08 穏やかな食卓
08 穏やかな食卓
同じ頃、『赤い螺旋』の五人は、宿の一室に集まっていた。
「あの娘の魔力は、少なかったよな」
椅子に腰を下ろした男が言った。
「せいぜい、腰痛を治す程度じゃないか」
「俺も、そう見えた」
別の男が腕を組んだ。
「これ以上、深入りしないほうがよさそうだ。本当の依頼主、相当まずい相手だろう」
「報酬はいいんだがな……」
「だから、嫌な予感がするんだよ」
リーダーは、机の上に広げた荷物を見た。
しばらく考えてから、口を開いた。
「明日、撤収する。一番早い馬車に乗るぞ」
「行き先は?」
「馬車が行くところだ。まずは、この街を離れる」
誰も反対しなかった。
しかし、次の街のギルドには、何故か依頼者が待っていた。
「どんな些細なことでも、参考になります」
穏やかな口調だった。
五人は顔を見合わせ、森に住む姉弟のことを話した。
女の名前。家の場所。弟の年頃。二年前に引き取ったという噂。
依頼者は丁寧に聞き、約束していた額より多い金を渡した。
「ご協力に感謝します」
重い金袋を受け取ると、五人の口は軽くなった。
その夜は、いつもより多く酒を飲んだ。
誰も、姉弟がこれからどうなるのかを話題にしなかった。
寝台へ倒れ込む頃には、胸の奥に残っていた落ち着かなさも、酒でぼやけていた。
◆◇◆◇◆
『風雲のハヤブサ』が戻らなかった日から、一週間ほどが過ぎた。
森の奥で、五人の遺体が見つかった。
冒険者が全滅することは、珍しくない。
ギルド職員は報告書を読み、名簿の五人の名前に死亡の記録を付けた。
ペンを置くと、次の書類へ手を伸ばした。
◆◇◆◇◆
時は戻り、森の家。
アレクが家へ戻ると、止めていた時間が動き出した。
窓辺で留まっていた光が揺れ、外の木の葉が風に鳴った。
ソファの上で、ロズマリーのまぶたが動いた。
「……あら?」
目を開け、天井を見つめる。
裁縫をしていたはずだった。
どこまで縫ったのか、思い出そうとしていると、アレクが顔を覗かせた。
「疲れていたんですか?」
「私、眠ってしまったのね」
「ずいぶん長いお昼寝でしたよ。ソファのままでは風邪を引くので、毛布をかけておきました」
「そうだったの。ありがとう」
ロズマリーは起き上がり、髪を整えた。
「最近、あなたに世話をしてもらってばかりね」
アレクは微笑んだ。
「僕は、嬉しいです」
「顔を洗ってくるわ。少しぼんやりしているの」
「はい。食事の支度は、できていますから」
彼女が部屋を出ると、アレクはソファに残されたシャツへ目を向けた。
袖口に、まだ針が留まっていた。
彼は針を外し、布を丁寧に畳んだ。
水場から、ロズマリーの声が聞こえた。
「アレク。今日は何を作ってくれたの?」
「食堂で教わった料理です。ロズマリーにも食べてもらいたくて」
「楽しみだわ」
アレクは畳んだシャツを置き、食卓へ向かった。
彼女の椅子を引き、皿を並べる。
戻ってきたロズマリーを迎える顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。




