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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第1章 聖域への旅立ち

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第9話 わが子への想い

 カミルが大人に混じって、背伸びをした談笑を楽しんでいると、食堂の長テーブルに良い匂いの料理が運ばれてきた。今日のメニューは、調味料と香辛料を程よく使い、味を整えた、新鮮な魚介類の煮込み料理だ。マルテ商館の交易船で、遠方から取り寄せた調味料類を使っているだけあり、どことなくエキゾチックな食欲をそそる香りが、料理から漂ってくる。


 ヨセフとカミルは、マルテと食卓を囲み、商館専属のコックが作ってくれたご馳走を美味しくいただいた(のち)、来客者用宿泊室でゆっくりとくつろぎ、静かな夜の時間をそれぞれ過ごした。


 夜の静寂(しじま)を十分堪能した2人は、今日の疲れを癒やすため、寝心地の良いベッドで一晩ぐっすりと眠る。




 ヴォル討伐を成し遂げた父子が、快眠を得た翌朝。


「ありがとう、本当に助かったよ。また近い内にネプトスで会おう。今度来てくれたときは、難しいモンスター討伐など頼まないから安心してほしい」


 このように、ちょっとした冗談交じりの見送りを受けたヨセフとカミルは、笑顔を浮かべながらマルテに手を振り、商館を後にした。


 マルテ商館を出て少しだけ歩いたヨセフとカミルの父子は、港町ネプトスの馬屋で2頭の馬を借りている。ヨセフの妻、ハンナが心配して待つ、シューンの村の我が家へ戻るためだ。


 馬上の人となったヨセフとカミルは、帰りの道中、時折言葉を交わすこともあったが、その中でヨセフは、


「それにしてもカミル、お前はヴォル退治の最中、いい動きを見せていたな。正直な所、目を疑うほどだった。一つ聞くんだが、初めての実戦なのに、お前はどうしてあれほど剣を捌けたんだ?」


 と、カミルの働きを改めて褒めつつ、討伐中、不可思議にすら感じていた所を息子に聞いている。


 ヨセフから問いかけられたカミルは手綱を操り、馬の歩様を緩めながら、


「俺にもなぜあんなに落ち着いて剣を振れたのか、振り返ってみてもよく分からない。でも父さん、あのとき俺は、ヴォルたちの動きがハッキリと見えていたんだ。それは間違いないよ」


 と、少しの間、顔をうつむかせ考えた(のち)、父の方を向いてそう答えた。


 ヨセフは、若干霊的にすら感じられるその回答を聞き、しばらく考えていたが、


(今回の討伐で、たまたま実力以上の剣技を発揮できただけかもしれない。強いのか強くないのか、あやふやな状態でいさせるよりは、しっかり実力を身に付けさせておいた方がいいだろう)


 という、一人息子を案じる父親としての、きちんとした結論を出せたようだ。


「剣を振れた理由が自分でも分からない……。自分の力量が自分で分からないというのなら、大いに不安があるな。よし分かった。シューンの村に帰ったら、剣の稽古を今までより多くつけてやろう。カミル、お前の剣が定まるまでな」


 ヨセフはカミルに優しい笑顔を向け、そう約束した。シューンの村、一番の戦士である父が、剣の特訓をしてくれる。カミルは、望外の約束を結んでくれたヨセフに感謝し、とびきりの笑顔でうなずいてみせた。




 帰りの旅路は順調に進み、ヨセフとカミルはシューンの村に無事帰還した。村の入口に到着したのが昼下がりの時刻である。ヨセフとカミルの父子は、馬屋に馬を返した後、一刻一秒でもハンナに余計な心配をかけまいと考え、できるだけ急いで歩き、


「ただいま。今帰ったよ」


 そう帰宅を知らせると共に、何日か空けていた我が家の扉を開いた。


「ああ! おかえり。2人とも、ちゃんと帰ってきたのね。よかった……」


 夫と息子がいない不安を少しでも紛らわせようしていたのだろうか。ハンナは家の掃除と片付けを頑張っていたらしく、部屋のテーブルや台所などがこれ以上ないくらい綺麗になっている。今もダイニングを掃いている最中だったのだが、ヨセフとカミルが帰ってきたのに気づくと、ほうきをその場で放り出し、玄関にいる最愛の夫と息子に駆け寄って行った。


 カミルは、こんなに心労がかかっている母の姿を今まで見たことがなく、胸が痛む思いであったのだが、


「ごめんね母さん。心配かけたね。これ、お土産だよ。マルテ従伯父さんがくれたんだ」


 ハンナに心配をかけすぎたバツの悪さを努めて取り繕うように、布袋に入った調味料、香辛料の詰め合わせセットを差し出す。ハンナは夫と息子の無事に安堵し、嬉し涙を流しかけていたが、カミルからお土産を渡されたことで、ちょうど我に返れたようだ。


「これは良い物を貰ったのね。天日塩、黒砂糖、ビネガー、胡椒、一式入ってる。よし! 2人とも無事に戻ったんだし、今日はカミルの大好物を作るわよ~」


 布袋の中身を確認したハンナは、滲ませていた涙をそそくさと拭うと、夫と一人息子の無事を祝うため料理の腕を振るい、天日塩や胡椒などで味を整えた、牛肉のステーキを焼いた。


 何日かぶりの我が家の食卓に、賑やかなご馳走が並べられている。ヨセフとカミル、それにハンナの3人は、料理が置かれた食卓を囲み、神に(かて)の祈りを捧げた(のち)、家族水入らずの小さな宴を楽しみ始めた。


 カミルは大好物の牛肉のステーキを頬張りながら、両親との温かい団らんのひと時を、噛みしめるように過ごしている。

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