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歩哨のお仕事

 何も無い荒野を一台の馬車が全速力で走っていた。


(急げ! 急げっ!!)


 それは中々に立派な馬車なのだが、その御者席には似つかわしくないボロ布を纏った少女が必死に馬の手綱を振るう。


 ひたすら乱暴に走らせている為、後方の席はとんでもない状況になっているだろうが、そんな事は気にして入られない。


 馬車の後ろには馬に載った野盗達の群れが迫っていたからだ。


 既に目と鼻の先に迫っており、下卑た声が御者席まで聞こえてくる。


(くそっ! クソ!!)


 次いで大きな衝撃と音がした。どうやら馬車の一部が破損したようだ。しかし止める事は出来ない。


「ライナっ! 下がって!!」


「タリセスターー!」


 野太い男達の雄叫びがする中で、女の声が聞こえる。同乗していた仲間の声だ。


 既に後ろだけでなく左右も野盗達に挟まれ、もう逃げられない状況に陥っている。


 そいつらの仕業なのだろうか? 不意に片側の車輪が外れてスピードが落ち始めた。


 汚い格好をした男達に囲まれ、嫌がおうにもこれから自分達の行く末を予感せずにはいられない。


(ちくしょう! チクショウッ!)


 自らの境遇を呪うその少女は、神に祈る事はしなかった。しかし祈ると祈らざるとに関わらず神様は助けてはくれない。


 絶望の中ひたすら手綱を振るい続ける。


 いつでもその馬車を止められるはずなのだが……、男達はまるで狩りを楽しむ様に追い立てていた。


 しかし小高い丘を登ったあたりで事態は一変する。


 それまで見なかった人工物が現れ、それが左右に延々と続いていたのだった。

(何これ……! 何?)



「なあ、アレ何に見える?」


 警戒線で歩哨をしていた陸上自衛隊員の岸谷三尉が声を掛ける。


「馬車? それとその周りに、『ザ・盗賊』って感じの奴が張り付いてますね」


 同じく歩哨の足立二曹が答えた。


「どっちに付く?」


「おんなぁ! ……、すみません。行ってみたかっただけです」


 しょうも無い掛け合いをする。自分達が守っている地点は行商隊のコースから大きく外れており人通りはほとんど無い。侵入者が来ないように監視しているだけだ。


 なんにせよこのまま直進されても困るので前方の集団を止める事にした。


「当てるなよ! 状況も分かんねえで殺したりしたら、始末書じゃすまねえからな」


 高機動車を前に出し設置されている軽機関銃で威嚇射撃を開始、断続的な轟音と共に銃口の先から曳光弾特有の鈍いオレンジ色をした光の線が放たれた。


 ここファンタジー世界では銃口を向けてもその意味が理解されないし、『進入禁止』などと看板を出していても字を読めない者がほとんどなので、馬などで走ってくる者を止める為に曳光弾を使って、視覚的に相手を制する事にしている。


 ここの馬は銃声に慣れておらず簡単に足を止める事が出来る。案の定馬車馬は驚いて足を止め、盗賊達も警戒する様に動きを止めてこちらを睨む。


 しばし睨み合い、諦めて去って行った。



「驚いた、本当に女の子だったとは」


馬車の中を覗いていた岸谷三尉が誰に言うわけでもなく呟いた。


 馬車には御者をしていた十四、五歳くらいの少女とそれよりも若いであろう少女と、その子が抱きかかえる二、三歳くらいの女の子(多分)が乗っていたからだ。

 そして同時に違和感を覚える。


 日本人の岸谷から見ても豪華だと感じる馬車に、雑巾を縫い合わせて縫ったんじゃないかと思えるほどみずぼらしい服を着た少女達。


 行商や旅行の類ではない事は明らかだった。


「そんなに怯えなくて良い。俺達は君らの敵じゃない」


 彼女達は返事を返さなかった。言葉は通じているみたいなのだが、恐怖心が勝っているのだろう。


「さて、どうしたもんかな……」


 これからどうしようかと、斜め後ろに居る足立二曹を見る。すると何か腹に抱えている様な神妙な面持ちで彼女達を見ていた。


「足立?」


「え、あっ、はい。応援を呼んでありますので、到着しだい出島に送ります」


 足立はいつもはもう少しフランクに話すのにどうしたのだろうかと思ったのだが、大して気にする事も無く詮索する事はしなかった。


「そうか……」


 現状で自分達が出来る事はほとんど無いだろうと、応援の部隊が到着するのを待つ。


 部隊が到着すると彼らに監視任務を引き継ぎ、岸谷の部隊は彼女達を出島まで連れて行く事になる。


 事情を報告する必要があるからだ。


「大まかな事情は出島機関に伝えてあります。受け入れも出来ているはずです」


「後任よろしくお願いします」


 馬はそのままここに繋ぎ、彼女達を馬車に乗せたまま高機動車で牽引する。


 岸谷達は出島に向かった。

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