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受け入れ準備

「おーい、起きろ!」


 ガタガタと身体が揺れて、眠りから無理矢理引きずり起こされる。


 見ると南部が足で紀一郎が突っ伏していた机を揺らしていたのだ。


「あれ……、あれ?」


「もう一時半だぞ。行かなきゃなんねえんだろ」


 黒板の上にある時計を見ると、針は十三時四十分を指していた。


「どうしたんですか?」


「たまたま通り掛かっただけだよ。そうしたら揚屋の奴に起こすよう頼まれてな」


 そもそも紀一郎の教室は通りかかる立地ではないし、揚屋に使われる様な南部では無いのだが。


「昨日の件はどうなったんだ?」


「珍しいですね、南部さんが女の子の事を聞いて来るなんて」


 いつもは鈴谷LOVEでそれ以外の女子にまったく興味を示さない南部を揶揄する。


「別に、ただの好奇心だよ。大変か?」


「下で設営してる人達はね、まあでも女の人を乗せたバスが戻って来てからが本番ですよ」


「まだ来てないのか?」


「こっちも受け入れの準備が出来てませんし、数が数ですから現地も大変な事になってますし、捕まえた盗賊達もいますからすぐには連れて来れないんですよ」


「作戦がどんなだったか聞いてないか?」


 どうやら南部にとっての興味は戦いそのものにあった様だ。


「知りたいのはそっちですか……」


「どんな戦闘だったんだ?」


「公式発表以上の事は僕も知りませんよ。総督府の方が詳しく知ってるでしょう」


「俺は総督府付きじゃないからな」


「予備自衛官候補生になったんでしたっけ? しかし何でまたそんなシンドイ事を?」


「鍛えとかねえと戦わなきゃいけねえ時に動けないだろ。瓜生は何考えてるか分からねぇし、お前や遠野はそもそも戦力にならん」


「頼りにしてますよ、南部先輩」


 紀一郎のおべっかに満更でもなさそうな表情を浮べて去って行った。



夜明けと共に新たに設営が開始された居留区エリアで昨日から先に入居しているマリシア達は、一体何が起きているのか状況が全く分からずに仮設テントの中に居た。


「お外に出ちゃダメ?」


 ベッドとテーブル以外に何も無い狭いテントの中で暇に耐えられなくなっていたルイセが呟く。


「もう少し良い子にしていようね」


 ルイセを膝に抱えていたライナが諭す様に言い聞かせる。


 外に出るなと言われた訳ではないのだが、朝から鬼気迫るオーラを纏った自衛官達がシャカリキに作業をしている姿に気圧され、外に出るのをためらわせていた。


「ライナ、お姉ちゃん帰ってくる?」


「お姉さんは…… 少し遠くに行っているの。だからもうちょっと我慢してね」


 数時間おきに聞かれる質問にお茶を濁す。


 もっと深く聞いてくるかとも思ったのだが、ルイセ自身は二人の雰囲気に何かを感じているのか、駄々をこねる訳でもなくふてくされてベッドに寝転がった。


「なあ。表は一体何やってるんだ?」


 同じ空間に居るマリシアがルイセへの罪悪感からか、もしくは暇を持て余して故か声を掛ける。


「知らない」


「お前まで不機嫌になるなよ。ライナは私よりずっと頭が良いんだから、分かんないのか?」


「本当に何をしてるのか分からないのよ。外に行って聞いてみたらいいじゃない?」


「やだよ、なんだか外の連中怖いんだもん。あのカロとかいうのなら、まだ話を聞きやすいんだけどな」


 とは言うものの頭を動かすより体を動かす方が得意なマリシアは、さすがに窮屈なテントの中に居るのが辛くなったのか外に出て偵察を試みる事にした。


 外に出て周りを見渡したマリシアは驚いて目を見開いた。


 何も無かった広場には自分達が寝泊りしていたテントが大量に建てられ、それ以外にも大きなテントや中小の建物らしき物が建設されていたからだ。


 朝彼らが大量に何かを運び込んでいたのは知っていたのだが、昼過ぎには完成と思われる状態になっている事に狐に抓まれた思いにかられる。


「すげ~。なあちょっと来てみろよ!」


 驚きを共有したくなったのか中に居た二人を呼ぶ。


 僅か半日足らずで大きく様変わりした世界にマリシアと同じく感嘆の声を上げるが。


「何やってんだろうな……?」


「さあ」


 作業をしている彼らの意図が分からないまま二人が不思議そうに眺めていると、一人の男が話しかけてきた。


 声の方を向くと細身ながら褐色に日焼けして腕まくりをした自衛官の足立が嬉しそうに話しかけてくる。


「覚えてないかな?」


 マリシアは誰なのか分からなかった。


「ごめんなさい。覚えてない、です……」


 率直過ぎる返事に足立は方を落とした。


「まあしょうがないか、あの状況じゃあね。ほら昨日変な奴らから君らを助けた時にいた隊の一人なんだけど」


 それでもピンとこなかったのだが、彼がそう言うのならそうなのだろう、ぎこちなくお礼を言う。


 それから足立はテントの居心地がどうかとか御用聞きに託けてマリシア達とお近づきになろうとする。


 彼女達もここの人間を怒らせる訳にはいかないので作り笑顔で適当に話を合わせるのだがルイセはライナの服の裾を掴んで隠れるようにしがみ付いていた。


「よう! 元気になった?」


 心配した足立が尋ねるがマリシアもライナも気を使ってお茶を濁す様に誤魔化す。


「そっか、まだ知らないんだっけ。…… もう言って良いと思うんだけど」


 意図が分からずキョトンとしていると、足立は三人に顔を近づけて囁く。


「お姉さん帰ってくるよ」


 聞いた瞬間ライナもマリシアも言っている事の意味を理解する事が出来なかった。


 何故エレオノーラの事を知っているのか? 盗賊達に連れ去られた筈なのにどうして帰ってくるのか? なぜ目の前に居る無関係の兵士がそんな事を言うのか? 二人は真意を掴みかねていた。


「本当!?」


 ただルイセだけは話を額面通り受け取り大喜びする。


「夕飯前には会えると思うから、それまで良い子にしておくんだよ」


「うん!!」


 素直に喜ぶ姿に足立は顔を綻ばせるが、作業途中の彼を呼ぶ声がすると大急ぎで立ち去った。


「今の、どういう意味なんだ?」


「……、分かんない」


 ルイセとは対照的に怪訝な表情をしている二人は精一杯頭を捻って考えている。


「お前私と違って字も読めるし算術も出来るんだから、何か分かんだろうが?」


「分っかんないわよ、馬鹿マリシア! あなたこそ私より三つも年上なんだから、ちょっとは自分で考えなさいよ!」


 しかし足立の言葉に一種心が救われたのは事実で、少しだが憑き物が取れた様に軽快に口喧嘩を始めた。


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