ツキの傾き
「少し聞きたいことがある..........」
「はい!なんでも申し上げください!」
彼女、トリアは少し興奮していた。
ついに念願の主、来訪という目的をついに今日果たしたのだ。
そして主からの直接の命令。
彼女は現在人生の絶頂にいる。
そして彼女の主が口を開く。彼女は主の唇の動きにも注目する。
「学園に存在する7つの怪異事件について聞きたい。」
「はっ!」
トリアは絶対に期待に応えようと心に誓う。しかし彼女は学園の事については疎いため少し不安があった。
答えられるだろうか?
いや答えなければダメなのだ。滅多に会えない主が自分に期待をかけているのだ。
もしこれがもし試練なら越えなければならない壁だと彼女は思う。しかし主の試練の壁はとてつもなく高かった。
「失踪事件についてだ」
学園7怪異事件のうちの失踪事件はあれしかない。
『5人の変』である。
なぜこのような名称なのか。それは単純だ。謎が多すぎて明らかになっている部分は5人の生徒が誘拐されたというところぐらいだ。そしてそれらはエナたち四柱が全力を出しても謎は解けず情報の断片しか見えなかった。
だがそれはまだ国が成熟する前の話だ。
今では体制も整われ今もしあの事件があっても犯人を見失うことはなかっただろう。
そして国民が知らない情報を彼女たちは持っている。それはあの事件には犯人が存在しているということだ。
彼女たちはそれを知ることができたがそのことは決して口外はしなかった。
なぜならまだその時は新興国だった為国が揺らぐような事態になるのは嫌だったのだ。
それが四柱やセブンナンバーの決定である。そして未だに事件は謎のままである。
そのようなことをなぜ神のような主が自分に聞きにきたのか?
しかしそんなことはどうでもいいのだ。
トリアはわかっていた。いやわかっているのは主の方かもしれない。
主は四柱たちが明確な情報などを知らないことは多分もうわかっている。
主が真に言いたいことは気を抜かすなということなのだ。彼女は主の真意を読み取り言った。
「すみません主様。その事件に関する情報は私たちもなかなか掴めておらず..........申し訳ありません」
彼女は全て包み隠さずに言った。言い訳をするなどもってのほか。
主はテストをしたのだ。
そうこれこそが主が自分のためにされてくださった試練なのだ。
自分に嘘をつかない。
見事彼女は壁を突破したのだ。そして最後は主の反応次第。
そしてこれはトリアの予想通りに穏やかに主はトリアにいう。
「ご苦労」
一言。
ただその一言で彼女のこれまでの努力は報われた気がした。
そして主が席を立つ。
トリアはもう少し主と一緒にいたいと思うが彼女の主は多忙なのだ。こんなところで引き留めてはいけない。
彼女は自分の気持ちを抑え言う。
「じゃあ僕は帰るよ。」
そう言い主はレッドカーペットを歩きドアに向かう。彼女は名残惜しそうな目で主を見つめる。
そして主が扉の目の前で立ち止まる。そしてトリアの方を向き話しかける。
「トリア、ご馳走様。チーズケーキを奢ってもらったし事だし今度どこかにお茶に行こう。」
そう言いながら彼は手を振り部屋から退出した。
トリアは頬を赤く染めらせ喜んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
黒髪黒目の平凡そうな少年が暗い夜道を歩く。
その服装、身なり、体格から彼が学生だと分かる。
そして寮の門限まであと少しなのか彼は歩く足を早める。
そして正にその瞬間彼の周りを黒いコートを着た男たちが囲む。
彼らは組織として統一されたような動きをする。彼らは一人一人なかなかの実力者である。
そして黒髪の少年は周りを確認する。
しかしこの時間にこの道を人が通らないことは彼らは確認済みである。
もうその少年に逃げ場はなかった。
少年は徐々に徐々に彼らに押され裏路地へと足を踏み込める。
これは少しでも目撃される確率を減らすためである。
この黒装束の男たちにとってこの少年には何の恨みも接点も無いが上からの命令なので仕方がない。
ルミナス王女に協力しようとする学生は消して構わないという命令である。
そして全員が完璧に裏路地に入った時少年が口を開く。
「僕に何をしようというのですか?」
少年の声はひどく震えていた。
黒装束の男たちはその少年を哀れに思い死ぬまでの少しだけ情報を知らせてやる事にした。
「お前には何の恨みもない。これは命令なんだ。上からな。」
「俺たちはアモーラ王国の第一王子 フェンリル王子の命令でやっているんだ。」
「悪く思わないでくれ」
そして彼らは刃を振り上げる。その刀身は月の光が反射し輝いていた。
そして少年は非業の死を遂げた...........
はずだった。
少年の感情は恐れから圧倒的強者の余裕に変わる。
「いやー色々喋ってくれてありがとう。」
彼らは少年が恐怖のあまりおかしくなったのだと思った。しかしそれからも少年の態度は変わらなかった。
「なるほど。僕は隣国の王子様に狙われるほど少し有名になっているのか。困ったな..........」
彼は髪を指に巻き付ける仕草をする。
それに深い意味はなさそうだ。
彼らはこれ以上はもうめんどくさくなってきた為、剣を振り下ろす。
そして剣を振り下ろした所にその少年はいなかった。
「なっ!」
「逃げられたか!?」
彼らは動揺する。まさかあの少年に自分たちから逃げられている力があるとは思いもしなかった。
「逃げるわけないだろ?」
その少年は建物の上に立っていた。
月の光が彼を神秘的に写す。
そして少年はまた彼らの視界から消えた。そして血飛沫が舞った。
その血は少年のモノではなく黒装束の男のモノだった。
しかし数ではまだ黒装束の男たちの方が9対1で勝っている。とリーダーらしき男は考えたがもうその時にはそこには彼しか残っていなかった。
そして目の前には黒いフードが付いたコートを前を閉めずに、その下には黒い装飾された服を着ている少年が立っていた。
彼は今回の仕事は簡単に終わると思っていた。
しかし相手は化け物だった。
彼は逃げ出そうとするがその方面に少年は立っていた。
彼は少年がどういう表情をしているか読み取ろうとしたが彼の顔の上半分は奇術師のような仮面を着けており彼は少年がどのような感情をしているのかわからなかった。
そんなことを考えていたら彼の右足はもうなかった。
「ッ、グアアアア!!」
彼は悲鳴をあげて倒れ込むがその悲鳴も長くは続かなかった。
先程のように刀の刀身を振り上げる。
それは月の光で照らされていたが立場は先ほどとは逆だった。
「じゃあね」
少年はそう言い刀を振り下ろした。
月の光はもう彼には傾いていなかった。
翌日その通りで死体が10体見つかったが国の公式の発表では事故死として処理されていた。




