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閑話休題?

 少し前に名前が公募で決まった食堂兼酒場兼カフェの出島亭で一番大きな扉が開いてまず自衛官達が入って来た。


 すでに店舗内にもかなりの数の自衛官と警察の警備が配置されていて何とも不穏な空気になるが、鈴谷の姿が見えると中にいた客達の視線がそちらに釘付けになる。


「こちらが滞在者の食事をするスペースになっています」


 横に付いて案内役をしている明石が説明を始めた。


「想像していたより綺麗なお店ですね?」


「総督が来られる前に汚い格好した奴は外に叩き出しましたので」


 嘘か冗談か分からない話に周囲から笑い声が上がる。


「現地の方と話をしても大丈夫ですか?」


「はい、でも後になって文句言わないで下さいね」


 この世界では商隊の荷役や運搬に関わる人間は荒くれ者が多く、中には盗賊や強盗と違いが分からない者も多い。


 しかも彼らは荒野を何日も掛けて河原崎町を訪れるが、苦労して辿り着いた滞在区画には男の職員しか配置されていないので、強制的な禁欲生活を強いられて気が立っている。


 お嬢様育ちの鈴谷が彼らとコミュニケーションを取ったとしても、良い事は無いだろうと明石を始め出島の職員は思っていたのだ。


 案の定鈴谷がテーブルに座っている客達の近くを通る度に舐める様な視線に晒され、中にはヒュウっと口笛を鳴らして挑発する者もいた。


「ここよろしいですか?」


 しかしそういった下種な行為に表情一つ変えず、奥に進むと男達が座っている真ん中のテーブルの椅子に腰掛けた。


「へっへへ、どう言った御用向きで……」


 いやらしい目付きは変わらないが、さすがに明石達自衛官に囲まれては大人しくしている。


「このお店の感想はどうですか?」


「どういう意味だ? 姉ちゃん」


 お嬢様が世間知らずな事を言い出したと、テーブルに座っていた男達がヘラヘラと下品に笑う。


 この世界の住人にはマーケティングやお客様の要望を聞くなんて事は存在しない。


 重要なのは店をやっているか、物を売っているかであってサービスが良いか悪いかなどはここの人間は気にしないのだ。


「食事や飲み物はお口に合います?」


「あぁ悪くないぜ、飯も酒も悪くねぇ。何でか知らねえが、ケチ臭い量の酒しか出さないのが気に入らねえがな」


 鈴谷は明石の方を向いた。


「アルコールは一食に付き二杯までと制限しています」


 大よその意図を理解する。彼らを酔わせても碌な事にならないだろうからだ。


「メニューはどうなっていますか?」


「出されるメニューはこちらの世界にある材料を使って、こちらで一般的なレシピを参考に作っております」


「ではここで一番人気のメニューを作って下さい?」


 すると明石はバツが悪そうに答えた。


「しかし、その…… 味付けや調理法が原始的と言いますか、我々の感覚ではお世辞にも美味しいとは……」


「なら、なおさら食べてみないと」


 明石が給仕の担当職員に目配せすると厨房へ向かう。


 牛丼屋レベルの速さで料理を持って戻ってくると、鈴谷の前へ皿を置いた。


 出て来た物はあまり料理とは呼べそうに無い代物で、肉の塊を水で煮込んだ物をそのまま皿に盛っただけだ。


 味付けも見た目同様ほとんど無いに等しく、使われている肉も煮込み過ぎてボロボロな癖に全体的に筋ばっていて、明石の言った通り原始的な料理と表現するのが適当な物だった。


 鈴谷はこの原始的料理を一口食べるが、数回租借すると持っていたペーパーに吐き出してしまった。


「いかがですか?」


 感想を聞かれるが口元を緩めて笑うだけで

返答はしなかった。


「料理とお酒以外に要望はあります?」


 『他に』と聞かれると男達は揃って同じ事を言い出す。


「そりゃあ決まってるでしょう?」


「女だ」


「ああ、あとは姉ちゃんみたいなべっぴんがいりゃあ文句は無えな」


 唯一女性の鈴谷に当て付ける様に男達はゲラゲラと笑い盛り上がる。


 鈴谷は涼しげな表情を崩さないが、後ろで控えていた遠野は今にも自衛官の銃を奪って乱射しそうな形相だ。


 出島亭のボルテージが上がり過ぎない様に、護衛の人達もわざと音を立てて銃を持ち直したりして周りを牽制する。


「料理に関しては改善が必要ですね。お酒も自由に飲めなくて女の子も居ないんじゃ可哀想でしょう。せめて美味しい物を出してあげなさい」


 笑い声が収まると鈴谷は言った。

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