第6話 ヴォル討伐
「ミルクティーで一息つけたな。そろそろ本題に入るとするか。まず、狼犬型モンスターヴォルが、港町ネプトスをどのように脅かしているか、それを簡潔に話そう」
マルテはミルクティーをもう一口飲み、磁器のカップをコースターに据え、そう前置きした後、言葉を続けた。
「港町ネプトスは、海に面した東側以外、よく整備された街道が3方向につけられている。その3方向の内、ヴォルの襲撃被害報告が多いのは北の街道だ。極端に被害の頻度が偏っていると言っていい。また、ネプトス周辺地域におけるヴォルの出没頻度は、数カ月前から増加傾向にある。調査により、それは分かっているんだが、なぜそういう現象が起こっているのか、原因自体は突き止められていない」
詳細を聞いていくと、手紙にあった依頼の件は、港町ネプトスにとって、ヨセフとカミルが考えていたより、深刻な脅威となっているようだ。マルテは、身を乗り出して聞いているヨセフとカミルを、シリアスな表情で見回すと、
「とにかく、ヴォルによる被害をこれ以上出さないようにするため、ヨセフ、カミル、君たち親子の手を貸りたい。頼む」
そう頭を下げ、ここまでの話を締めくくった。ヨセフとカミルは当然、親戚であるマルテの力になるつもりなのだが、依頼について聞きたいことがまだあるらしく、
「他でもない従兄弟の依頼だ。力は間違いなく貸す。そうなんだが、俺とカミルだけでヴォルの群れと戦っていくのは、なかなか無謀じゃないか?」
と、力になることを確約しつつも、ヨセフは気になっている所を問いかける。
マルテはその問いかけを聞き、自分の話の不備にすぐ気づいたようで、
「すまない。言葉足らずだった。もちろん、ヴォル退治に応じてくれたのは、君たち親子だけではないんだ」
と、ヨセフとカミルに謝った後、依頼について説明を付け加えた。
「ネプトスのギルドを通して、ヴォル退治に応じてくれる猛者の募集をかけたが、依頼内容に釣り合う十分な力量を持った応募者は、3人だけだったんだよ。人数的に心もとないと考えた私は、優秀な戦士である従兄弟の君に、先日、依頼の手紙を送ったんだ。そういう経緯を話さないといけなかったね。カミルも来てくれたのは予想外だったけど、従伯父として心強く感じるし、何より嬉しいよ」
そこまでの話を聞き、ヨセフはゆっくりとうなずく。従兄弟の変わらない誠実さに納得が行った彼は、右手を差し出し、依頼を承諾したという印の意味で、マルテと固い握手を交わした。
無事、依頼が成立し、安心顔になったマルテは、最後の締めとして、成功報酬についての話をしている。ヴォルを退治した暁には、ヨセフに1200ライヒ、また、駆けつけてくれた従甥のカミルには300ライヒを出すと、交易商人マルテは確約した。親戚同士とはいえ、報酬金額は、きっちり決めておかなければならない。余計なトラブルを避ける上で、一番肝要なところだ。
話が一通り済み、港町ネプトスを照らしていた夕日も、もうすぐ沈む。ここまでの旅疲れを感じているヨセフとカミルは、マルテからの勧めを受け、商館の来客者用宿泊室に移動し、明日のヴォル退治に備え、英気を養い始めた。
しっかり旅の疲れを取った翌日の朝。ヨセフとカミルは、前日の話にあった手練3人とマルテ商館前で会い、それぞれ握手を交わしている。マルテがかけたヴォル討伐の募集に応じた3人だが、少人数とはいえ、いずれも十分な力量を持つ強者である。
依頼主のマルテから、簡素な激励の挨拶を受けた討伐隊一行は、早速、港町ネプトスの北に伸びる街道へ向かった。討伐隊のリーダーは、シューンの村の自警団が誇る、戦士ヨセフだ。ヨセフと握手を交わした3人の手練たちは、その掌の触れ合いから彼の力量を見抜き、自分たちをまとめていくのに足る人物として認めていたため、リーダーを決める際、異論は全く出なかった。
前日聞いたマルテの説明によると、北の街道を進んで行くとある、ヴォルが頻繁に出没するポイントには、大人の足で今から歩けば午前中に十分到着できる。そのため討伐隊は、馬を使うことなく徒歩で街道を進み、目的地へと向かって行く。
ヨセフ率いるヴォル討伐隊は、北の街道を順調に歩き、件の現場に滞りなく到着した。移動にかかった時間は予定通りであり、まだ太陽は南中していない。
マルテからの情報によると、街道から外れた森林に差し掛かる手前の茂み辺りに、ヴォルが多頭数群れており、鋭い牙で旅人や行商人などを頻繁に襲っているらしい。その情報を手がかりに、ヨセフとカミルは慎重に慎重を重ね、件のポイントへ近づいてみると、
「いるな……。ヴォルだ」
「いるね。1、2、3……。ザッと数えてみたけど13頭もいる」
よだれを垂らしながら茂みをうろつく、狼犬型モンスターの群れを発見した。これだけの頭数を一挙に討伐できれば、北の街道の安全が確保され、港町ネプトスが直面している脅威は、かなり解消されるだろう。
ヨセフは手によるジェスチャーを交え、討伐隊の皆に、適度な距離を取りながら連携して戦うよう指示すると、鋼鉄の両手剣をスラリと抜き、先陣を切って、ヴォルが群れる茂みの中へ突撃した!
勇猛果敢なリーダーの後に続き、カミルと討伐隊の皆も、抜いた得物で先制攻撃をかける!




