最後の願い
僕の刀と彼女の魔法がぶつかる。
彼女の魔法は今回は大きな炎の柱のようなものを何万本もぶつけて来る単純な魔法だった。
だが威力は抜群。
刀が軋む。これはちょっとやばい。今回は彼女も本気だ。何か譲れないものでもあるのだろうか?
僕は刀で受けるのをやめ、僕は避けるのに専念する。
こう言う時『超脊髄反射の加護』とかあったら便利なんだろうな、とか考えたりする。ちなみにスキルと加護持ちは一億人に一人ぐらいしかいない。もちろん僕も持ってない。
スキルだけ。
それに今はそのスキルもエナ達に貸してる。とか考える。僕はどんどんバックステップで避ける。
だから彼女との距離が広がる。
「僕は表の騒ぎを何となく止めたいだけなんだけどな〜」
「それがダメなの!」
彼女は攻撃を強める。
そしてその攻撃は僕には当たらないがなぜか僕に傷がつく。
「ちなみにこの空間は私が生成したものだから、事象は全て私が書き換えることができるのよ」
「種明かしどうも」
なるほど。
この能力はマジでやばい。僕は結構真面目に考える。
まさか今日、あの奥の手を使うことになるなんて.......
まあまだ使わない。
僕は引き続きバックステップで縦横無尽に避けまくる。だけど全ての攻撃は当たることになっていく。
僕の体から血が出る。
僕は魔法で血を生成しようとするが魔法も使えない。なるほど事象を書き換える。
前世から対策は考えていたけどやはり厄介だ。そしれ僕は覚悟を決める。
そして集中する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その少年はテレビに釘付けになっていた。少しも視線をずらさない。
「若様、少しテレビから離れていただくと......」
と言う爺の言葉も聞かずテレビを眺めている。
いつもは聞き分けがいい少年がそれほどテレビに釘付けなのはそれほど衝撃的だったからだ、その内容が。
彼が見ていたのは異世界転生ダーク系のアニメであった。
その話の内容は主人公の強敵の能力が判明する回だった。
その能力は全ての事象を書き換える能力。
その能力に彼は驚愕していた。
『勝てない』それが一番最初に思ったことだった。事象を書き換える。
つまり『自分が死んだことも書き換えることができる』まさに無敵だ。
その日から少年は考えた。
事象を書き換える相手に勝つ方法を。彼はその天才的頭脳を駆使し考え続けた。
どうすれば勝てるのか?
どうすれば生き残れるか?
どうすれば殺せるのか?
それを彼は2歳の頃から考えていた。いや思考実験とでも言うのだろう。
だが彼には答えが舞い降りることはなかった。
そして彼は短い人生を終えた。
彼の人生の最後は良さげな林道でトラックに轢かれた場所である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの頃からずっと考えていた。
まさかその成果を発揮する機会が来るとは思っていなかった。いや避けたかったけど。
だけど僕はもちろん攻略する道を選ぶ。僕は魔力を体内から放出する。なんかやばい言い方だけどそこは流そう。
そしてその魔力の周りを結界で制御する。そして僕は実験を始める。僕は喋る。彼女に対して。
「魔力を構成する魔素、それは万能物質だ」
僕はバックステップで彼女の攻撃を避けながら説明をする。彼女は顔を顰める。
「それが何?」
「そんな魔素のエネルギー値は凄まじく大きい。それはそうだ。とある原子を他の原子に変える、つまり不可能を可能にするにはそれほど高いエネルギーが必要だ」
僕の語りに彼女は先程まで不満そうな顔だったけど今では聞き入る。
ちなみにエネルギー値はどの物質にも存在する。もちろん人間にも。まあ人間を調べる場合は魔力値の方をよく調べるかな。
「それが?」
そう。ここからが重要だ。
「僕はそんな魔素のエネルギーに注目した。もしそのエネルギーを取り出すことができれば何もかもが変わる!僕はそんな期待を込めて魔素のエネルギーだけを抜き取った」
僕は少し声のトーンを上げながら言う。彼女は聞き入る。いつしか攻撃は止まっていた。
「それで?」
彼女は急かすように言う。
僕はニヤリと笑う。
「エネルギーは消えた。辺りを巻き込みながら忽然と」
「つまり失敗ってこと?」
「いや、実験は成功だ」
「失敗は成功の元、とか言ったら怒るけど?」
彼女は呆れたように言う。
「そうじゃない。そのおかげで僕は問いの答えを見出せた」
僕は結界の中にある魔素を破壊しエネルギーだけを取り出そうとする。
その瞬間そこを囲っていた結界やらが消えた。そして空間さえも消える。そこは白い空間ではなく外の黒い空間が剥き出しになっていた。
「スペース・イレンジャー」
僕は笑う。
彼女は動揺していた。
これが僕の出した問いへの答え。事象を書き換える能力を持つ相手なら、書き換えるところを無くせばいい。僕は単純な答えに辿り着いたのだ。僕は彼女を見る。
それはもはや脅迫でしかなかったが、彼女は僕の脅迫に動揺もせず上を見上げる。
もう彼女は戦いの結果をわかっていた。
「終わりね......」
彼女がそういった。切なげに。僕も上を見上げる。
「そうだね」
僕らは塔の外部に出て一番高い所に登る。
そして街を見る。僕は驚く。
「君、外でも存在できたんだ」
「少しだけね。私がいなくなったら塔は崩れる」
彼女は本当の空を見る。
僕も空を見上げ本当の空を見る。空は朝が近づいているのか少し明るくなっていた。
「終わりにしましょう」
彼女は空に手を翳す。そして彼女の魔力が高まる。
だが力が足りなかった。彼女の体が薄まる。彼女は倒れそうになる。僕はそれを支える。彼女は僕を見ていう。
「こ、れが魔力の波長」
「わかった」
限界の彼女の代わりに僕が空に手を翳す。そして魔力を高める。
「広範囲回復魔法。エーオイヒール」
その瞬間街が緑の光に包まれる。僕と彼女はそれを眺める。
朝日が昇る。
因習が止まる。
人が生き返る。
街が元の状態に戻る。
そして僕たちは場所を移した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
彼女たちは街に外れにある森から塔が崩れるのを眺めようとする。そしてそれが始まる前に彼女が彼に話しかける。
そういえば全てが終わった後お願いがあるらしい。それと彼女は既に過呼吸である。
「お願いがあるっていったよね.......」
彼女は喋るのも苦しそうだ。
「それで、お願いって何?」
「もしかして叶えてくれるの?」
彼女が少し幼い感じで言う。彼は少し考える。
「僕にできる範囲なら」
「あら、じゃあ何でも叶えてくれるのね?」
「買い被りすぎだよ」
彼は言う。
「あなたに酷いことをしたわ。ごめんなさい」
「うん」
「あなたの疑問には答えられないわ。ごめんなさい」
「うん」
「だけどお願いがあるの」
「うん」
「私のお願いは、」
「うん」
「私を殺して、探して、そして・・・」
こうして彼女は彼の前から姿を消した。
彼の目から涙が少し溢れた。
彼は涙を拭いながら立ち、言う。
「『私を殺して』はテンプレだけど最後は.......」
彼は彼女の最後の言葉を思い出す。
『私を愛して』彼はその願いには返答できなかった。
返答する前に彼女が消えてしまったからである。
そして魔女の塔が崩れた。




