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ナルトラウシュ再び

 河原崎町より離れてナルトラウシュ領ヴェルター城では巨人ギガント襲撃から三ヶ月が経ち、復興はまだまだ途上ながらも人々の恐怖は薄れ日々の生活を取り戻しつつあった。


 治安も比較的良好で巨人襲撃時に真っ先に逃げ出した貴族や富裕の商人達と対比するように、最後まで戦い続けたナルトラウシュとその騎士団に民衆の支持が集まり、領内の政治的な面では以前よりやり易くなっている程だ。


 また辺境ならではの理由で物資の不足が懸念されたが、河原崎町からの援助と交易により復興の足音は五月蝿いと思える位の勢いで鳴り響いていた。


「御館様、先ほど私の使用している間者がカロ三郡調整官からの書簡を預かって戻りまして……」


 午後のティータイムにくつろいでいたナルトラウシュ辺境伯は、訪れたトレント主席行政官の報告に訝しげに眉をひそめる。


「預かる? どういう意味だ?」


「は、その者が言うには調整官殿から配達を頼まれたと」


「間者を送っていたとは聞いておらんし、わしは命じて無いぞ」


「申し訳ありません、私の独断でやるべきだと思いまして。それに彼らの法に反しない範囲での情報収集を命じておりましたので」


 スパイというと屋根裏に忍び込んだりビルの壁を吸盤で登ったり(オイ)をイメージする事が多いと思うが、ほとんどの場合は行商人等に成りすまして実際に商売を行いながら町の噂話や上流階級のゴシップ、経済状況等々を合法的に収集して相手勢力の内情を分析するのである。


 トレントもその定石に乗って河原崎町に配下の者を送り込んでいたのだ。


「正体が割れたのか?」


「どうでしょう……。話を聞く分にはその可能性は低いと思われますが、カマを掛けて反応を見ているのかもしれません」


「虎の尾を踏まん様にな」


 トレントは丸まった羊皮紙を差し出すが、既に蝋の封は破られていた。


「失礼ながら先に目を通させて頂きました」


 ナルトラウシュは咎める事無く書いてある内容に目を通す。


「どう思う?」


「我々に要求している事は分かります。ですが何故それをしたいのか私には理解の外です」


 紀一郎から手紙の内容はこうだ。



 本日未明に盗賊を討伐した。


 盗賊は百人以上の女性を捕らえていた。


 彼女らの為に古着を一人二着、予備を含めて三百着を用立てて欲しい。


 彼女らをナルトラウシュ辺境伯の責任で故郷へ送り返す仕事を要請する。


 帰る場所が無い人に関してはナルトラウシュ辺境伯の責任でまともな仕事を斡旋するように。


 捕らえた盗賊の身柄を引き取れ。


 なお全ての費用は鈴谷八重総督が負担する。



「前々からよく分からん事を言ってくる者達だが、今回は飛び抜けて分からんな」


「何故わざわざ金まで払ってこの様なまねを、女が邪魔なら売るなり捨てるなりすればよろしいでしょうに」


「相変わらず面妖な連中だな」


「何かの企みかもしれません」


「うがち過ぎだ、彼らは良くも悪くも何も考えておらんよ」


 どちらにしても今の彼らには多くの借りが有る河原崎町からの頼みを断る事が出来る状況に無いので、要望を受け入れる準備を行う事に決まる。


「古着は用達の商会に依頼して集めさせます。十日も掛からないでしょう」


「それでは遅い、町中に号令を出して今日中に集めさせろ」


「今日中ですか? そこまで急ぐ必要は……」


「夜警隊や従者達を街にやって高値で買い取ると家々に言って回れば、すぐに集まるだろう。今日中に用意して今日中に出発させる」


「我々はあの小娘の小間使いでありません、そこまでする必要は無いでしょう?」


「こだわるな? こういう時に恩を売っておくのも肝要だよ。どうせ費用は向こう持ちだ」


「御意。それともう一つ」


 報告がこれで終わったとナルトラウシュは思っていたのだが、トレントは動かなかった。


 むしろこちらの方が深刻な様だ。


「魔導士会の調査官がこちらに向かっているとの情報が」

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