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気にしいメイドと天然パティシエ ~辺境惑星のパンカフェ日誌~  作者: 餅酒むぎ


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第8話 真っ赤な耳

※このお話は前後編の【後編】です。前の話からお読みいただくのがおすすめです。

※基本は一話完結。スキマ時間にどうぞ。

 まことが買い物を終え、帰ってきた。


「まことさん、帰ってきちゃったよ、ユッキ! 隠れなくていいの?」

「どどど、どうするのじゃ!」


 ユッキがひどく焦って、おろおろしている。


「す、すぐには姿を戻せんのじゃ!」

「ちはる、なんとかせい!」


 なんとかって……

 どうするのよ、、


 というか、見た目は小さな女の子なのに、口調は完全にご隠居様なのよね。

 この子、ほんとはいくつなのかしら。


 そうしているうちに、まことが厨房に入ってきた。


「ま、まことさん、お、おお、お、おかえりなさい」

「ああ、ちはるさん、厨房にいらっしゃるとは、、お客さんへお出しするものを用意していたんですか? すみませんお手数を……」


「いえいえ、そうではないんですけど……」

「お客さんではなかったのですか?」


「はぁ、まぁ……その……」

「おや、その子は? 迷子ですか?」


 まことはちはるの背中にくっついてるユッキを見つけた。

 私以外の人にも見えるのね……

 妖精の姿は私にしか見えないようだけど……

 子供が厨房にいることに、当然ながら困惑しきった様子のまこと。


「あ、いや、その……」


「迷子ですかね、迷子の場合は、駅近くの交番か、観光協会の出張所に連れていくのが良いかな」


 まことはすこし驚きつつ、腰を落とし少女の姿のユッキと対面した。


 ユッキは人見知りの激しい子供のようにちはるの背後に抱き着き、顔を背中に押し付けている。


 あらやだ、かわいい。

 照れてるのね。


「ああ、ごめんなさい、えーと、その、あの」


 かわいいとか言ってる場合じゃなかった!

 この状況をなんとかしないと……


「こ、これは……」


 窯の妖精などと言っても信じてくれるはずもない。

 妖精のユッキを見ることができるのは私だけと言っていたし……

 うーん、言い訳というのは咄嗟には浮かび上がってこない。


「その、なんと言うか……」


 頭の中をぐるぐると言葉が空回りしている。

 まことの視線が私とユッキの間を行き来しているのがわかる。

 早くしないと。

 早く、早く……


「この子は……」


 そうだ!

 『週刊サルベージ』でやっていた『古の地球での言い訳集』

 その中から、こういう場面はこの回答しかないというものを思い出した。

 確か第45回「子供を連れた予期せぬ場面を切り抜ける編」だったはず。


「この子は、そう、親戚の子です」

「ユッキって言うんですけど、今日こっちに遊びに来たみたいで」


 クッキーの型にはめたような作り笑い。

 これで逃れられるのか怪しいけど。


 しかしまことは疑うこともなく、


「そうでしたか、よろしくユッキちゃん」


 と握手を求めるような仕草をした。


 天然で良かったわ……


 ユッキは頑なに背中をぎゅっと掴み離れようとしない。


「すみません、この子、人見知りで」


 なんだか母親のように振舞っている自分が可笑しかった。

 そしてユッキの耳が真っ赤になっていた。


「ほら、ご挨拶は?」


 と自然に促していた。

 ユッキは小さなうめき声をあげつつ、ゆっくりとまことの方を見上げた。


「……こんにちは……」


 聞こえるか聞こえないかの声だった。

 まことはその小さな挨拶をちゃんと受け止めた。


「はい、こんにちは、よろしくね」


 と言いながら、ちょこんとユッキの頭を撫でた。


 その瞬間、ユッキの肩がほんのわずかに、力を抜いたように見えた。

 背中に押し付けていた顔も、少しだけまことの方を向いたような気がした。

 すぐにまた背中に顔を埋めてしまったけれど。


 見なかったことにしてあげよう。


 まことはそのまま厨房内の作業に取り掛かっていた。


「ユッキ、お外に出てみようか」


 この場を切り抜けようと提案をした。

 ユッキは小さくうなずいた。


「うん……」


 親戚の子とおばさんのテイで誰一人客のいないテラス席に逃げてきた。

 いったんユッキを座らせて、厨房に戻りオレンジジュースを持ってきた。


 ユッキの前に置き、にやにやしながら見てやった。


「かわいいところあるじゃない、あ、これ私のおごりね」


 ちょこんと座って俯いていたユッキはすこし睨み返しつつ、オレンジジュースのストローを咥えた。


 ちはるは我が子の恋模様を眺めるように、そして守るような眼差しをユッキに向けていた。


 夏の日差しが昼前を告げ、影の色が濃くなる頃となっていた。


 しばらく2人は黙っていた。


 潮の匂いを含んだ風が、テラスをゆっくりと通り過ぎていく。

 ユッキはストローをくわえたまま、海の方をぼんやりと眺めていた。


「親戚の子とな、、」


 ふと、口調が変わった。

 さっきまでの人見知りの少女ではなく、いつもの気の強い妖精の素が、ぽろりとこぼれ落ちたような響きだった。


「これからも親戚の子という形でな、よろしく頼むぞ」


 ちはるには、なんとなくわかる気がした。

 ひとり窯の中で美味しいパンやお菓子の番をして、本当は誰かに認められたかったんじゃないか、って。


 影に徹するのも一つの方法だが、ユッキは光を求めていたに違いない。


「本当のことは言わなくていいの?」


「いいんだ」


 ユッキは静かに答えた。

 ストローから口を離し、グラスの水滴をひとさし指でそっと拭った。


 そよ風がユッキの長い髪を少し揺らした。

 そして髪をかきあげる仕草をしながら言い放った。


「その胸の中にパンをいれるのやめんか、ひんにゅー」


「なっ!!」


 ユッキを捕まえようと席から腕を伸ばしたが、するりとかわし、店の扉に駆けていた。

 扉の前で立ち止まり、振り返ると舌ベロを出していた。


「待てー!」


 すぐさまユッキを追いかけた。

 扉のカウベルが激しく鳴り響き、そしていつものパンカフェ『びみょる』の静寂に戻っていた。


 まことは鼻歌交じりに泡立て器を回し始めた。

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