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新部隊編成式

 新設部隊の編入式は調整官区ではなく自衛隊の機能が集中している区画で行われ、紀一郎は荷物を自室に置きに戻る間も無く進められた。


 副代表委員の飯島達治が司会進行をしていて、当直外の出島職員達が広場に整列して話を聞いている。


「それでは最後に、新たに編入される部隊長から一言をお願いします」


 まず始めに鈴谷から始まり代表委員に紀一郎とその他の賓客が三十分後には誰もが覚えていないあろう内容の無い内容のスピーチがあり、最後に仙道一尉がマイクを取る。


「部隊長の仙道要一陸上一尉であります……」


 今回新設の部隊といっても実質的には仙道が率いていた部隊がそのまま編入される。


 最初は別の部隊にという話だったのだが、手柄を上げた仙道隊からたっての要望があり出島機関に組み込まれる事となったのだ。


「では最後に…… 何事も正確さが物を言う。日々訓練と任務を邁進して参ります、以上です」


 長々と用意した文章を読み上げた後、仙道が好んで使う決め台詞で話を〆て式典が終了した。



 式典の後、調整官区の貴賓室プレハブでティータイムとなる。


 同行していた遠野がスケジュールの確認をしていた。


「鈴谷総督、今後の予定ですが希望ありますか?」


 一応今の時間は出島機関の視察と言う名目になっている。


 興味無さ気に紅茶を飲んでいた鈴谷だが、思いついた様に紀一郎を見た。


「そういえば前から滞在区を見てみたいと思っていたのよねぇ」


 紀一郎の表情が曇る。


「無理ですよ」


 間髪入れず否定するが……


「なんで?」


「警備上の理由です。万が一の事があったら南部さんに殺されますし、規定上も出来ないはずですよ」


 実際の所、総督が滞在区に入れる・入れないの規定は想定されていないのでそもそもそんなルールは無いのだが、綺麗な所でも愉快な場所でも無いため鈴谷を近付けたくはなかったのだ。


「出来るわよ」


「ダメです」


「出来るわよ……、ねえ?」


 鈴谷は紅茶のカップに添えられていたティースプーンを口に含みながら紀一郎を見つめた。


 たまらず周りにいる同僚達に目をやり助けを求めるが皆一様に目をそらす。


 鈴谷の可愛らしい恫喝に屈するしかなかった。


「警備の準備をしますから、ここで待ってて下さい。三十分で戻ります」


「では僕も一緒に」


 遠野も確認の為と一緒に行くと言い出し、二人は紀一郎は立ち上がり貴賓室を後にした。


「先に僕の部屋に寄ってから行きます」


 ずっと持っていた学校の荷物を置こうと調整官室へ向かう。貴賓室からは目と鼻の先ですぐに着いた。


「入らないんですか?」


「『三郡分立』それぞれの長の部屋に他組織の人間は入るべきじゃない」


「鹿野は入ってますよ?」


「俺は官房長だ」


「お互い肩書きだけは立派ですね。まあ待ってて下さい、荷物を置くだけですから」


 変な所で律儀な遠野をとりあえず置いて中に入る。


 すると誰も居ない筈の調整官室にエレオノーラとルイセの姿があった。


 驚いて声を上げようとする衝動を必死にこらえ、同時に後ろを向き遠野の姿を確認する。


 幸いよその方向を向いていて気付かれていない。


 急いで扉を閉める。


「ちょっと、何でまだ居るの?」


 紀一郎は焦ってしまってエレオノーラに詰め寄ってしまう。普段女の子にそんな事は絶対しないのだが……


「も、申し訳ありません。あの、申し訳ありません……」


「いや怒って無いです、怒って無いんですよ。ちょと驚いただけで…… 怒ってはいないです」


 責めを受けると思ったのか怯える彼女を諭す様に宥める。


「すぐに掃除を終わらせますので」


 畏まって答えるエレオノーラだが、紀一郎はほとんど聞いていない。


 エレオノーラと一緒の所を遠野と鉢合わせずにどうしのぐかを脳みそフル回転させて考えていた。そこで出た答えは……


「いいですか、僕が戻るまで絶対この部屋から出ないで下さい。掃除は後で良いから出来るだけ静かにして、そこら辺にある物適当に食べてて良いですから……、コーラ以外。とにかく出ちゃダメです、良いですね?」


