出島徒然話-8
背後から不吉な声が聞こえて来た。
「鈴谷総督!? と、鹿野……」
「何そのおまけみたいな物言い」
振り向くとライナとは違う意味で好奇心を隠さない顔をした鈴谷と鹿野が立っている。
「何でいるんですか!?」
「え~? カロの癖に歓迎してくれないの~? 久しぶりに会ったっていうのにぃ」
三郡調整官をしていると物理的に鈴谷と会う機会が得られなかったので久々の再開に嬉しいのだが、反面マリシア達と逢い引き(笑)している所を見られた事に、妙な小っ恥ずかしさに襲われる。
「そうじゃなくて、出島に総督が入る時は事前に通告する事になってるでしょう?」
「そうね。でも私はそういうのには縛られないのよ」
「そういう事こそ自重して下さい」
「へー、これが噂の女の子かぁ。可愛いね」
「もしかしてこの子達を見る為にわざわざ来たんですか?」
「私は一応止めたんだよ」
鈴谷達三人が問答をしていると、もう一方の三人は新たに登場した人物に不安の色を見せていた。
「カロ……、この人だれだ?」
後ろに控えている鹿野は差し置いて、独特のオーラとカリスマを醸し出している鈴谷に警戒色を出している。
見目の優れている奴隷の女にとって粗暴な男共よりも、むしろ屈折した劣等感と優越感をぶつけて来る女達の方が性質が悪いと経験しているからなのだが。
「この人は鈴谷総督っていってこの町で一番偉い人かな」
そういう女関係の機微など分かるはずも無く、普通に紹介する。
「そう。私偉い人なのです。頭が高~い! 控えおろ~ぅ …… って、あれ?」
一昔前の時代劇で言っていたような台詞を大仰に吐く。が、それを聞いたマリシアとルイセを抱えたライナはベットを降りて本当に跪いてしまった。
「ここの人達にこの手の冗談は通じませんから」
鈴谷にしてみれば紀一郎の振りに答えただけだったのだが苦笑いだ。何とか彼女らを宥めすかして元の場所に戻って貰う。
「歳は私と同じくらいかな? 髪な綺麗」
「赤毛の人は僕と同じ十五で、金髪の子は十二です。で、ちびっ子は……」
ルイセを見るとさっきあげたプリンを食べずにずっと手に持ったままだ。
「カロどうしたの?」
「さっきプリンあげたんですけど、食べてなくって。…… プリンは苦手?」
隣に座っている紀一郎が諭すようにたずねると、小さい頭を左右に振る。
「お姉ちゃんが帰って来たら一緒に食べる」
少女の健気な姿にルイセとマリシアは再びズーンと落ち込んでしまい、それまであったそれなりに和やかな雰囲気がぶち壊しだ。
(何で救出作戦の事を言ってないのよ!)
耳元で鈴谷がヒソヒソと突っかかる。
(だって助け出せるか分からないし、そもそもそこにこの子のお姉さんが本当に居るかどうかも分からないんですよ。ぬか喜びさせちゃ可哀想でしょうが)
(何眠たい事言ってるのよ)
(どうせ明日には分かるんだから良いじゃないですか)
パコーン!
紀一郎の口答えに鈴谷の鉄拳が飛んだ。
「痛ったぁ……。何で殴るんですか!?」
「カロの癖に生意気だから」
「んなアホな」
「なーんか興が冷めちゃった。祐木先生の所行ってこよっと」
気分屋が気まぐれを炸裂させ風の様に去って行く。すると入れ替わるように夕飯をカートに乗せて持ち込まれた。
「何だったんだ一体……。あれ? 鹿野ちゃんは行かなくていいの?」
「私は元々連絡役で来てるの」
いくつかの書類を手渡される。モグモグさせながら中身に目を通すと代表委員会の議事録と、今後のタイムテーブルが書かれていた。
その中で作戦決行という文字があり、それを見ると口の中が苦くなるのを感じた。
紀一郎は無言になって掻きこむ様に平らげていく。
「どうしたのそんなに急いで?」
「悪い、まだ仕事残ってるから戻るわ。この子らの話し相手になってあげてよ」
「えっ? 私が?」
「まあ外語の訓練だと思ってさ。外語規約は知ってるでしょ? じゃあよろしく」
一人でさっさと食べ終わらせて外へ向かう。
「カロっち今日何時くらいに終わるの? 家帰る時送ってよ」
「悪いけど明日の事もあるから今日は泊まり」
「えぇ~」
「明石一尉に車を出すように頼んでおくから、帰る時は自衛隊の人に言ってよ」
繋ぎ止める口実も何も無いので女性陣はそのまま見送った。




