出島徒然話-3
「こちらが皆さんの寝泊りするテントになります」
自衛官達に案内された場所は調整官室からそんなに遠くない場所にあり、調整官区と呼ばれる地区の隣接する何にも無い場所にある。
一応逃亡防止に簡単なロープを四方に引いてあるが、逃げようと思えば簡単に出て行く事が出来る。しかし本当に何も無い荒野を歩いて出て行く事を考えればありえない話だ。
「ここ……、ですか」
テントには二段ベッドが二つあり、簡易のテーブルが備えられていた。
ルイセを背負っていたもう一人の自衛官は下段のベッドに乗せる。
「次は夕食になると思いますが、うちの人間が持ってきますのでこちらで食べてください。それと申し訳ないのですが、許可無くこのエリアから出る事は出来ません。何かあったら入り口に居る者に声を掛けてください」
簡単な説明をすると彼らは去って行った。
殺風景にも程がある部屋で腰を掛ける。眠っているルイセに気を使ってか無言のままだ。重苦しい雰囲気を紛らわすようにマリシアが口を開いた。
「さっき連れて行かれた時、何かされた?」
「ここに来る時に何があったとか、私達の事とか聞かれた。あとご飯を貰った。マリシアは?」
「私も同じ事を聞かれた。飯旨かったか?」
「うん……」
「そっか、タリスやエレオノーラにも食わしてやりたかったな。ここもせっかく四人部屋なのに……、って何泣いてるんだよ!?」
マリシアのデリカシーの欠片も無い話に泣き出してしまった。
「馬鹿マリシア!」
「悪かったよ、泣くなって。ルイセが起きちまうだろ」
「なぁに?」
不意に聞こえた眠たそうな可愛らしい声に二人はギョっとして声の方を向く。
「起きた? 痛い所は無い?」
涙をぬぐいながらライナはルイセを気遣う。
「ううん、痛くないよ。姉ちゃんは?」
恐れていた未来が来てしまったとマリシアは表情を凍らせた。
「ルイセ、あの、ね……」
何とか声に出そうとするが、喉下でつっかえる様に出せない。
立ち尽くすマリシアの代わりにライナがルイセに声を掛ける。
「姉さんは今お仕事に行っているの。だから良い子にしていようね」
「いつ帰ってくるの? 早く帰って来ないかな」
無邪気なルイセを見ていると胸が締め付けられる思いになる。
「今日はちょっと遅くなるかな。それよりお腹空いてない?」
そう言って懐に隠していた小さな葡萄の房をルイセの前に見せた。
「これは?」
「葡萄って言うの、甘くて美味しいよ」
一粒ちぎってルイセに食べさせる。よほど気に入ったのか、あっという間に食べきってしまう。
食べ終わると少しの間起きていたのだが、まだ体力が戻っていないのかすぐにまた眠ってしまった。
「どうすんだあんな事言って……」
「そんな事言ったって、弱っている時に追い討ちを掛ける様な事は言えないわよ」
ルイセに真実を話す事を先送りしてしまった事に罪悪感を抱く。結局いつかは言わなければならないのだが、どうしてもその踏ん切りがつかなかった。
とりあえず今日は黙っていようと決めた事で、刹那的だが安堵を感じてしまう。
「はい、あなたの分」
ライナはもう一つ懐から葡萄の房を取り出した。
「え、これは?」
「さっき貰ったご飯に付いてたの、二人にも食べさせようと思って隠してたの」
マリシアはバツの悪い顔をする。
「どうしたの?」
「実は私もさっき食べたんだよね。飯の時に……」
「一人で? 全部? 私達より年上なのに?」
「いや、ここの偉い人が全部食べて良いって言うから……」
「だからって本当に全部食べてどうするの! せめてルイセの分くらいとっておきなさいよ。馬鹿マリシア!」
実際本当に紀一郎から言われたからなのだが、二人の思慮深さの差が意図しない形で出てしまった。
ライナは溜め息をつく、この葡萄はルイセに食べさせようとテーブルに置いた。




