る。


「そんな変な顔しなくったって……」


 二人は貴賓室プレハブで出されて余ったお茶菓子をつまみながら余韻に浸っていた。


「俺はもう帰るけど、一緒に出るなら送ろうか?」


「これからこっちで宿題して帰るんで、今日は大丈夫です」


「宿題って、学校の?」


「家に帰ったら絶対にしませんから」


「じゃあお先」


 明石が出て行く。その後、次いで紀一郎も外へ出ると夕日はほとんど傾いて深い紫の闇夜に変わっていた。


 総督の鈴谷が帰ったので警戒レベルが下がり、調整官区の警備にあたっていた職員はいなくなり、調整官室の周りも無人となっている。


 紀一郎は鼻歌を囀りながら中に入ると暗闇の中を手探りでスイッチをONにして明かりを点けると、紀一郎は仰け反って引きつった声を上げた。


「ひっ!?」


 ライトに照らされた調整官室のソファーに横になって眠っているルイセと、その隣に座っているエレオノーラが居たからだ。


 特にエレオノーラは座ったまま俯き加減で目を閉じていたので、等身大のフランドールが置いてある様に見えた。


「あ……」


 部屋の明かりに気付いて目を開け紀一郎を見つけると、微かに声を上げる。


「お帰りなさいませ」


「どうしたんですか? こんな暗闇の中で?」


 エレオノーラは立ち上がり膝を曲げて一礼をした。


 しかし暗闇でずっと不安だったのだろうか、元々儚げな姿が更にか細く感じる。


 それはそれとして、何故彼女はまだ居るのか?


 紀一郎はそれが一番の疑問なのだが今日ここで起きた事の経緯をざっと思い返すと、ある事に行き着いた。


「も、もしかして、僕が言ったからずっとここに? ず、ずっとここで待っていたんですか?」


「はいお待ちしておりました」


「でもほら、僕はあの後に一回戻ってきたじゃん」


「すぐに出て行かれましたので……」


 エレオノーラの素直さと律儀さに当てられて罪悪感で精神的ダメージを負ってしまい、紀一郎はその場に崩れ落ちた。


 その姿を彼女は心配そうに、というより不思議そうに眺めている。


「ごめんなさい、視察の事で一杯いっぱいになって、エレオノーラの事を全く考えてませんでした……」


 うなだれたままの半分土下座みたいな格好で紀一郎は謝罪するが、当のエレオノーラは彼の心情が分からず、きょとんとしている。


「せめて電気くらい点ければ良かったのに……」


「デンキ…… ですか?」


「明かりの事ですよ。あそこのスイッチで点きます」


 スイッチのある場所を指差す。


「それは前に教わりました。その……」


「もしかして、僕が何か言った?」


「静かにして待っている様にと」


 紀一郎の肩にずっしりと罪悪感の重りが乗し掛かった。


「次から気を付けます……」


 エレオノーラはひとしきり続いた彼のセルフ懺悔を見届けると、中断されていたその日の掃除を再開する。


 眠っているルイセや紀一郎に気を使いながらテキパキと行っていた。


「調整官様、今日の作業は終わりました」


 机で宿題と格闘していた紀一郎は彼女の声に顔を上げた。


 時計を見ると結構な時間になっている。


「ご苦労様です、遅くなっちゃいましたね」


「申し訳ございません」


 責めるつもりで言った訳では無いのだが、エレオノーラは深々と頭を下げた。


「元々悪いのは僕ですから、そんなに畏まらないで下さい。今日は何かあったんですか?」


 紀一郎はソファーで眠っているルイセを指差す。


「朝出る時に妹がグズってしまいまして。いつもはライナかマリシアが面倒を見てくれるのですが、仕事の時間が被ってしまいまして……」


「それで連れて来ちゃった?」


 エレオノーラは静かに頷いた。


 もう少し正確に説明すると一人で留守番をするのを嫌がったルイセの疳の虫が暴れた為、仕事の時間を後ろにずらして欲しいと監督している職員に懇願した所、『一緒に連れて行けば良いじゃん』の一言で連れて行く事になったのだ。


