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出島徒然話-6

「ええ、先生。今回はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。それでは失礼します」


 紀一郎は調整官室で代表委員の一人に電話を受けていた。


 以前からの知己で鈴谷にも好意的な人物である。今回の一件にも賛成をしてくれていて、他の委員会メンバー説得にも一役買ってくれていた人物だ。


 作戦案可決がされてその報告がてらに紀一郎に伝えてくれていた。


 いずれ正式に連絡がくるだろうが今回の問題は基本的に自衛隊と総督府だけの問題なので、元々話を持って来た紀一郎達であっても出島機関は基本的に蚊帳の外なのだ。


 彼らには悪いと思いつつも自分の出来る事はほぼ終わったと考えて、最終的な報告をする為の書類作りをしていた。


 三郡調整官を始めた頃は、こんな事を自分が本当に出来るのかと不安にもなっていたのだが、慣れとは恐ろしいもので今では報告書だの稟議書だのを書くのはお手の物だ。


 ある程度完成した書類に目を通していると、電話が鳴り出した。


「祐木だ。今暇か?」


 祐木真希子からの電話だった。ナンバーディスプレイを見ると、医務室からではなくて携帯電話からの着信だ。


「祐木先生? どうしたんですか、一応ひまではないです」


「マリシアちゃん達のテントに来ているんだが、カロ君も来ないか?」


「僕一応忙しいんですけど……。あっ、そういえば。彼女達の診断書も上に提出しないといけないんで、今日中に出して貰っていいですか?」


「ならこっちに来なさい。今丁度診察もしてるしね」


 そう言って相変わらず一方的に通話を切る。断る隙を与えないというのも紀一郎を動かす一つのテクニックなのだ。


 やれやれと軽い溜め息を付くが、可愛い女の子に会いに行く口実ができた事に悪い気がするはずが無く、三郡調整官報償費でいつも置いているケーキ屋『メルヘン』から卸して貰っているプリンを手土産に向かった。



「加賀です」


「入っていいぞ」


 テントでノックしようが無いので声を掛けると、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 許しを得て中に入るとマリシア達と祐木が座っていた。


「何ですかこの大量のブツは?」


 テーブルの上には何故かお菓子や果物、パン類等が所狭しと置かれている。


 金髪や赤毛の美少女たちの気を引こうと出島の職員達が持ってきたのだろう。


「ここの男達が引っ切り無しに持って来て置いて行ったんだよ」


 それを聞いた紀一郎は本能的に手に持っていた物を背中に隠す。


「どうせ君も持って来たんだろう?」


 出せ出せと手で催促する。バツが悪かったのだが、渋々前に出した。

「…… 『メルヘン』のプリンです」


「どいつもこいつも……」


 半ば呆れたて乾いた笑いを上げる。


 スケベ心を見透かされて小っ恥ずかしい思いをするが、マリシア達は多少困惑していても自衛官達のプレゼントに嬉しそうだし、ちびっ子のルイセは飛び跳ねて喜んでいる姿は素直に嬉しかった。


「飯食べたか?」


「まだですけど」


「ならここで食べるといい。この子達もこれからなんだ」


「いや別に自分の部屋で食べますけど、通常業務がまだ残ってますし」


 しかし祐木はそんな事などどこ吹く風で外に待機している自衛官にもう一食分持って来るように頼んだ。


「勝手に頼まないで下さいよ。それに自衛官の人をあまり顎で使うみたいな真似は……」


「いいんだよ、私は医官だから。二佐待遇、つまりは上官。っていうか階級的に基地司令の次に偉い」


 何故か勝ち誇った様にピースサインをする。


 それを見て年齢や立場的に微妙な状態にある紀一郎は、少し羨ましいと思ってしまう。


「でも何で僕がここで夕飯を食べないといけないんですか?」


「それはな……」


「それは?」


 ぐっと腕が伸びてきて紀一郎をヘッドロックをして来た。苦しさと胸元の柔らかさに頬が熱くなるのだが、


「この子達は知らない所に連れてこられて不安なんだよ。お前が話し相手をしてやれ」


 耳元で囁いてくる。


「祐木先生がすればいいのでは……」


「私は忙しいんだ。それに子供の相手は子供がするのが一番良い。カルテは後で調整官室まで届けさせるよ」


 そのまま力を抜いて開放すると、後ろ手をひらひらさせながら去って行った。

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