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天使と呼ばれた魔女は、弟のように可愛がる少年の本性を知らない  作者: 朝山みどり


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04 弟のいる暮らし

04 弟のいる暮らし


 食後、アレクはロズマリーがポーションを作る様子を見ていた。


 量った材料を鍋へ入れるたび、香りが変わる。ロズマリーは火を調節しながら、その違いを教えてくれた。


 そこへ、庭から大きな声が響いた。


「ロズマリー! いるんだろう!」


 ロズマリーの手が止まった。


「……少し待っていてね」


 そう言うと、ロズマリーは庭にでた。アレクもあとに続いた。


 庭にいた男は、挨拶もせずに詰め寄ってきた。


「さっさと出ていって、この土地を明け渡せ。お前がいると目障りなんだよ」


「何度も申し上げていますが、ここは私の家です」


「キャシーが嫌がっているんだ。隣にお前が住んでいるのが、嫌で嫌でたまらないってな」


 男は軒先へ手を伸ばし、干してあったハーブを叩き落とした。


 束が地面に散らばった。


「やめてください」


 ロズマリーが声を強めた。


「キャシーさんとは、一度しかお会いしていません。私が何をしたというのですか」


「キャシーがお前を嫌いだと言っている。それで十分だろうが」


「それでは、お話になりません」


「ああ? わからないやつだな」


 アレクは、ロズマリーのそばで男を見ていた。


 男の目は、怒鳴っている間も彼女の体を追っていた。


 アレクは指先をわずかに動かした。


 声も光も出さず、男の膝へ魔法を送り込む。


(明日の昼頃には、歩けなくなる)


 男は何も気付かなかった。


 捨て台詞を残し、散らかったハーブを踏み越えて帰っていった。


 アレクは、その足を見送った。


(一生、引きずって歩くがいい)


◆◇◆◇◆


 ロズマリーはしゃがみ込み、地面に落ちたハーブを拾った。


 アレクも隣で拾い始めた。


「キャシーさんというのは、あの人の妹なの」


 ロズマリーは、折れた茎をより分けながら話した。


「昔から、私に嫌がらせをするんだけれど……私、一度しか会っていないのよ」


「何故ですか?」


「私にもわからないわ」


 ため息が漏れた。


「お兄さんだって、わかっていると思うの。私がキャシーさんに何かするような付き合いはないって。それなのに、ああして嫌がらせだけして帰っていくんだから」


 手の中の葉から、まだいい香りがした。


 乾燥が進んでいた分、叩き落とされた束はあちこち折れてしまっている。


「本当に、嫌になるわ……」


 最後の言葉は、アレクに聞こえないほど小さな声でこぼした。


 怒鳴り声も嫌だったが、あのじっとりした視線は、もっと嫌だった。


 片付けが終わると、アレクが本を持ってきた。


「読んでもらってもいいですか?」


「ええ。どこから?」


「この続きからお願いします」


 アレクは読み書きに不自由していなかった。祖父の本棚から次々と本を選び、一人で熱心に読んでいる。


 それでも、ロズマリーに読んでもらいたがった。


 ソファの横へクッションを置き、床に座る。彼女の膝のそばへ頭を寄せ、目を閉じて聞くのがお気に入りだった。


 以前、ロズマリーが何気なく髪を撫でたことがある。


 それ以来、本を読む時間には髪を撫でてもらうことまで含まれるようになった。


 その日も、本を開いたロズマリーを、アレクが見上げた。


「今日は、してくれないんですか?」


「何を?」


 とぼけて尋ねると、アレクは自分の頭を少し傾けた。


 ロズマリーは笑い、柔らかな髪に指を入れた。


「はいはい。これでいい?」


「はい」


 満足そうに目を閉じる。


(きっと、寂しいのね)


 話し方も食事の作法も、きちんと身に付いている。相当いい家で育ったのだろうと思う。


 けれど、こうして甘えている姿は、やはり子どもだった。


 ロズマリーは昔から、弟が欲しかった。


 こんな弟ができたことが嬉しくて、つい甘やかしてしまう。


 もっとも、読んでいるのはスコルピオネス帝国史だった。


 争いや粛清の記述に差しかかり、ロズマリーは手を止めた。


「……これ、子どもに読み聞かせるようなお話ではないわね」


「僕は好きです」


「もう少し、穏やかな本もあるのよ?」


「今日は、これがいいです」


 アレクに頼まれ、ロズマリーは続きを読むことにした。


 髪を撫でていると、彼は本当に安心した顔になる。


 その横顔を見ながら、ロズマリーは街の治療院で働くことを考え始めた。


 アレクは頭がよく、魔力もある。祖父の残した本を読み、独学で魔法まで使えるようになっていた。


(きちんと学べるところへ行かせてあげたいわ)


 そのためには、今までよりお金が必要になる。


(ウィルに、相談してみようかしら)

いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

よろしくおねがいします。




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