第39話 有益な情報
羽飾りが印象的な扉を開いたカミルたち一行が、木造総二階のギルドに入ると、受け付けカウンター内で、ちょっとした事務作業をしていた親父と目が合い、
「よお! どうした? あんたら随分若いようだが、ここに何か用か?」
と、カミル、エミリア、ソフィーは、ギルド長であろうその男から、多少怪訝な調子で声をかけられた。
少し訝しまれてはいるが、ギルドの親父の方から声をかけてくれたことで、手間が省けたと考えたカミルは、
「はい。俺たちは、ネプトスの港から船に乗ってゾンネサルツまで来たんですが、色々聞きたいことがあるんです。まずは、そうですね……。これ変な質問かも知れませんが、この西の大陸の北部で、強い魔竜についての噂話を聞いたことはありませんか?」
と、物怖じせず尋ね、早速情報収集を始めている。
(確かに妙なことを聞くな……この若いの)
ギルドの親父はカミルの顔に目を向け、そう考えた後、腕を組んで天井を見上げながら、
「うーん……」
と、しばらく唸っていたが、どうやら適当な心当たりが浮かばなかったらしい。その代わり親父は、思考を巡らす内に、何か別のことが思い浮かんだらしく、
「その魔竜ってやつには心当たりがないんだけどよ、ちょっと別の話をするぜ。このゾンネサルツからもう少し北西に行けば、アトランティスという高山都市がある。アトランティスは首都名と国名が一緒でな。その高山都市が首都なんだ。アトランティスはここらへん一帯を治めている国で、ゾンネサルツもアトランティスの領内にある港町なんだよ」
まず、この近辺地域に関する詳しい地理情報を、カミルたち一行に話し始めた。ギルドの親父が話す地理情報に興味を持ったカミルたちは、少し形を改め、できるだけ聞き漏らすまいと耳を傾けている。
「ほう、顔つきが変わったみたいだな。じゃあ、話をもう少し続けよう。アトランティスは飛竜を操る強力な飛兵部隊を保有しているんだが、その高山都市に行って、飛兵部隊の一員にでも話を聞ければ、あんたらが探してる魔竜について何か分かるかもしれないぜ」
ギルド長であろう親父は、カミルたち3人が聞く姿勢を正したのを気に入ったらしく、自分が知っているアトランティスについての情報を伝え終わると、そこで何をすればいいか、取るべき行動のアドバイスもサービスで提供してくれた。
意外に親切なギルドの親父からの情報提供により、次に取るべき旅の指針が決まったカミルたち一行だったが、彼ら彼女らの今の顔を見る限り、まだ質問が十分でなく、聞きたいことが残っているようだ。特にエミリアは、先程、塩田の港町ゾンネサルツの賑やかさを楽しみながらも、何かの違和感を鋭敏に捉えていたらしく、
「いい話を聞かせてもらってありがとうございます。それと……すみません。これも変な質問になるんですが、続けて聞いていいですか?」
と、ギルドの親父に情報提供の礼を言った後、ワンクッション入れ、パーティを代表し、次のような質問をしている。
「ゾンネサルツに着いたときに気づいたんですが、西の大陸北部の瘴気は、他の地域より幾分濃いように感じます。私たちは西の大陸中央地域に住んでいる人間で、最近、大陸北部から、モンスター関連のよくない噂が流れてきているのを耳にしています。この辺りの瘴気が濃いのは、それと何か関係があるんですか?」
シリアスな眼差しを向けてそう聞いてきたエミリアを見て、親父はとても感心したらしく、
「お嬢ちゃん。あんた若いのに随分色んなことを考えてるんだな。大したもんだよ」
青髪セミロングの彼女を素直に褒めた後、問われたことに答え始めた。
「瘴気とよくない噂の関連性についてハッキリとしたことは言えないが、西の大陸北部で魔物が増えてきているのは事実だ。魔物退治の依頼も、以前よりギルドに多く来るようになっている。そうしたことが積み重なって、モンスター関連のよくない噂がこの辺りの地域から各地に流れているんだろうな。俺の推測も入っているが、当たらずとも遠からずといったところだろう」
ギルドの親父から話を一通り聞き、西の大陸北部地域が、今どのような状況に置かれているのか、それについても知り得た一行は、しばらくその場に立ち尽くし、黙って思案を巡らせていた。
黙りこくって考えを巡らせているカミル、エミリア、ソフィーの3人を見て、ギルドの親父は怪訝な表情を浮かべていたが、沈黙に堪りかねたのか、
「どうしたんだ? あんたら? そこで突っ立っててもしょうがねえだろ。まあなんだ、アトランティスに行くんだったらオリンポス山っていう高山を上がる必要があるんだが、山の麓にアトランティス軍の飛兵部隊が飛竜と一緒にいつも待機している。それなりの運賃になるが、あんたたちの素性をその部隊に言って金を払えば、首都のアトランティスまで乗せて行ってくれるはずだ。これで俺が言えることは全部言ったぜ」
更に親切味を出して、高山都市アトランティスまでどう行けばよいか、その方法を詳しく教えてくれた。
カミルたち一行が持つ天運というか、巡り合わせが非常に良いのだろう。その場で立ち尽くし、黙考を続けていた3人は我を取り戻すと、存外に親切だったギルドの親父に向けて丁重に頭を下げ、有用な情報提供に対する礼を態度で示している。