 普通に考えれば彼女が掃除で調整官室にいようが外にいようが何の問題も無い。


 しかし他の人達、特に鈴谷にはエレオノーラと一緒に居る所を知られたくないという意識が何故か働いたからだ。


「それじゃあまた後で」


 とりあえず彼女を強制的に説得して部屋を出ていった。



 部屋の主がいなくなり姉妹二人が残った。


 静かにするようにと言われたので残りの掃除を片付ける事も出来無ず、ソファーに二人で腰掛けていると妹のルイセが眠たそうに姉の膝に頭を乗せて少しグズり出す。


 エレオノーラは肩に掛けていたストール代わりのブランケットをルイセに掛けて眠るように促した。


それから十分程たっただろうか、部屋のすぐ外で声が聞こえてきた。


「こちらは調整官室ですので、三郡調整官が不在の時に鈴谷総督をお入れする訳には……」


「あいつが勝手に入るなって私に文句言うかどうか、賭けてみる?」


 日本語で話しているのでエレオノーラには話している内容は分からなかったが、何となく言い争っている感じがする。


 少しの沈黙の後、扉が開き鈴谷と鹿野と数人の男達が入って来た。


「あっ!? エレオノーラじゃん。久しぶりー」


 鹿野が声を上げる。


 エレオノーラは立ち上がりスカートの裾を上げて膝を曲げ一礼をした。


「誰? 鹿野ちゃん」


「ほら、前に話していた人ですよ、エレオノーラです。で、こっちは鈴谷八重先輩。この町の総督で一番偉い人なんだよ」


 鹿野は簡単に二人に互いを紹介をする。


「エレオノーラと申します、総督様……」


「よろしく。でもすごい服ね、誰の趣味?」


 鈴谷は表情を曇らせて随伴の出島職員を見る。


 急に矛先が向けられた職員は驚いて急ごしらえで仕方なかったとか、追加で衣服は運ばせているなどのを説明していると、そのやり取りを見ていたエレオノーラは弁明する様に話し出した。


「あの、いつもは調整官様から頂いた布を上に羽織っているんです」


「布?」


「はい、これです」


 眠っているルイセに掛けているブランケットを指す。


「あいつが? あいつが使えって、あいつから?」


 エレオノーラはこくりと頷いた。


「へ~、本当に……」


 鈴谷は一人で何かを得心すると、エレオノーラと眠っているルイセ以外の人間を人払いさせる。


 遠野は自分だけは残ると渋っていたが結局外に追い出した。


「ごめんなさい、気を使わせちゃって。座ったら?」


「いえ私はこのままで……」


 エレオノーラは鈴谷が入ってきてからずっと立ったままでいる。階級制度の厳しい世界で生きてきた彼女には仕方が無いのだろう。


「そう? ならいいけど。それで、ここでの生活はどう? 不便は無いかしら」


「はい、良くして頂いています」


「本当に? 今ちゃんと言ってくれたら改善させるわよ」


 それから少しの沈黙が流れた。


「本題なんだけど、カロの事どう思ってる?」


「カロと言うのは?」


「あなたにそのブランケットをプレゼントした奴よ。で、どうなの?」


 エレオノーラは鈴谷の意図を推し量り切れず、言葉を選んで言葉を返す。


「調整官様はとてもお優しい方だと思います」


 彼女の言葉に鈴谷は落胆した。


 社交辞令な回答に脈は薄いのだろうと思ったからだ。


「そっか、ならしょうが無いか~」


「あの…… それはどういう意味なのでしょう?」


「言ったままの意味よ。知らないでしょうけどあいつは頼まれれば誰でも親切にするけど、頼まれなければ自分から何かする奴じゃ無いの。案外現金な子なのよ」


「これは先日ここでお会いした時に私のドレスの事を気にされて頂いただけで……」


「それを『頂戴』とか『寒い』とか『欲しい』とか彼に言った?」


 エレオノーラは慌てて首を横に振る。


「ならあなたは気に入られたのよ。まあこれだけ美人でおっぱいちゃんなら当たり前よね~」


「あの、総督様は私に何を……」


「私はね、彼に大きな借りがあるの。それでどうしたら返せるのか、ずっと考えていたの」


 いくつか誤解を含んでいるが鈴谷が何を自分に求めているのかを概ね理解した彼女は、多少の諦めと覚悟を決めて言葉を捻り出した。


「調整官様に、私で『お返し』をすると仰るのですか?」


 予想通りの殺伐とした反応に鈴谷は思わず吹き出す。


「一応自分のルックスに自信はあるんだ?」


「いえ、あの……。そういう訳では……」


「そんなに畏まらないの、何もあいつに身を捧げろって言っているんじゃないんだから。ほら笑って」


 鈴谷は手を伸ばすとエレオノーラの両頬を軽く抓んで無理やり口角を持ち上げた。


「そうよ、こうやって。うん、とっても可愛い」


「ふぁい……」


 声にならない声を鳴らす。


「あいつにはね、こうやってニコッと笑って時々おっぱいを見せてくれれば良いのよ」


「胸をですか?」


「谷間をね。全部見せちゃダメよ、安くなっちゃうから」


「かしこまりました」


 真面目に答えるエレオノールに、少し間を空けて鈴谷が話す。


「…… 冗談よ」


「え?」


「ちょっとあなたをからかっただけ。本気にしちゃダメよ、分かった?」


「はあ……」


「それとあいつってむっつりだから、見てないフリしてあなたのおっぱいや太ももをずっと見てるわよ。気を付けて」


 嘘なのか本気なのか分からない鈴谷の話に困惑していると、貴賓室に戻って今の事態に気付いた紀一郎が大慌てで調整官室に飛び込んで来たのだった。


「それじゃあ滞在区に行きましょうか」


「ええ」


 微妙にやさぐれた紀一郎が小さく返事をする。


「私が帰った後で何を話していたかなんて、野暮な事彼女に聞いちゃダメよ」


 鈴谷は去り際に釘を刺して言った。


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