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竜使いの聖域~少年剣士カミルの探求記~  作者: チャラン
第2章 『広き世界ヴァイテヴェルト』探求の旅(前編)

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第33話 地を穿つ魔竜

 窓を開け放したエルマー邸の居間には、柔らかな薫風がそよそよと流れ込んでいる。そんな平穏で心地よい室内環境の中で、紅茶とお茶菓子を嗜みながらの会話は弾んでおり、エルマーは、カミルたち3人から、ここまでの旅でどのような見識と経験を得て、どのくらい成長できたかという冒険譚を、非常に興味深く聞いていた。


「そうか、ハンネスは元気にやっておったか。それでエミリアは、瞬間転移魔法アウトラを伝授してもらったと……。大したものじゃな。そのような高度な魔法を習得するとは」


 カミルたちから旅の成果を一通り聞いたエルマーは、懐かしそうな目で旧友ハンネスの健在を喜んだ(のち)、エミリアがアウトラの魔法を習得したことに、(いた)く感心している。


(ハンネスを魔法の師とするなら、あるいは……)


 エルマーはカミルたちに、ハンネスへの紹介状を託した時、そう淡い期待を抱いてはいたのだが、まさかエミリアの魔法適性がここまで高かったとは、この老翁も完全には見抜けておらず、想像以上の修行の成果を彼ら彼女らから聞いた今、感嘆の声を上げるより他はなかった。


「それでエルマー爺さん。さっき話した通り、俺たちの旅の最終目的地、『竜の聖域』を探す手がかりが途切れちゃってね。このままじゃ思うように旅を進められない。だから爺さん、『聖域の頂き』の解読が、あれからどのくらい進んだか聞きに来たんだ。今わかっている所を、俺たちに教えてくれないかな?」


 一通りの冒険譚をみんなでざっくばらんに話し終えた後、カミルは本題に入ろうと考え、身を乗り出してエルマーにそう聞いている。カミルの若い探求心を受けて、エルマーは微笑みを(たた)えながら、


「よかろう。解読はまだまだ完全ではないが、お前さんたちがこれから先どうしていくか、当分、旅の指針に困らない程度のところまでは、翻訳が進んでおる。それを今から伝えよう」


 老翁らしい落ち着いた口調で応じると、難解な古語で書かれた書物『聖域の頂き』の、解読済み部分について解説を始めた。


 エルマーは、愛用の万年筆で作成した翻訳文を取り出し、次のように内容の解説を進めている。


(カミルたちが『竜の聖域』を探す旅に出て以降、解読できた部分の内容は、ちょうど最近、不穏な噂が聞こえてきている、西の大陸の北部地域と関連していた。


『地を穿つ魔竜が、北より現れる』。まるで予言のような一節だが、不思議なことに、その部分だけはすんなりと分かり、完璧な翻訳文を書き記せたのだとエルマーは述べている。しかしながら、竜鱗の色など、その魔竜がどういった類の竜なのかは、『聖域の頂き』を詳しく読めていないため、まだ判別できていないらしい。


 そうではあるが、恐らくこの『地を穿つ魔竜』が、『竜の聖域』へ向かう上での鍵となる、宝輪を守る4匹目の竜だろうと、翻訳者のエルマーは推定している。またエルマーは復習として、カミルとエミリアに、『竜の聖域』へ行くには、レッドドラゴン、ブルードラゴン、イエロードラゴン、更には今日述べた『地を穿つ魔竜』、これら4頭の守護竜が守る、4つの宝輪を手に入れる必要があることを改めて解説し、思い出させた)


 ここまでのエルマーの解説から得られた情報は、これから3人が続けていく旅の指針に十分なるものだったが、カミルとエミリア、それにソフィーは、しばらく押し黙って何かを考えている。恐らくカミルたちは、エルマーの話を聞いたことにより、自分たちの旅が、いきなり核心に近づいてきたような気がして、一様に少々面食らっているのだろう。


 小鳥のさえずりだけがどこからともなく聞こえるエルマー邸の居間で、3人は沈思黙考を続けていたが、


「よし! 『地を穿つ魔竜』というのが西の大陸の北にいるのなら、北へ行ってみよう。行ってみないことには何も分からない」


 カミルがパーティのリーダー感を出し、エミリアとソフィーに向けてそう提案した。エミリアとソフィーは、いつになく頼もしい目をしたカミルを見て、微笑みながら同意のうなずきを返している。


 今後の方針がこれで決まり、3人パーティは、西の大陸の北へ向かうことになった。次に何をすべきか、それが分かったカミルたちが、旅の指針となる情報をくれたエルマーに礼を言い、それなりの時間を過ごした邸宅を後にしようとしたところ、


「おお! 危うく忘れるところじゃった。アルバンがいつぞや来てな。『カミルたちがシューンに戻り、ここへ話を聞きに来たら、その後、自分の店に寄らせてほしい』、そう言っておったぞ。何やら用があるのじゃろう。行ってあげなさい」


 老翁は手を叩いてアルバンからの伝言があったのを思い出し、扉から出ようとしていた3人を呼び止めると、そう伝えた。




 アルバンの伝言をエルマーから聞いたカミルたち一行は今、シューンの村の商店街に向かうため、昨日の雨によりややぬかるんでいる道を、気をつけながら進んでいる。


 農村シューンの人口規模は、当然、港町ネプトスや、森の町ラーヴァルトより小さいのだが、商店街の規模も他の栄えた町と比べれば大したことはなく、とても小ぢんまりしている。その小さな商店街の一角に、一軒だけなかなか大きい万屋(よろずや)が建っており、それなりの品揃えで、村民が必要とする日用品や、食料品などの需要を満たしていた。


 カミルとエミリアの親友アルバンが、両親と共に営んでいるのはその万屋だ。

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