第37話 船旅へ
「あなたのような豪商が私の異名を知っているとは、光栄だね。その通り、私はソフィーだよ。あなたの従甥のカミル、それにエミリアとはラーヴァルトで知り合ったんだ。私はこの子たちを気に入ってね。旅の仲間にならせてもらったよ」
マルテがカミルの従伯父であることを考えたのだろう。ソフィーは大胆不敵な態度ながらも、いつもより少しばかり丁寧な言葉遣いで、マルテと会話を交わしている。
マルテは、ソフィーのさっぱりとした答え方を大層気に入ったらしく、声を上げて笑った後、
「いいね! 『魔剣のソフィー』、噂通りの強者だ。あなたが付いていてくれるなら私も安心できる。カミルとエミリアちゃんをよろしく頼むよ」
2人のために頭を下げ、真顔でそう頼み込んだ。
カミルの従伯父であり、港町ネプトスの重要人物であるマルテからこのように頼まれれば、ソフィーも決して悪い気はしない。元より銀髪の彼女は、ラーヴァルトの酒場で口説き落とされたとき、カミルとエミリアのお守りをある程度引き受けるつもりで旅の仲間になっている。
それゆえソフィーは、2人の身の安全を心強く請け負う意味で、深々と頭を下げるマルテに対し、ゆっくりとうなずいてみせた。
マルテとソフィーのそうした会話と、一連のやり取りを傍で見ていたカミルとエミリアはというと、銀髪の彼女に尊敬の眼差しを向けながら、ネプトスまで響いている『魔剣のソフィー』の勇名に、改めて感心していた。
ソフィーが彼女らしい自己紹介を済ませた後、カミルとエミリアも会話に加わり、農村シューンに所在する、アルバンの万屋経由で贈ってもらった上等な装備の礼を、マルテに向けてまず最初に述べた。
礼をきちんと述べたのを皮切りに、ラーヴァルトの町でハンネスから魔法の稽古をつけてもらい、エミリアが瞬間転移魔法アウトラを覚えたこと、書物『聖域の頂き』を解読中の、エルマーから得た情報を頼りに、今度は西の大陸の北方へ行ってみることなどの旅の経過を、カミルたち3人は、マルテに対してスムーズに伝えられている。
マルテはカミルたちが話すここまでの冒険譚を、非常に興味深く聞いていたのだが、一通りの旅の経緯を聞いた後、
「なるほどな。旅の進展が、かなりあったようだな。そうとは言え、西の大陸の北まで街道伝いに歩いて行くのは危険だろう。強くて旅慣れたソフィーさんが付いていてくれるとしても、ちょっと危ない」
現在のカミルたちの戦力を見た率直な感想を言うと、次のような支援を申し出てくれた。
「陸路は危険性が高いし、移動に時間もかかる。そこでだ。明日ちょうど、北の港町ゾンネサルツへ向けたうちの交易船が出港する。カミル、エミリアちゃん、ソフィーさん。君たち3人がその船に乗船できるよう手配するから、乗って行きなさい。海路を行けば安全で、移動時間も短縮できる。今の君たちにとって、これ以上のうってつけはないだろう」
マルテの言う通り、パーティにとって正に渡りに船である。カミルたちは、ここでも豪商としての自分の力を使い、旅の助けを提供してくれたマルテに深く感謝し、交易船を使った移動支援の申し出をありがたく受けた。
「ありがとうございます、マルテさん。私たちはマルテさんに助けてもらってばかりですね。まだ何もお返しができていませんが……」
「何を言うんだい、エミリアちゃん。こうして無事な姿を見せて、冒険譚を聞かせてくれたじゃないか。それだけでお釣りが出るくらい、十分に礼を返してもらっているよ。これからもカミルをよろしく頼む」
非常に手厚い支援に感謝すると共に、すっかり恐縮してしまっているエミリアの様子を見て、マルテは、「気にするな」というジェスチャーを交えながら、笑顔でそう話している。
「どんな時でも、礼を失ってはいけない」
このヨセフからの金言をきちんと聞いていたのが功を奏したのだろう。思いがけず、マルテから移動支援を提供されたカミルたち一行は、明日の朝、交易船に乗船し、ネプトスから北の港町ゾンネサルツに向けて出港することとなった。
初めての船旅に向けて興奮冷めやらないカミルとエミリアであったが、今日は2人の故郷、農村シューンで多くの用事をこなし、また、港町ネプトスに移動してから一行は、商館でマルテと話し込んでいたため、もう日が暮れている。
そうしたわけで、カミルたち一行は、今夜の適当な宿を探さなければいけないと考えていたところであったが、
「さて。夜も近いが、今日の宿をどうするかは心配しなくていい。3人とも商館の宿泊室に泊まっていきなさい。ゆっくり疲れを取って、明日の朝、ゾンネサルツへ向けて港を出ればいい」
豪商マルテは、その考えと心配を見通していたらしく、商館にこのまま泊まり、自分と晩餉を共にするよう勧めてきた。
(従伯父さんには頭が上がらないな。こんなに俺たちの旅を応援してくれるなんて)
カミルは、マルテが従甥の自分に向けている優しい眼差しに気づいたようで、なんだか面映ゆく、心の内で考えている通り、実際頭が上がらなかった。




