第8話 取り分
「ヴォルは13頭いたよ。群れを発見した俺たちは、茂みのポイントに突撃し、たむろしているヴォルを一掃していった。変わったことと言えば、茂みの中には薄っすらとだが、瘴気が漂っていたように感じたな。これは俺の推測になるが、その瘴気の淀みが多頭数のヴォルたちを、おびき寄せていたのかもしれない」
ヨセフはヴォル討伐中の記憶を思い起こしながら、できる限り詳細に語り、港町ネプトスの安全に資する情報をマルテに伝えた。現場の真実味溢れる一連の回答を聞き、マルテは腕を組みながら難しい顔で考えを巡らせている。
マルテはネプトス自治会の中心人物として、町民や行商人、旅人の安全を確保する責任がある。そのため、今しがた得た情報から何か妙案が生まれないかと、沈思黙考しているのだろうが、こうしたときの考えは、なかなかうまくまとまるものではない。その苦悩に近い、マルテの堂々巡りに気づいたヨセフは、
「そうそう、親バカじゃないんだが、カミルが役に立ったんだよ。ヴォルの動きをよく見切って、2頭も斬り倒した。こいつはモンスターと戦うのが初めてだったはずなんだがな。いい動きだった」
と、場を和ませる意味も込めて、討伐中、カミルがよく戦ったことを褒めた。マルテは従甥の思わぬ活躍を聞き、難しい顔を柔和にほころばせると、
「それは凄いな! シューンの村一番の戦士、ヨセフが言うのだから間違いない。カミルはヨセフの血をしっかり引いているんだな。頼もしい限りだ」
優しい目で、従甥のカミルの活躍を讃えている。
マルテは、父と従伯父から思わず褒められ、はにかんでいるカミルの様子を、温かい目でしばらく見守っていたが、
「そうだな。カミルがそれほど活躍してくれたのなら、何か追加報酬をあげたいところだが、あいにく今は適当な物がない。またネプトスに来るときまでに、良い物を用意しておくよ」
忘れないようにメモを書きながらそう約束し、この応接室での話を締めくくった。
ヴォル退治を完了し、ヨセフをリーダーとする討伐隊がネプトスのマルテ商館に帰還した時、まだ正午を少し回ったくらいの時刻であった。それゆえ、ヨセフとカミルがマルテとの話し合いを済ませ、商館内の食堂で幾らか遅い昼食をご馳走になった後も、今日の日は沈んでおらず、時間の余裕がまだ残っている。
その仕事の上首尾により生じた自由時間を利用し、ヨセフとカミルは、ある用事を済ませるため港町ネプトスの総合ギルドへ向かった。彼らがギルドで済ませたい用事とは、戦利品として獲得したヴォルの尻尾の換金である。
ヨセフとカミルの父子は、モンスター討伐完了後に、ヴォルの尻尾5本を手に入れた。ちなみに、ヴォルの死骸からの切り取り方法として、彼ら親子は、狩猟用サバイバルナイフを使用している。切れ味が鋭く、汎用性が高い便利なナイフで、この世界の冒険者がよく携帯している代物だ。
ヨセフは、ある意味社会経験の一環と考え、一人息子のカミルを連れて総合ギルドの建物前まで来たわけだが、扉を開けて中に入ると、なかなかガラの悪い荒くれ者風の男たちも多く居り、
(カミルには少し早かったかな)
という、父としての内心の後悔が、少しばかり顔に現れていた。
こういう場所なので、いらぬ揉め事が起こらないよう、モンスターから手に入れた戦利品の換金システムは、至ってシンプルなものとなっている。今日を例として言えば、総合ギルドの受付カウンターにいるいかつい親父に、ヴォルの尻尾を渡すだけでよい。
ヨセフは早速、ヴォルの尻尾5本をギルドの親父に手渡し、金貨1枚500ライヒを受け取った。ヴォルの尻尾はネプトスの総合ギルドにおいて、1本100ライヒのレートで取り扱われている。つまり、レート表を確認した親父が、ヴォルの尻尾の本数と照らし合わせた後、500ライヒ金貨をヨセフに差し出した、という換金の流れが先程あったわけだ。
「よし、カミル。お前の取り分を渡しておこう。銀貨2枚だ。よく頑張ったな」
換金を済ませ、何となく空気が悪い総合ギルドから出た後、ヨセフはカミルをそう労いながら、息子の働きに応じた金を手渡した。カミルは今日の討伐の最中、ヴォルを2頭仕留めたので、取り分は銀貨2枚200ライヒできっちり合っている。
ここまでの足し合わせをしていくと、カミルはネプトスに来て、500ライヒもの金額を稼げたことになる。ヨセフを家長とする一家3人の生活費は、1ヶ月600ライヒで賄われている。そのことから考えると、16歳の青少年カミルは、年に不釣り合いな500ライヒを手に入れたわけだが、
「ありがとう。父さん」
父から銀貨2枚を受け取り、財布に入れた彼は、稼いだ大金の使い道をもう決めているようだ。
総合ギルドで換金を済ませ、ヨセフとカミルがマルテ商館に戻ってきた頃には、ちょうど今日の日が沈みかけていた。商館の中に入ると、食欲を誘うふんわりとしたいい匂いが漂ってくる。どうやらマルテ商館専属のコックが、腕によりをかけ、夕飯を作ってくれているようだ。
良い匂いを嗅ぐだけで、空き腹が鳴ってしまうが、
(空腹は最大のスパイスとも言うからな)
と、青少年らしからぬ、なかなか可愛くない悟りを頭に浮かべたカミルは、父ヨセフ、従伯父マルテと談笑しながら、商館内の食堂で、料理の出来上がりを待っている。




