05 天使を守るために
05 天使を守るために
この家へ来て、一ヶ月ほどが過ぎた。
アレクには、国で暮らしていた日々が遠い昔のように思えた。
ロズマリーと過ごす毎日は、穏やかだった。
朝は一緒に食事をし、庭へ出る。彼女がハーブを摘むそばで、自分は本を読む。家の仕事を手伝えば、ロズマリーは必ず礼を言ってくれた。
本を読んでもらいながら髪を撫でられる時間が、何より好きだった。
(やっぱり、僕は死んでいるんじゃないか)
そう思うことが、何度もあった。
初めは祖父の部屋のベッドで寝ていた。
けれど、ある夜、眠っているふりをして苦しげな声を漏らすと、ロズマリーが駆けつけた。
「アレク。大丈夫よ。ここにいるわ」
背中を撫で、落ち着くまでそばにいてくれた。
次の夜も、その次の夜も、アレクは彼女を呼んだ。
今では、眠れないと言えば、ロズマリーは隣に横になってくれる。
夜中に目が覚めても、すぐそばに彼女がいる。その温もりを確かめると、安心してまた眠れた。
それでも、ロズマリーについて知らないことは多かった。
本棚には、スコルピオネス帝国に関する書物が妙に多い。
彼女自身も、ひどく大きな魔力を持っているように思える。普段は隠されているのか、ほとんど感じられないが、自分の傷を治したときの力は並のものではなかった。
そして、アレク自身の魔力も増えていた。
以前なら使えなかった魔法が、本を読んで試すだけで使えるようになる。
(おじい様は、どんな人だったんだろう)
机や本棚を見ても、答えは出なかった。
ただ、力が増えたことには感謝している。
ロズマリーを守れるからだ。
一見、平和なこの辺りにも、彼女を困らせる者はいた。嫌がらせをする者も、望まない誘いを繰り返す者もいる。
(そういうやつを排除するのは、僕の仕事だ)
ロズマリーは、僕が何をしているのか知らなくていい。
(僕のロズマリーを損なうやつは、殺しておかないと安心できない)
義母の顔を思い出し、アレクは薄く笑った。
あの家を追われなければ、ロズマリーには会えなかった。
(このことだけは、感謝してもいい)
だが、その感謝で許すつもりはなかった。
(いつか殺すけどな)
やがて、ロズマリーは週に一度、街で働くようになった。
初めは週に二度と頼まれたらしい。
「二度も行ったら、ここの仕事ができなくなります」
アレクが反対すると、ロズマリーは考え直してくれた。
「そうね。まずは一度にしていただきましょう」
初日の帰りは、ウィルに送られてきた。
それを見て、アレクは翌週から付いていくと決めた。
「待っている間、僕も何かします」
実際、治療院の近くにある食堂で、手伝いをさせてもらえるようになった。
皿を運び、片付けをし、厨房でも少しずつ仕事を教わった。
冒険者がよく来る食堂だった。働いていると、さまざまな情報が耳に入った。
その中には、ロズマリーの噂もあった。
アレクは皿を拭きながら、誰が何を言ったのか、一人ずつ覚えていった。




