モーニング・グロッキー
翌朝、武蔵乃学園とりわけ紀一郎のクラスの男子達は、異常にテンションが盛り上がり異様な空気になっていた。
「来たぞ!!」
男子達の目が一斉に一方向へ向かう。
立て付けの悪い教室の扉が開くとボロボロにやつれた紀一郎が入って来た。
「おはよーっす……」
何人ものクラスメイトがカロの下に駆け寄る。
「カロぉぉ! 俺たち友達だよな!?」
「どうなってるんだ!? 一体何があったんだよー?」
自身とは対照的なテンションに一歩も二歩も下がってしまう。
「なに!? 何なの?」
「美女、スゴイ、イッパイ」
「何で片言なんだよ……」
支離滅裂な事を言うが、彼らが何を言いたいか大体理解する。
「助け出したのがみんな女だったって知ってんだぞ!」
「すげーよな、みんな綺麗な女の人なんだろ?」
「良いな~ いいな~」
朝のニュースでは救出した人数しか流してないのにと紀一郎は内心思うが、結局は人の口に戸は建てられないという事だろう。
「良くないよ、そのせいで明け方からこっちめちゃくちゃ大変だったんだから」
「どうなの? 本当に美人なの?」
「悪いけどHR始まるまで寝る。落ち着いたらちゃんと話すから、とりあえずは勘弁してくれ」
食い下がるクラスメイトを払いながら席について突っ伏してしまった。
話は明け方までさかのぼる。
既に体勢が決しているであろう時間になっていても、出島機関へは何の情報も降りてきていなかった。
多くの出島職員は待機所で報告を待っていたのだが、痺れを切らして明石一尉が調整官室にやって来ていた。
扉をノックすると中から声が聞こえる。
「悪ぃな起こしちまって」
「いえ、ちょっと横になってただけですから。どうしました?」
ソファーに寝転んでいた紀一郎は身体を起こし伸びした。
「こっちに情報が何も無いもんでね、どうなっているか気になってさ」
「司令部経由と総督府経由で情報が来るはずなんですけど、まだ来ないですね。まあコーヒーでも飲んで待ちましょう」
起き上がるとコーヒーメーカーを立ち上げて、コーヒーを炒れる。
「どうぞ」
「悪いね」
男二人で色気の無いモーニーングコーヒーを啜った。
空がかなり白み始めた頃、ようやく調整官室の電話が鳴る。総督府からだ。
「はい、加賀です」
始めは作戦の成功が伝えられ、懸念していた戦死者はゼロだった事などが知らされた。
紀一郎の表情から安堵の表情になる。
しかし報告が下るに連れて、段々と険しく、いや変な顔になっていった。。
「はい、分かりました。はい、はい。失礼します」
受話器を置くと何ともいえない苦い顔を浮べる。
「どうだった?」
紀一郎の心境を読み取れなかった明石は心配気に見つめる。
「き、き。き……」
「き?」
「緊急招集です!! 動ける人間、寝ている人間を全員集めて下さい! あと緊急会議を始めます、上級職員を集めて下さい!」
深夜に近い明け方にハタ迷惑な話であるが、緊急に招集が掛けられると共に、紀一郎達は会議室に集まった。
「えー、皆さんに残念なお知らせです。捕らえられていた女性の救出なんですが……」
会議の冒頭紀一郎は不吉な事を言う。
「やっぱり駄目だったのか」
周囲から落胆の声が聞こえてくる。
妙な楽観論があっただけに、空気が暗くなっていく。
「それはまだ確認されていません」
「??」
「一体何があったの?」
集まっている職員達から疑問の声が上がる。
「救出した女性なんですが……、増えました。最終的な数はわかりませんが、百人は超えるとの事です」
現実感の無い数字に皆ポカンとした表情だ。
「もしかして全部女の人? …… 若い?」
紀一郎が頷くと、謎のどよめきが上がった。
「この人達は全員うちで管轄する事になります。事前準備として宿泊用テントやトイレの設置、医療支援等々多岐にわたります。恐らく僕は聴取や翻訳、上との折衝に専念する事になりますので、ハード面では明石一尉以下皆さんでお願いします」
紀一郎の説明を固唾を呑んで聞いている。
「以上です。解散してください」
話が終わると一瞬の静寂の後、職員達から大歓声が上がった。
「テント設営はお任せ下さい!!」
「緊急で医療施設を建てましょう!」
「食堂の食事を増産もっ!」
「急げっ! 時間が無いぞ!」
「さよならっ! 灰色独身生活」
異常なテンションのまま、台風か竜巻の様に飛び出して行った。
それからは目が回る忙しさで、彼女達を乗せるバスの手配や毛布や衣類に医薬品等々を用意して現地に向かわせ、その間に受け入れの準備が急ピッチで進められた。
周辺の無駄なやる気にガリガリと精神を削られながらも、何とか今日中には受け入れの目処がつけることが出来きたという。
結局紀一郎は登校時間ギリギリまで仕事をする事になり、睡眠不足と疲労でズタボロになってしまっていたのだ。
それから何とか学校へ辿り着き学生の本分へと帰って行った。
襲い掛かる睡魔を相手に頭をフラフラさせながら、授業を何とか乗り切る。
四限の授業が終わると吸い込まれる勢いで机に突っ伏した。
「カロカロ氏w 行かなくていいのでありまつか?」
紀一郎に反比例したかの様なツヤツヤの顔で話しかけてくる。
「頼む……一時間したら起こして……」
「お任せ下されw 昼ごはんを食べたら、起こしてあげるでありまつw」
朝のうちは話を聞こうと詰め寄る生徒もいたのだが紀一郎のあまりの消耗っぷりに気を使ったのか、授業終わりは誰も話し掛けず短いながらも安眠を得る事が出来た。




