06 街で聞いた噂
06 街で聞いた噂
街で働くようになってから、月日は少しずつ流れていった。
ある日の買い物で、ロズマリーは驚く話を聞いた。
領主のスタンリーが襲われ、怪我のために歩けなくなったという。
護衛をしていたウィルも、右腕を失ったらしい。
「もう騎士は続けられないそうだよ」
店の女主人は品物を包みながら話した。
「キャシーと結婚して、あちらの商会で働くことになったんだってさ」
「そうですか……」
ロズマリーは、袋を受け取ったまま黙り込んだ。
ウィルには世話になっていた。怪我をしたと聞けば、気の毒に思う。
けれど、ウィルがキャシーの夫になったのなら、見舞いに行く気にはなれなかった。
(これで、私のことで何か言われることもなくなるかしら)
そう思ってしまい、少し後ろめたかった。
さらに、キャシーの兄も膝を悪くして、歩けなくなったと聞いた。
もう、家へ押しかけてくることはないだろう。
(こんなことで安心するのは、申し訳ないけれど……)
ロズマリーは小さく息をついた。
アレクが菓子を喜ぶので、その日は砂糖と小麦を多めに買った。
最近では、料理も彼のほうが上手になりつつあった。祖父の料理の本を読み、食堂でもこつを教わっているらしい。
「今日は、僕が作ります」
そう言って台所に立つ日が増えている。
(少し前までは、私が料理していると腰にしがみついていたのに)
成長は嬉しい。
しっかりした身体つきになったアレクが荷物を持つ姿を、ロズマリーは頼もしく眺めた。
帰ろうとしたところで、見知らぬ男たちが行く手に立った。
「君がロズマリー?」
先頭の男が笑いかけてきた。
「俺たちは『赤い螺旋』っていう冒険者なんだ。少し話を聞きたいんだけど、茶でも飲まないか?」
「申し訳ありません。今日は、もう帰りますので」
「そんなに急がなくてもいいだろう」
男の手が伸び、ロズマリーの腕を掴んだ。
「離してください」
「少しくらい、いいじゃないか」
アレクの顔から表情が消えた。
そのとき、横から別の声がした。
「嫌がっているだろう。手を離せ」
振り向くと、別の冒険者たちが立っていた。
言い合いの末、『赤い螺旋』は不満そうに去っていった。
「大丈夫だったか?」
助けてくれた男が尋ねた。
「ありがとうございます」
「俺たちは『風雲のハヤブサ』だ。驚いただろう。少し座って、落ち着いていったらどうだ?」
結局、その誘いで喫茶店へ入ることになった。
初め、アレクは不機嫌そうに黙っていた。
けれど、冒険者たちが旅の話を始めると、次第に質問をするようになった。
「どの辺りまで行くんですか?」
「依頼次第だな。隣国へ行くこともある」
「人を探す依頼も?」
「ああ。そういう仕事もあるぞ」
真剣に聞いているアレクを見て、ロズマリーは少し寂しくなった。
(いつか、この子も遠くへ行くのね)
この小さな家と街だけで、一生を過ごす必要はない。
アレクには、もっと広い世界がある。
わかっていても、今の暮らしが終わる日を想像すると、胸の奥が冷えた。
予定より遅い帰宅になった。
「ロズマリーは、座っていてください。夕食も僕が作ります」
「ありがとう。でも、あなたも疲れたでしょう?」
「僕は大丈夫です」
台所へ向かう背中を見送り、ロズマリーは椅子に腰を下ろした。
ずいぶん頼もしくなった。
けれど、ときどき怖い夢を見るらしく、夜にはロズマリーのそばを離れたがらない。
(体の傷は治せても、心の傷は簡単には治らないのね)
ロズマリーは、今夜はどの本を読んであげようかと考えた。




