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無線連絡

「陸上自衛隊駐屯地司令の森野一佐だ。加賀紀一郎君だね?」


 輸送用ヘリ(チヌーク)に載っている無線からざらついた音声が聞こえてくる。


「はい」


「無事でよかった。救出が遅くなってしまった事、本当に申し訳ない」


「僕の方こそ助けて頂いてとても感謝しています」


「すぐに撤収させる、もう少し辛抱して欲しい。ご家族も待っているよ」


 ちらりとチヌーク内に座っているエメラインを見る。


 初めて目にする機械文明に好奇心よりも不安感の方が勝っているのか、落ち着かない表情で紀一郎を見ていた。


「いえ、それなんですが……。司令官にお願いがあるんです」


「私に? どんな事だい?」


「この町を襲っている怪物を退治して欲しいんです」


 紀一郎の周りで聞いていた自衛官達が(おっ!)という表情になる。無線の向こう側の人間も面食らっている様だ。


「そう来たか……。しかし今回は君の救出という作戦の命令以外は出ていないんだよ」


「でしたら、新しく怪物退治の作戦を出して欲しいんです」


「しかし何故君が?」


「この世界で暮らしていくならどうしたってこっちの住人と関わらなきゃいけないでしょう? それならこの街と通じるのが一番だと思うんです。怪物を倒して日本の自衛隊の力を見せ付ける事が出来れば、交渉を有利に進められるでしょう。幸い僕がいれば交渉が可能です」


 紀一郎は自分の値打ちを高く見せるのが得意だ。生徒会時代に交渉担当をしていた経験から自分の主張を単に推すのではなく、自身の主張を受け入れた方が得だと思わせる事が重要なのだと自然と身に付いていた。


 しかし森野一佐の反応が鈍い。同世代の生徒相手と同じ様には行かないのかと思っていると。


「申し訳ないがそれは政治的な問題だ。我々自衛隊がどうこうする事は出来ないのだよ」


 周りから溜息が聞こえる。


「だったら政治的な問題を決められる人に話を通して下さい。これはチャンスなんです」


 紀一郎は食い下がる。


 エメラインを自由の身にする為にはこの町を支配している連中に恩を売っておきたいと思っていたからだ。


 同時に河原崎の住人にとって異世界の人間であるエメラインを町に迎え入れさせなければならない、それにはこの領地と交流を結ばせ通訳役として自分が重要なポジションに立つ事が必要があると考えていた。


 その為には町の実力者を動かす必要がある。


 しかし河原崎町にはせいぜい町長と町議会が存在する程度で彼らに力など無く、無線の先の人物つまり自衛隊の長を口説き落とせばなんとでも成ると踏んでいた。


 しかし予想を反して無線のスピーカーから意外な声が聞こえてきた。


「は~い、カロ」


 紀一郎は面くらう。


「え!? は? って、鈴谷会長?」


 一瞬頭が真っ白になった。ずっと会いたいと願っていた人物の声に目頭が熱くなる。


「久しぶり、元気だった?」


「はい! 会長こそ無事で何よりです」


「それってこっちの台詞なんだけど。それともう私生徒会長じゃないんだよね、もっと大事な仕事をする事になっちゃって辞めなきゃならなくなっちゃったの」


「それは、残念ですね。戻ったら僕も手伝いますよ。それで、その…… 申し訳ないんですけど、森野司令官に代わって貰えますか? すごく大事な話の最中でして」


「知ってる、私ずっと横で聞いてたから。自分をさらった人達を助けたいなんて、酔狂なのは相変わらずね」


 紀一郎は苦笑いをする。いたずら好きの鈴谷が彼を困らせようとしているのが分かったからだ。


「言いたい事は分かりますよ。僕だってぶん殴ってやりたいっていう気持ちはありますよ。でも……」


「でも?」


「だからといってあんな怪物どもに食い殺されなきゃならないほど、罪深い訳ではないはずです」


 それを聞いた鈴谷は吹き出した。


 緊迫した空気など無いかの様に振舞う彼女に戸惑う。


「いいわ。あなたの提案、聞いてあげる」


「は? どういう事ですか?」


「だからあなたの言う通り怪物退治を許してあげるわ。その代わりちゃんと交渉を成功させるのよ」


 紀一郎は困惑した。それと同時に別な疑問が湧いてくる。


「あの鈴谷会長が今いる場所って自衛隊施設のどっかですよね?」


「司令室よ」


「……、何でそこに居るんですか?」


 加賀を見ていた明石達は無線のやり取りを聞きながら笑いを噛み殺した表情をしている。


「私が代表だからよ」


「な、何の代表?」


「河原崎町の代表に決まってるじゃない。正確には臨時代表。カロの救出作戦は私が決めたのよ、感謝してよね?」


 ベタな表現だがハトが豆鉄砲を喰らった様な表情をすると、自衛官達から笑いが毀れた。


「冗談でしょう?」


「本当よ、周りの人達に聞いて見なさい」


 明石達を見る。笑いながらだがいたって真面目に首を縦に振った。


「何でそんな事になってるんですか!?」


「決まってるじゃない、クーデター起こしたのよ」


「クーデター?」


「そ、あなたが捕まっている間に色々あったのよ。その辺は帰ってきてから教えてあげるから、今はさっさとこの一件を片付けなさい」


 余りにも突拍子も無い話に納得がいかないが、説得が上手くいった事に満足して飲み込む。


「じゃあ政治の話はこれで終わり。後は軍人さんに任せるわ」


 そう言い無線から悪戯な声が消え、代わりに真面目な余所行きな声に代わる。


「明石一尉、あなた方で怪物達を殲滅する事は可能ですか?」


「はっ、残念ながら現状の火力では極めて困難であります。アパッチが先ほど交戦しましたが、一体倒すのにかなりの弾薬を消費しました。恐らく後二、三体が限界と思われます、現状我々の装備では不可能であります」


「達成不可能な事をあなた方にお願いする事は出来ません。現場指揮官のあなたの判断に任せます、どうしますか?」


 皆の目が明石に集まると彼は周りに目配せした。


「任務遂行の為に支援戦闘機による近接航空支援を具申いたします」


 紀一郎は無表情を装いながら内心でガッツポーズをした。

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