 しかしそれでも機嫌が直らなかったルイセをあやしながらの仕事は思いの外手こずり、いつもなら午前中に終わるはずの作業が昼を過ぎても終わらなかったのである。


「明日からはちゃんといたしますので……」


 紀一郎は深々と謝罪するエレオノーラにバツの悪さを感じてしまう。


 元々彼女達に仕事を割り当てたのは、居留区の人達に支援癖を付けさせない為だった。


 紛争地などの難民キャンプなどで長期間庇護を受け続けてしまうと自尊心や気概が破壊されて、無気力になってしまう事が多々あるのだ。


 その為彼女達には最低限の仕事プラスαを与えてそれを防ぐという事だった。


 しかしその反面でそれ以上の理由は無く、正直なところ紀一郎にとってはどうでも良い事柄でしかなかった。


 エレオノーラ個人の性格に依る所が大きいのだろうが、それを真摯に行っている姿に何ともいえない後ろめたさを感じていたのだ。


「良いんじゃないですか? ルイセちゃんを連れて来たって」


「え?」


「ここの治安には自信を持ってますけど、小さい子を一人にするのは不安ですからね。別に仕事が昼過ぎまで掛かったって、誰も気にしませんから」


 紀一郎が提案する。エレオノーラは安堵する様にほっと息をついた。


「もう居留区の夕食時間過ぎちゃってますから、ここで食べて行くと良いですよ」


「はい、ありがとうございます」



 太陽が完全に地平線の奥へと沈んだ後、エレオノーラ姉妹は自身の寝床へと戻って来た。


「ただいま」


 テントの中ではマリシアとライナが出迎える。


「遅かったな……、もう晩飯終わっちまったぞ」


 二人の帰りが余りに遅かったので心配していたのだが、無事に戻って来た事に安堵していた。


「ごめんなさいね、心配掛けたかしら」


「姉さんとルイセが食べると思ってパンと具材と残しておいたの」


 ライナが麻布に包んだサンドウィッチの様な物を差し出す。


「ありがとう。でも後で食べるわ」


 マリシアがある異変に気付く。


「食べて来たのか? それにその羽織っているやつどうしたんだ?」


 エレオノーラが朝まで着けていたブランケットとは違い明らかに上質な生地や柄で高価なのが分かる。


 ファンタジー世界では中々お目に掛かれる代物では無い事も。


 今日はグズったルイセを連れて行った事と、帰りが遅かったのと合わせて心配が増す。


「これは、調整官様から頂いたの」


 エレオノーラの説明に場の空気は沈み、マリシアとライナは肩を落とした。


 実際は紀一郎がブランケットでは格好悪いからと、ちょっとした親切心から母親の使っていなかったストールを家から持ち出していて彼女に上げたのだが、あらぬ誤解を与えてしまう。


「そっか……、まあしょうが無いよな。親切な人達だけど男だもんな。とりあえず酷い事もされて無いみたいだし…… しょうが無ぇよ」


 この世界の常識と人生経験から何があったのかを勝手に察したマリシアは気遣いの言葉を掛ける。


「マリシア、違うの。そういう事では無くて」


「分かってる、大丈夫だって。分かってるから、次からはルイセは私が預かっとくよ……」


「本当に違うんだって、本当に違うの」


「隠さなくても良いって、うちもライナもガキじゃないんだぜ。何もしないであたいらみたいなのにそんな良い物を送る男なんていないよ」


 モーテル通りを男女二人で歩いている所とばったりかち合って、どれだけ弁解しても信じて貰えないといった状態だ。


「ライナも何か言って……」


 助けを求めてライナを見た。


 ライナはベッドに腰掛けてルイセを膝に乗せて遊んでいるが、目と耳は二人のやり取りの方を向いていた。


「そうよ、次からは馬鹿マリシアが姉さんの代わりに行くから問題無いわ」


「えっ!? うちが行くのか?」


「だから違うってば」


 今度は何故かライナとマリシアに話しが飛び火する。


「おねだりすれば欲しい物を買って貰えるかもよ? 気に入られれば……」


「ならお前が行けばいいじゃんか」


「私は無理よ」


「どうして?」


「見れば分かるでしょう? カロ様は西瓜みたいな胸の女が好きなのよ。ねえ? 姉さん」


「えっ、え……?」


 ライナから話が振られると、とっさに鈴谷と交わした話のやり取りが思い出されて顔を赤らめる。


 その反応に疑惑が益々深まるのであった。


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