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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第1章 聖域への旅立ち

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第5話 マルテ商館

 カミルがわがままを通し、旅に同行する許可を何とか得たその翌朝。


 通常より布地を丈夫にする特殊な技法で作られた麻の強化服、鉄のプロテクター、鉄の両手剣、といった物々しい武器防具類の装備を、事前にしっかり整えたカミルは、家で1人待たざるを得ない母ハンナの心配を他所に、父ヨセフと共に、港町ネプトスに向けて出発した。


 普段、農場で馬と慣れ親しんでいるのもあり、ヨセフとカミルは父子とも、十分な騎乗の心得を身に付けている。そうしたスキルを活かさない手はなく、2人はシューンの村の馬屋で馬を借り、今回の旅路での移動手段とした。


 便利で速いとはいえ馬は生き物である。それゆえ旅路の途中、馬に餌を食べさせたり水を飲ませたり、何度か休息を取る必要があったが、全体的に移動は順調で、ヨセフとカミルの父子は、その日の夕刻前に、港町ネプトスへ到着できている。


「これは凄い! ここからの眺めは格別だ! とても綺麗な町だね、父さん」

「ははっ、そうだな。カミルはネプトスに何年も来てなかったから、余計そう思うんだろう。しかし、お前の言う通り、夕日によく映える綺麗な港町だ」


 沈みゆく夕日に照らされ、壮麗な輝きを見せる港と町の風景を眺め、心が洗われるような清々しさを感じているカミルとヨセフは、感動を共有する言葉を馬上で交わした。


 ただ、感傷にふけり続けていては、やがて今日の日も落ち、夜が来てしまう。そのことに気づき、我に戻ったヨセフはカミルに声を掛けると、港町ネプトスの馬屋へ、乗ってきた馬を預けに行く。


「これでよし。身軽に歩けるようになったな。それじゃ、マルテの商館に行くぞ」

「マルテ従伯父(おじ)さんに会うのは久しぶりだなあ。俺を見たら何て言うだろう」


 一日よく働いてくれた乗用馬を一旦預け、身の回りがすっきりしたヨセフとカミルの父子は、そう言葉を交わすと、目的地であるマルテ商館へ共に向かった。




 件の目的地までは、馬屋から目と鼻の先といった距離だ。それゆえ、ヨセフはカミルを連れて然程(さほど)歩くことなく、総二階の瀟洒な建物にたどり着くことができた。石材と木材を組み合わせて造られた建物の外観は、ライトブルーの落ち着いた色調で整えられている。この他とは一味違う立派な建物が、マルテ商館である。


 港町ネプトスにおいて、マルテは有力な交易商人であり、砂糖や塩、胡椒といった、調味料や香辛料の取引で、大きな富を築いている。また、交易船を何隻も所有しており、ネプトスの港で幅を利かせる権力者としての側面も幾分持っているため、今回の依頼のように、港町の困りごとを率先して解決しようとする姿勢も、良い意味で目立つ。つまりマルテは、豪商でありながら、ネプトスの自治組織の中心人物でもあるわけだ。素晴らしい商館を、所有しているだけはある。


 ヨセフとカミルにとって、この整った様式美を持つ建物を見るのは久しぶりだ。そうした経緯もあり、2人が幾らかの感慨を抱きながらマルテ商館に入ると、ちょうどエントランスホールに、髭を蓄えた恰幅の良い男の姿があった。恰幅の良い男は、ヨセフとカミルを見るなり笑顔を浮かべ、


「よく来てくれた。待っていたよ」


 と、2人に声をかけながら、握手を交わす。この男が商館の主、マルテである。


 ヨセフは従兄弟同士の再会の挨拶もそこそこに、早速マルテから、本題のヴォル退治について詳しい話を聞こうとするが、


「ここで立ち話をするのはそぐわないから、まず応接室に行こう。2人とも私について来てほしい」


 と、やんわり遮られ、商館内の奥の部屋へと案内された。


 適度な広さがある応接室の造りは、シックで趣深く、備え付けられている調度品も、どことない高級感を漂わせている。カミルは港町ネプトスへ来た時に、従伯父マルテの商館を、度々見物させてもらっているのだが、幼い頃からの経験を思い起こし、照らし合わせてみても、この応接室に入った記憶が出てこない。そうしたわけでカミルは、しばらく物珍しそうに室内を見回していた。


 マルテは、その従甥の様子を微笑ましく見ていたが、カミルがヨセフと同行し、ネプトスまでやって来たことを意外にも感じており、


「ちょっと聞くんだが、カミルもここまで来たということは、ヴォル退治に参加するという話だよな?」


 と、率直に問いかけている。マルテが疑問に感じている所を受け、ヨセフが苦笑しながら、


「すまない。そういうことだ。依頼の件を話したら、どういうわけか言っても聞かなかったんだ。困った息子だよ」


 そう答えると共に、コツンと一人息子のカミルを小突いた。事情を理解したマルテは、仲の良い父子のやり取りを見て、ひとしきり笑っている。


 マルテ、ヨセフ、カミルの3人が、久しぶりに会った親戚同士、会話を弾ませていると、使用人がトレイに乗せて、甘いミルクティーを運んで来てくれた。ここまで長距離を移動してきたヨセフとカミルにとっては、この上ない潤いであり、ゆっくりと甘味を頂いている。


 ひと時のティータイムにより、程よく一服つき、会話が落ち着いてきた。マルテはそうした空気を見計らい、依頼の手紙にしたためられていた、狼犬型モンスター、ヴォル退治の件について話し始める。

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