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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第1章 聖域への旅立ち

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第4話 一人息子のわがまま

 エルマーに書物『聖域の頂き』を預けた(のち)、カミル、エミリア、アルバンは、それぞれの家に帰り、今日のことを心に思い起こしながら、一晩ぐっすりと休んだ。


 翌日の昼下がり。


 今日も農場で一仕事を終え、家に戻ってきたカミルは、父ヨセフと母ハンナと共に、ティータイムの紅茶とビスケットを口に運び、ひと時の休息を取っている。ヨセフを家長とする3人家族が、いつものように何気ない一家の時間を過ごしていると、ポストマンが家に1通の手紙を届けてくれた。


 手紙を受け取った父ヨセフが、封筒の裏側を確認してみると、マルテという差出人名が書かれていた。マルテはヨセフの従兄弟であり、シューンの村から見て東の方角にある港町ネプトスに、立派な商館を構えている。マルテはネプトスで、羽振りの良い交易商人として生業を立てているわけだが、手紙の内容を読んでみると、その港町ネプトスで、大きな困りごとが起こっているようだ。


 マルテからの手紙の内容は、以下の通りである。


(ヨセフ。君とはしばらく会っていない中、このような便りを送り、不躾で心苦しく思う。そこに目を(つむ)り、手紙を読み進めていってほしい。


 最近、港町ネプトス周辺に生息する、狼犬型モンスターのヴォルの頭数が増えてきている。ヴォルが凶暴な特徴を持つモンスターなのは、君にとって説明するまでもないだろう。そのヴォルの襲撃により、旅人や行商人、更には町民たちにも、連日のように被害が出てきている。私は、ネプトスが直面している困難な状況を改善したいと考え、ヨセフ、優秀な戦士である従兄弟の君宛てに、この手紙を出した。


 シューンの村の自警団長である、君の腕を見込んで依頼したい。港町ネプトス周辺に生息するヴォルを退治して欲しい。まず、ネプトスまでの路銀として、銀貨2枚200ライヒを同封しておく。来てくれることを願う)




 ここで作者から、このヴァイテヴェルトの世界における通貨価値について説明しておきたい。


 家長であるヨセフは、自身が運営管理している農場で働き、妻のハンナと一人息子のカミルを養っている。ヨセフが持つ家庭のような一般的な3人家族が、1ヶ月暮らしていく上で必要な生活費は、おおよそ600ライヒである。それゆえ、マルテが手紙に同封した路銀200ライヒは、相当な金額と言える。


 また、ヴァイテヴェルトの世界での通貨単位は、万国共通となっている。国や地域によって物価の差はあるものの、通貨単位はライヒで統一されている。




 従兄弟マルテからの依頼内容を一通り読んだヨセフは、封筒に入れられていた銀貨2枚を手に握り、しばらく腕を組んで考えていたが、


「何日間か家を空けることになる。俺はネプトスに行ってマルテを助けてくるよ。他ならぬ従兄弟の頼みだ。聞かないわけにはいかない」


 と、(はら)をしっかりと決め、妻ハンナと一人息子のカミルに自分の決意を伝えた。


 長年ヨセフと連れ添ってきたハンナは、夫の強さを誰よりも理解している。人一倍強い正義感を持つ夫の性質も、よく分かっているのだが、


「いくらマルテさんからの頼みでも、あなたがそんな危険を背負い込まなくてもいいんじゃない? 心配よ……」


 と、伴侶として不安を隠せないでいる。


 ヨセフは正直な不安と心配を見せるハンナに微笑みを向け、


「大丈夫さ。何日かしたら戻って来る」


 そうなだめながら、頼もしい言葉で家長としての存在感を示した。


 ティータイムの休憩もそこそこに、ヨセフは早速、狼犬型モンスター、ヴォル退治に向かうための旅支度を始めている。ヨセフは誰か他の自警団員を頼ることなく、一人で港町ネプトスに行くつもりでいる。しかしながら、テキパキと一人旅の支度を整えていく父の様子を見て、一人息子のカミルは何かを言いたそうだ。


 そんな息子の様子に気づいたヨセフは、


「どうしたカミル? 何か気になることがあるのか?」


 と、若干まごついているカミルに聞き、言いたいことを言わせてみた。父から話すきっかけを貰ったカミルは、思い切って、


「父さん、俺もヴォル退治に行きたい。ネプトスに連れて行ってほしい」


 自分の決意を簡潔に伝えてみた。


 自分たちの考えになかった一人息子の決意を受け、父ヨセフと母ハンナは、少しの間、言葉が出てこなかったが、


「駄目だ。港町へ遊びに行くのとは違うんだぞ。カミル、お前にはまだ危険過ぎる」

「そうよ! お父さんの言う通りよ! カミル! あなたは何を考えてるの!」


 このように、両親の立場から強い口調でカミルを咎める。カミルはヨセフとハンナにとって、ここまで大事に育ててきた一人息子である。死の危険が伴うヴォル退治に、同行させるわけにはいかない。


 素直なカミルが両親に無茶を言うこと自体、非常に珍しく、ヨセフとハンナは、内心どうしたものかと困惑している。そんな両親の心情を知ってか知らずか、今日のカミルは咎めの言葉を聞き分けず、


「俺は、父さんから今まで剣を習ってきた。足手まといにはならない。連れて行ってほしい」


 と、思い詰めた表情で食い下がってきた。普通ではない息子の様子に、ハンナは少しめまいを感じながらも、言葉を強めて再度咎めようとする。ヨセフは、その妻の言葉を右手で制し、カミルの顔を真剣な表情で見つめながら、


「ネプトスのヴォル退治で、何か試したいことでもあるのか?」


 と、問いかけてみた。カミルは一瞬だけ父の言葉を考え、首をゆっくり縦に振る。


(カミルは俺の血を引いているからか、剣の筋が非常に良い。まだ16歳で年端も行かないんだが、一端の戦士に引けを取らない程の実力を身に付けてはいる)


 ヨセフはシューンの村一番の戦士である。その戦士ヨセフが、父としての贔屓目なしにカミルを見て、冷静に考えたところ、十分戦力になると評価できた。


 それでもヨセフは、大いに心配している妻ハンナの顔を見て、頭をかきながら悩んでいたが、


「仕方がない。ついて来なさい。ネプトスまでの旅支度は、自分だけでしっかり整えるんだぞ」


 と、意を決し、一人息子のわがままを受け入れている。

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