エンダース
居留区ではちょっとした感動の再開シーンが演じられていた。
エレオノーラを連れて行くとそこにはライナ、マリシア、ルイセと何故か集まっている自衛官達が居る。
姉の姿を見たルイセと妹の姿をみたエレオノーラは互いに涙を流しながら抱き締めて再開を喜んだ。
「お姉ぢゃーん」
「ルイセ……」
その場に居た女の子達は皆泣き出し抱き合っている。
「よかった、よかった」
「本当によかったよー」
男達もかなりそれを貰って目頭を熱くして彼女らの無事を喜んだ。
しかし何故か紀一郎はいつの間にかさっさと自室に帰っていて誰も気付かなかった。
「よーしもう良いな。全員持ち場に戻れよー」
当人達は良いとして聴衆として周りにいた職員達はずっとそこに居る訳にはいかず、その場にいた最上官の明石が号令を掛ける。
蜘蛛の子を散らす様に去っていく。
「今日は晩飯食って寝るだけだからさ、ゆっくり休んでよ。まあ明日は明日で何かあるわけじゃ無いんだけどね」
最後に残った明石が声を掛けるとエレオノーラが何か溜めていた物を吐き出す様に返事をした。
「あの……、私達を救い出して頂いてありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
「いや、実は俺何もしてないんだよねえ。実際働いたのは仙道達だし、上に掛け合ったのはうちの三郡調整官なんだよね」
「三郡調整官、様?」
「君をここまで案内していたちびっちゃい奴。一応俺達の上役なんだ。そのうち会う事もあるだろうから、その時にでも礼を言ってやってよ。あいつ矢探れちゃっててね、君みたいな美人さんに礼を言われたら少しは治るだろうから」
そう言って明石も去って行く。
他にも色々と聞きたい事があったのだが、だからといって引き止める訳にもいかず、色々な不安を不安として抱えたままテントに入る事になる。
「お姉ちゃん、これあげる」
中に入るとルイセが嬉しそうに小さな両手に小さな葡萄の房を差し出した。
「これは?」
「お姉ちゃんの分」
『ルイセが食べて良いよ』とエレオノーラは言いそうになったのだが、自身の為にルイセが自分で食べてしまいたいのを我慢して残していた事を慮って受け取る。
「美味しい?」
「うん、甘くて美味しいわ」
ルイセはすごく嬉しそうに彼女の腰に抱き付いた。当分は離れないだろう。
「マリシア、ライナ、ありがとう。この子の事を守ってくれて」
「何言ってんだよ、エレオノーラにはずっと世話になってんだ。こんなの当たり前だよ」
エレオノーラの謝辞に改めて込み上げるものがあったのか、先程に引き続き瞳に涙を浮べる。
「守ったのはここの兵隊達であなたは何もしてないでしょ」
「馬鹿! うちが馬車をここまで走らせたから助かったんだろうが」
憎まれ口を叩き合う。しかしエレオノーラが戻りタリスの無事を知らされる以前と違い、毒気が無く愛嬌すらも感じられる。
「そんな事言わないの。ライナ、おいで」
彼女がそう言うとライナは黙って近付きルイセがした様に抱きつき顔をうずめた。
気丈に振舞ってきたライナだが、ずっと寂しさや恐怖に耐えていたのだろう。
「あなたは良いの? マリシア」
「馬鹿! そんなガキじゃねえよ、場所も無いし」
「そうね……」
これからどうなるのか……、不安は尽きなかった。
しかしその日彼女達は明日を迎える恐怖に脅える事無く眠る事が出来た。
さて、下では安堵の世界が繰り広げられていたのと対照的に、上の総督府では非常にピリピリとした空気に晒されていた。
「今は大した混乱も無く事を運べたとして、これからどうするつもりだね」
代表委員の委員長をしている安田一成が苛立ちを隠さない。
そしてそれは彼だけではなかった。
ただでさえ町の運営に不安要素が多い中、百人以上の食い扶持が増えた事に誰しも憤りがあるのは仕方の無い事だ。
「これからの予定ですが本人達から事情を聞いた後、ナルトラウシュを通じて住んでいた故郷に順次送り返す予定です」
委員会の会議に出ていた紀一郎は部屋の重ったるい空気に辟易しながらも話を進める。
「帰る場所が無い人も居るのでは?」
「帰郷を望まない人にはナルトラウシュの辺境伯に仕事を斡旋して貰う様にしています」
「大丈夫なのかね? せっかく救出したのに変な所に売られるなんて事になったら、苦労した自衛官達に申し訳が立たないよ」
別の委員が意見を挟む。
職の斡旋に関しては慎重に仕事の内容や雇い主について精査するという事で一応の理解を得る事になる。
その後も色々な指摘や嫌味が飛び出すも何とかこなす。
最終的には総督に決定を一任する事に収束した。
皆の目が鈴谷に集中する。
真ん中に鎮座して腕組みをして目を下に落としていた。
両腕に押えつけられて窮屈そうな胸元に目が行きがちだが、気のせいか口元が少し緩んで見え、支持率上昇を背景に今やラスボスの風格だ。
「反対する理由は見当たりません、このままで良いでしょう。ただし衣食住の面倒は三郡調整官の責任と予算で見るように」
人気者の鶴の一声で会議終了が宣告された。




